報告と結果
遅くなりました!
翌日、カレン達は和人達と伴って皆一緒のタイミングで依頼達成の報告へと向かう。
「カレンーいつまでそうしてるのー?」
「〜〜〜!」
そんな中カレンだけは和人の方へと視線をやっては顔を赤くするといった事をずっと繰り返している。
昨日あの後スミレ、ローズ、ミセバにずっと責められていたカレンだが、自分の行動を自分でも信じられず、ずっと顔を真っ赤にしていた。
「お前等はGランクにしてSSランク、SSSランクの依頼を達成した。まず間違い無くランクアップするだろう。……何してんだカレン?」
そこに和人の声が響き、皆一様に頷いていたが、カレンだけはスミレの影に隠れてチラチラと和人を見ていた。
「はぁ……カレン、昨日の事は一旦忘れろ。そんな姿でギルド何か行ったら、ギルドにいる冒険者全滅するぞ?」
カレンの今の姿は和人が作った何時もの服である。だがその表情と仕草が問題だった。
「カレンよ、お主その姿がどれだけ可愛いらしいか自分で理解しているのか?」
今のカレンはスミレの服をちょこんと握って顔を赤くして俯きつつ上目遣いでこちらを見ている。そんな姿を冒険者のような危険な仕事をしている者が見たらどうなるだろうか?答えは簡単。全員漏れなく悩殺だ。
「ひゃい!ご、ごめんしゃい!」
噛んだ。
「はぁ……取り敢えず行くぞ。ギルドに着くまでに戻しておけよ?」
噛んでしまった事で更に顔を赤くするカレンに、これはダメだなと呆れつつギルドに向かって進む和人。そんな彼の後ろをヴェル、ローズ、ミセバ、スミレ、スミレにひっつくカレンと言った形で着いて行く。
十数分後、和人達の姿はギルドの前にあった。歩いてる内にカレンも落ち着いたのか、何時もの凛々しいカレンの姿に戻っていた。
「さて、ギルドに着いたな。多分依頼達成の報告でギルド内は騒がしくなるだろうが、気にしなくて良い。いちいち気にしてたら疲れちまうからな」
和人の言葉に皆了解の意を唱え、それを見て満足そうに頷いた和人がギルドの扉を開く。
中に入った和人達は何時もの視線を浴びるが、和人の言い付け通りそれらを無視してギルドの中をカウンターに向かい歩を進める。
「依頼報告だよ☆」
「報告……」
「依頼報告です」
「依頼報告だよ」
皆同じカウンターに行き、そこにいる受付嬢に四枚の依頼書とそれぞれの討伐対象の討伐証明部位を提出する。
「はい、では確認させて頂きます」
それを受け取った受付嬢は、その依頼書と討伐証明を見て一瞬固まるも、EXランク冒険者である和人の姿を見て何か納得したように頷き手続きを進める。それに和人は首を傾げた。
「SSランク依頼三つにSSSランクの依頼一つの達成を確認しました。瞬速の絶対者様、お疲れ様でした」
「は?何で俺なんだ?」
手続きを進めた受付嬢は和人に向けて意味不明な言葉をかける。
「いえ、これって瞬速の絶対者様がお手伝いなさった依頼ですよね?このギルドでこのレベルの依頼を達成出来る方は瞬速の絶対者様と瞬速の絶対者様のお連れであるヴェルフェン様くらいですし」
受付嬢は当然の事のように告げる。
「は?何言ってんだあんた?俺とヴェルはこいつらが依頼に行ってる時ずっとこの街にいたぞ?気になるなら露店の人とかに聞いてみろよ。かなり露店で買い物したからな」
「え?と言うことは彼女達が一人でこの依頼を達成したと?」
「だからそうだと言ってはおろう。私とマスターはこの街から出とらんぞ」
受付嬢の言葉に何言ってんだ?と言わんばかりの視線を向ける和人とヴェル。その視線を受けて受付嬢は恐る恐るカレン達を振り返る。
「本当ですよ?僕達は別々に行動してそれぞれでこの依頼達を達成しました」
