契約1
「契約?」
「ああ」
先程まで戦闘があったとは思えない程の静寂に包まれた聖戦の平原にて、和人は目の前に倒れ伏せている二匹の神獣、応龍と鳳凰に契約をしないかと持ち掛ける。
「しかし私達程の位になると、契約など出来るわけがありません」
鳳凰がそう言うの聞いて、和人はうーんと首を傾げ、隣に立っているヴェルを見る。
「ヴェルとお前等ってどっちが格上なんだ?」
「それは勿論竜皇様です。僕等は神獣と呼ばれていますが、竜皇様はその更に上位に君臨されています」
ヴェルの前だからなのか、丁寧な口調で喋る応龍の言葉を聞いて、なら問題無いなと頷く和人。
「ヴェルと俺は契約している。お前等より格上のヴェルが俺と契約出来ているんだから、お前等も契約は可能だろう」
和人の言葉に明らかに動揺する二匹の神獣。 先程ヴェルが和人に跪いたのを見て、まさかとは思ったが、その事を改めて言われると、目の前に立つ少年が竜皇たるヴェルよりも格上の存在なのだと、嫌でも認識させられる。
「まさか本当に……竜皇様より……」
応龍は狼狽しながらヴェルの方を見る。その目は嘘だと言って欲しいと言うことを如実に表していた。
「本当の事じゃ。私は以前マスターと戦い敗北した。何柱もの神々を同時に相手にしても引けを取らなかった私が、たった一人に敗北したのだ。あの時は本当に恐ろしかったよ」
だが、とヴェルは一拍を置き、言葉を紡いだ。
「私はマスターと契約して本当に良かったと思っておる。私はマスターと一緒にいて、色々な事を知れた。もう数えるのも億劫な程の長い年月を生きたが、マスターと居ると、それまで知らなかった事を知れた。
マスターとの契約は絶対お主等の為となるだろう。私がそうだったように」
その話を聞き、応龍は気付いた。この方は心かの底から本当に目の前の少年を慕っている。そして、自分等を勧誘する言葉にも嘘偽りが無い、と。
「分かりました。竜皇様がそこまで言う人物に従ってみます。和人様、どうか僕と契約を……」
「な⁉︎正気ですか応龍⁉︎」
和人に従う事を決めた応龍に、鳳凰が怒鳴りつける。
「幾ら強いと言っても私達神獣が人間に従っていいわけがありません!目を覚まして下さい!」
「和人様……僕に契約の魔法を……」
鳳凰の叱咤をどこ吹く風と受け流し、応龍は和人に向かい首を垂らさし、服従の意を示す。
「本当にいいんだな?」
「はい、僕は竜皇様が言った事を信じてみます。この心と体を貴方様に捧げましょう」
「応龍!」
遂に鳳凰が、応龍に向けて炎を吐き出すが、和人は、自分が身に纏っている漆黒のロングコートを応龍を守るように翻し、鳳凰の炎を完全に防いだ。
「仲間を殺す気か?」
「くっ……」
和人の言葉と同時にヴェルが和人達と鳳凰の間に入り、手出しはさせないとばかりに威圧を飛ばす。
鳳凰はそれに怯んだのな、少し距離を取り、遠巻きに和人達を睨みつける。
「『我、汝を従えし者。汝、我が呼び声に応えその力を我が為に振るえ。【契約の儀】』」
そんな鳳凰を尻目に、和人は応龍との契約を交わす。
「これが和人様の力……ははっ、どう足掻いても勝て無い訳だ……」
契約をした事により、お互に互いの力が流れ込んだ。それによって和人の力を知った応龍は自らとの圧倒的力の差を知り、冷や汗を流しながら呟く。
「契約完了だ。さて、次は鳳凰、お前だ」
「わ、私は屈しません!人間と契約を交わすくらいなら、私は死を選びます!」
自分の名前が出て、ビクリと反応を示した鳳凰は、大声で喚き散らす。