「私達は和人様からランクを上げて来いとの命を受けましたので、それに従いました」
「アタシ達実際チョー強いしね!」
「和人様の言葉は絶対……」
受付嬢が何を言いたいかを悟ったカレン達は、受付嬢が求める答えを各々で答える。
「ああ……Gランクの登録したての冒険者がそんな強いと言われても信じられないか……カレン、スミレ、ローズ、ミセバ、取り敢えず魔力を解放しろ。きちんと加減はしろよ?」
そこまで聞いて漸く受付嬢の言った意味不明な言葉の理由を理解した和人は、カレン達にそう指示をする。
「「「「はい」」」」
和人の指示に皆同時に答え、己が持つ魔力を解放する。勿論加減してあるが。
「な、なんだこの魔力⁉︎」
「俺は魔法は辛っきしたが、その俺でも感じるぞ!」
「うそでしょ……?」
「なんだよこれ!」
「うっ、うぉえーーー!」
カレン達が解放した魔力を浴びて、ギルド内にいた者達に被害が出る。中にはあまりの魔力に吐いている奴もいる。
「お、抑えて下さい!分かりました!分かりましたから!」
それは受付嬢も例外では無く、カレン達の魔力に圧倒されて動けなくなっていた。それでもただの受付嬢が辛うじてであるが声が出せるのは和人がさりげなく解放された魔力による圧力を緩和しているからである。ただし自らの周囲だけなので他の冒険者達は直にカレン達の魔力を浴びている。
「OKだもう抑えて良いぞ。恐らくこの受付嬢もお前等の能力は分かっただろうし、何よりここであれだけの魔力を解放したんだ、直ぐにギルマスが飛んで来るだろ」
和人がまさにそう言った直後、カウンターの奥の扉が開いて一人の美しい女が現れた。
「今の魔力は君達かな?」
その女は見た目通りの美しい声でそう尋ねる。だが和人はその女の声や見た目より、女の顔のただ一点を見つめていた。
「僅かに尖った耳……エルフ族か」
そう呟いた声が聞こえたのだろう、女は和人の方に視線を移し美しい笑顔で答える。
「そうよ。エルフを見るのは初めてかしら?」
「ギルドマスター!」
受付嬢涙目になりながら現れた女の事を呼ぶ。自分の質問を遮られた事にほんの僅かに眉尻を吊り上げるが、先程感じた魔力を近くで浴びていたのだろうと言う事に気付き直ぐに表情を戻す。冒険者でも無い一般の受付嬢からしたらあの魔力は本当に恐怖のような物だからだ。
「とにかく今の魔力は君達で良いのね?……ちょっと奥に来て貰えるかしら?」
ギルマスと思われる女の言葉に従って良いか和人に許可を確認するカレン達に、和人は行って来いと首を動かす事だけで伝える。
「何してるの?君も来るのよ」
そんな和人を見て女は和人も来るようにと伝える。それに理由が分からないとばかりに首を傾げる和人。
「君でしょ?彼女達にこんな依頼受けさせたの。普通だったらまだ若い女の子にこんな危険な事させるなんて最低な人って判断するんだけど、どうやら君は彼女達の実力を知っててこの依頼受けさせたようだし、君にも話を聞きたいのよ。ああ勿論そちらのお嬢さんもよ?」
女はそう言ってヴェルにも視線をやり、扉の奥に消えて行った。
「はぁ……じゃあ行くか」
「うむ」
「はい」
「はい」
「は〜い」
「はい……」
和人達は奥の扉を潜り、自分等を待っていたであろう女に着いて行く。
「ここよ」
着いて行く事数分、女はそう言って一つの部屋の前で止まった。
「どうぞ。入ってらっしゃい」
女は扉を開けて中に入って行ったので、和人達もそれに続いて中に入る。
部屋の中は思ったよりも立派な作りになっており、部屋の中央には見るからに高級な物と思われるソファと机が置いてあり、女その奥にある執務卓みたいものに腰を掛けていた。
「座って」
女はそう言って中央にある机とソファを手で指す。
和人達もここで逆らう理由は無いので、言われた通りソファに座る。ソファはやはり高級品のようでとても良い座り心地であった。
「で?用件はなんだ?」
ソファに座った和人は単刀直入にそう尋ねる。ここで一々腹の探り合いをしないと言うのは和人らしいと言えるだろう。
「いきなりね……まあ君達自身で理由は分かっているんでしょ?」
女も和人の直球な尋ね方に少し面食らったのか表情が僅かに崩れた。
「一々面倒な腹の探り合いなんかするつもり無いんでな」
「はぁ……」
そう言い切った和人に少し呆れの混じった溜息を付いた女はこの男には腹の探り合いは効かないなと判断し、漸く話を進める。
「取り敢えず自己紹介から。私の名前はリリアナ・フェアリー。お察しの通りここのギルドマスターをやっているわ」
女ーーリリアナはそう言って男女関係無しに誰もが見惚れるであろう笑顔を見せる。
「そうか。俺はカズト マガミ。EXランク冒険者だ」
「私はヴェルフェン。SSSランク冒険者じゃ」
「僕はカレン。この前登録したばっかりのGランク冒険者です」
「同じくGランク冒険者をやらせて頂いておりますスミレと申します」
「アタシはねー、ローズって言うの!カレン達と同じGランク冒険者だよ!」
「ミセバ……皆と同じ……」
ただしどんなものにも例外はある。その証拠にリリアナの誰もが見惚れる笑顔は和人達には一切効かなかった。
「……君が和人君だったのね。会えて嬉しいわ。それにヴェルフェンさんも。この史上初のEXランク冒険者さんとこの世界に誕生した6人目……いや、和人君も僅かな期間だけとは言え、SSSランカーだったから7人目のSSSランカーかしら?そんな君達が面倒見るそちらのお嬢さん達は何者かしら?」
リリアナとしても自分の容姿にはそれなりに自身があったので、それが全く効かなかった事に複雑な表情を見せる。最も傍から見たらヴェルやカレン達の方が圧倒的に美人、美少女なのだが。
「こいつらは俺とヴェルが実力を見初めた奴等だ。こいつらは俺とヴェル相手に僅かにだが戦える。そんな実力者をあんたらはGランク程度にしといて良いのか?」
和人はほぼ確信を突いた言い方でそう語る。即ちカレン達のランクを上げろと言う事だ。
「本当にストレートな子ね君……でもそうね、君達のようなこの世界でトップクラスの実力を持つ者相手にそこそこ戦えるならランクを上げても問題ないわね。普通はそんな嘘通じるかと一蹴するんだけど……あんな魔力を見せられたら信じるしかないわね」
そう言ってリリアナは自らの卓を探り、四枚のカードを取り出す。
「これはSSランクのギルドカードよ。君達ならSSSランクでも通じるかもしれないけど、流石に今まで5人しかいなかったSSSランカーこの短期間でポンポンと輩出するわけにはいかないの。悪いけどそこは理解してちょうだい」
最後に世間体もあるしねと言って和人とヴェルをちらりと見たリリアナは四枚のカードをカレン達にそれぞれ渡していく。
「良かったなお前等」
SSランクのカードを受け取ったカレン達に和人はそう言って微笑みかける。
「は、はい!」
「ああ……なんて優しい笑み……」
「和人様かっこいー……」
「かっこいい……」
「マスター……」
「これは凄い破壊力ね……」
その微笑みにこの場にいる者達は皆顔を赤くする。それはリリアナも例外でなく、思わず呟いてしまった。そしてそれを誤魔化すように次の話題を切り出す。
「つ、次の話ね!」
「次?まだ何かあるのか?」