「鳳凰、和人様は……」
和人は応龍の言葉を途中で遮り、ゆっくりとした足取りで鳳凰に向かって歩みを進める。
「人間じゃなければいいんだな?」
鳳凰の目の前にまで来た和人は、今まで消していた魔力と神気を解放した。
「あ、ああ……これは……神気……」
「その通り。俺は人間の形をしているが、種族は魔神の超越神だ。人なんてとっくに捨てている」
「超……越……神……」
和人の膨大な魔力と神気に当てられた鳳凰は、超越神と言う単語を復唱した。
「ああそうだ。で?俺は人間じゃないわけだが、契約してくれるのか?」
和人の声に何処か上の空の如く永遠と復唱していた超越神と言う単語の復唱を止め、黄金の双眸で和人の目を見つめる。
やがて見つめていた双眸をゆっくりと閉じ、和人に服従の姿勢を取る。
「分かりました……貴方様の目を見て確信しました。私じゃ貴方様には絶対に及ばない、と……数々の非礼を許して頂けるのなら、是非私とも契約を交わして下さい……」
和人はゆっくりと言葉を紡ぐ鳳凰を見つめ、やがてその瞳を慈愛に満ちた物に変え、鳳凰の頭に手を乗せる。
「和人様……?」
「契約を持ち掛けたのは俺の方だ。お前が悪く思う必要は無い」
疑問の声を上げ和人を見上げる鳳凰の頭を、乗せた手を動かして撫でつつ、慰めの言葉を掛ける。
「『我、汝を従えし者。汝、我が呼び声に応えその力を我が為に振るえ。【契約の儀】』」
そして契約の魔法を発動させ、先程同様にお互いの力を流し込み、契約を完了させる。
「この力……成る程、応龍が言った言葉はこう言う意味だったのですね……」
先程の応龍と同様に和人の力を知り、自らが戦った者達の圧倒的なまでの強さを認識した。
「さて、後はあそこで寝てる二匹だ。ヴェル、悪いけど起こして来てくれ」
「了解じゃ」
自分が気絶させた二匹の神獣に視線を向け、ヴェルに起こして来るように頼む。
「行くぞマスター!」
気絶している九尾と霊亀の元に着いたヴェルが、掛け声と共に九尾を蹴り飛ばして来た。
「OKナイスパス」
そして和人はそれを踵落としして地面に減り込ませる。
「次行くぞー!」
「あいよ!」
そして今度は霊亀を同じように蹴り飛ばして、和人はそれを九尾同様に踵落としで地面に叩き付けた。
「「酷い⁉︎」」
それを見ていた応龍と鳳凰は揃えて声を上げた。
「おら起きろー」
それを和人はさらりと流し、九尾と霊亀の顔をペチペチと叩く。否、和人はペチペチと叩いているつもりだが、実際は毎回顔を叩かれる度にゴンゴンと鈍い音を立てて地面にヒビを作っている。
「う、うーん……」
「痛い……」
叩かれる事数分、漸く目を覚ました二匹の顔は、九尾の場合は大きなたんこぶを幾つも作り、霊亀は、頭部を覆う甲羅がボロボロになっていた。
「「「「・・・・・」」」」
全員は無言になり、和人は無言で回復魔法をかけて二匹の顔を元通りにした。
「よお、目が覚めたか?早速だが俺と契約をしないか?」
そして何事も無かったかのように契約を持ち掛ける。
「流石マスターじゃ!」
ヴェルも先程の光景を無かった事にして、和人が善意で回復魔法を掛けたと言う事に脳内変換をして、和人を讃える。
「ねぇ鳳凰、僕達あれに慣れれるかな……」
「分かりませんが慣れるしかありませんよ……」
そして、和人とヴェルから少し離れた所で、応龍と鳳凰はそんな光景に冷や汗を流しながら会話をしていた。
次回は九尾と霊亀の契約話です。
何かご指摘がありましたら、どんどんして下さい。随時直して行きます