リリアナの言葉にもう帰ろうとして腰を上げ掛けていた和人はソファに座り直してリリアナを見つめる。
「ええ。と言うよりこっちの方が重大よ。和人君とヴェルフェンさんを呼んだ理由でもあるし」
そう言って再び卓の中を探り先程とは別のカードを取り出した。
「おい、それは……」
「ええお察しの通りEXランクのカードよ」
和人がそのカードを見て疑問を唱える前にリリアナが先に答えを述べた。
「ヴェルフェンさんには和人君と同じEXランクになって貰います」
その言葉にギョッとした表情を見せるヴェル。
「何故私がランクアップするのじゃ?」
別にそこまでの事はしていないと思うが……と続けるヴェルに、リリアナはまってましたとばかりに説明し始める。
「ヴェルフェンさん貴女……私を誤魔化せるとでも思った?これでも私は元SSランク冒険者でしかも魔法に精通したエルフ族よ?貴女の隠してる魔力に気付かないとでも?」
リリアナの言葉に罰の悪そうな顔をするヴェル。どうやら図星のようだ。
「貴女の隠してる魔力は正直尋常じゃないわ。それこそ一人で世界を相手にして余裕の勝利を出来る程よ。私もこうして普通に話しているけど、内心かなりビクビクしてるわ。最も……その魔法にかなり精通している私にすら全くと言っていい程魔力を悟らせない和人君の方が圧倒的に不気味だけど……」
そう言って和人の方に視線をやるリリアナ。だが和人はそれに反応することなくそっぽを向いている。
それに苦笑を浮かべるリリアナ。なんだかんだ言って意外と肝の座っている人物のようだ。
「さて、この話もここまでにしましょう。とにかくカレンさん達はSSランク、ヴェルフェンさんはEXランクになって貰うわ。これは決定事項ですからね」
そう言ってリリアナはヴェルに和人と同じEXランクのカードを渡して席に戻った。
「まあ別にあって困るもんじゃないし、貰っておけ。それに史上二人目のEXランク冒険者なんだぜ?胸を張って受け取ればいいさ」
「マスター……分かった私はマスターの為にもこれを堂々と受け取らせて貰う!」
「ヴェル……」
「マスター……」
「和人様ー!場所を弁えて!」
「そうです!寧ろ私達もその輪に入れて下さい!」
「うーん……よくわかんないけどとにかくアタシもー♪」
「和人様……」
二人の甘い空間が出来そうになり慌てて止めるカレン達。その光景は完全な人外のEXランク冒険者と人外に軽く踏み込んでいるSSランク冒険者が作り出す光景とは思えず、仲の良い夫婦とそれにべったりな子供達と言った家族のように思えた。リリアナもこの光景に頬を綻ばせ、暫しこの光景を楽しでいた。願わくばこのまま何事も無く平穏が続けば良いとこの時は思わずにはいられなかった。
???sid〜
「アナザリア……まったく、何処までも忌々しい世界よ……」
「だがそれもこれまでだ」
「ああ、”あれ”が実行されればあの世界は終わりだ……」
「ふふふ……邪魔な世界神も何故か今はいないようだしな……」
「我等があの世界の支配者となる日も近いな……」
「しかり、しかり。”あの方”ももう時期目覚めるであろう……」
「”あの方”と”あれ”が揃えば遂に我等の時代が来る」
「それまでの間、束の間の平和を噛み締めるんだな、愚かな下等生物達よ……」
部屋と言うにはあまりにも不気味過ぎる空間にて、四つ影が何やら暗躍していた。やがてその影が一つ二つと消えて行き、最後の一つが消えた時、そこには誰かがいたという痕跡すら残っていなかった。
時代がゆっくりと動き出す……………
これにて「神獣激突編」終了です。次回から六章に突入します。また、番外編を入れるかどうかは読者様の声と作者の気分です。




