ブサイク、現状を把握する
魔法が使えない絶望から立ち上がるのに、貞一はどれだけの時間蹲っていたであろうか。起き上がったのはグギュルルルルと、まるで獣のうなり声のような腹の音が響き、ご飯の催促をしてきたからだ。貞一にとっては、腹が減っては戦はできぬどころか絶望すらできぬのだ。
のそのそと立ち上がり、リュックからパンと水筒を取りだす。パンは二つ入っていたが、逡巡の末一つだけ取り出した。
「まずは腹ごしらえからでござるねぇ。無いものは無いでござるよ。せっかくの異世界、前を向いて生きてくでござる!」
ゴッドは世界最高クラスの素質を授けると言っていたでござるよ。つまり、何かしらの才能が拙者には備わっているでござる。ゴッドは異世界にも連れて来てくれたし、嘘はついていないでござるから、拙者はその素質がなんなのか見つければいいのでござるよ。
転生ではなかったが、ゴッドはもともと送ると言っていたため、転送で間違っていない。それに、素質は魔法とも言っていなかったので、魔法が使えなからといってゴッドが嘘をついているわけでは無い。
ゴッドを疑ってもしょうがないし、まだまだ異世界生活は始まったばかりなのだ。貞一は自分に何の素質があるのか、ゆっくりと探していくことに決めた。
それに、魔法に関しても正しい詠唱方法があったり、魔法武器的なアイテムが必要かもしれないのだ。まだまだ諦めるのには早すぎる。
「ん! 意外にいけるパンでござるな! フランスパンではなくて塩パンの類でござったか! このバターとほんのり塩味のハーモニーがたまらないでござる~!」
リュックに入っていたパンは、外はカリカリだが中はふわふわもっちりで、塩味がいいアクセントのパンだった。神が用意しただけあり、味は抜群のうまさだ。
美味しい美味しいとあっという間にパンを食べ終え、水筒の水を飲む。やはり水筒の中身は水だった。それもほんのり容器の革の臭いが混じっており、美味しくない水だった。
「ふぅ、まだまだお腹が空いているでござるが、我慢でござる」
ペロリとパンを食べ終えた貞一は、今後の方針を定めるため頭を働かせる。
「うーむ。まずは街や村を探す必要があるでござるね。そこでこの世界のノウハウを学ぶのが定番でござる」
貨幣のことや職業のこと、食べ物や服など、この異世界で生活するための基礎知識を学ぶ必要がある。言語の問題は大丈夫なのかと思うが、貞一はそのあたりを特に考えていない。ゴッドが住みやすい世界と言ったのだ。言語が違う世界が住みやすい世界とは貞一には思えなかったので、きっと魔法的なアレで万事うまくいっているのだろうと考えていた。
「でも、ここがどこだかわからないのが問題でござるね。第一異世界人を発見する必要があるでござる」
貞一のいる場所は小高い丘のため周りを見渡せるが、人の住んでいそうな場所は見つけられなかった。丘の周りは樹々が生い茂る森。闇雲に突っ込んでも確実に遭難するオチが見えている。
どっちへ進むべきか貞一が目を凝らして周囲を見ていると、森の向こうに草原らしきものがかすかに見えた。
「あれはもしや草原でござるか? ・・・草原のように見えるでござるね。草原であれば、道や村もあるかもしれないでござるよ!」
この近くに人が生活している場所があるのなら、それは森の中ではなく、開けた草原に道や拠点となる村を作るだろう。
「他に手がかりはなさそうでござるし、あれを目指して進むでござるか」
時刻はちょうどお昼時。頑張って進めば、夕方には草原へ辿り着きそうな距離だ。夜の森で探索なんて絶対したくはない。真っ暗で危ないし、危険な動物や魔物だって出るかもしれない。
・・・うん?
ま、魔物でござるか?
「ちょ、ちょっと待つでござるよ!? ここは異世界・・・魔物がいたっておかしくないでござる! いや、いない方がおかしいでござるよ!」
その結論に至ったとき、貞一はその場で縮こまる。少しでも自分が見つからないようにする姿は、外敵に怯える小動物のようだ。
実際にはずんぐりむっくりな横にも縦にもでかい貞一がやっても、可愛さは皆無で隠れられてもいない。そもそも、ここは見晴らしのいい丘の上。その姿は滑稽ですらあった。
しかし、貞一の怯える姿を笑える者はいるだろうか? チート的な魔法が使えるわけでも運動が得意なわけでもないのに、人里離れた未開の森にひとりぼっちなのだ。こんな状態で魔物でも現れたら、貞一など丸々太った美味しい餌以外の何物でもない。いや、魔物以前に肉食の動物に見つかってもアウトだ。貞一の今の現状は、常に危険が隣り合わせの極限状態なのだ。
周囲を得体の知らない魔物が彷徨い、肉食獣が涎を垂らして徘徊していると思うと、心細くて恐怖に押しつぶされそうになる。
「―――はっ! もしや拙者の素質とは剣の腕前ではなかろうか!? 実は拙者この短剣もめちゃくちゃ上手く扱えるのでは!?」
ゴッドの言う素質が剣の才能を指していると考え、シュバッ!と口で効果音を言いながら指を切らないように慎重に腰に下げた短剣を抜く。もしも剣の才能があれば、不意に襲われても何とか対処できるかもしれない。
自分の体型的に剣士は無いと思っていたが、もし剣の才能があれば願ったりかなったりだ。バッタバッタと魔物をなぎ倒す最強の剣士を目指すのも悪くない。
「拙者の美技に酔いしれるがよいでござる!!」
期待はほどほどに、貞一はフェンシングのように剣を前へ突いたり、ヘロヘロと腰が引けながら袈裟斬りに短剣を振り下ろす。
数分後。ぜーはーぜーはーと肩で息をしながら、貞一は短剣をしまう。結果、剣の才能は恐ろしいほどないことがわかった。また一つ、貞一は絶望した。
絶望に慣れてきたのか夜が刻々と迫る焦燥感からか、貞一は体力が回復するとサッと起き上がり、遠くの草原を目指して歩き始めた。
今はまだ昼で、太陽も高く周囲は明るい。だがこれが夜になったら?
ぶるりっ
貞一は夜のことを極力考えないようにしながら、残り数時間のタイムリミットに追われるようにひたすら歩き続けた。
◇
時刻は15時過ぎ。貞一は倒木の上に腰を下ろし、疲れ果てた様子で休息を取っていた。
「も、もう歩けないでござる・・・フゴッ! はぁ・・・はぁ、この靴は歩きにくいし・・・フゴッ! 道無き道は足を取られて・・・フゴッ! もう嫌でござる・・・」
鼻を鳴らしながら、荒い息を整える。すでに貞一は満身創痍で、滝のような汗を流しながら、転んで打ち付けた部分を撫でさすっている。
山登りなんて小学生以来したことのない貞一にとって、人が踏み固めてもいない森の中を歩くことは、想像以上に体力を消耗させられた。のたうつように這っている太い樹々の根や、大小さまざまな窪みは天然の落とし穴のようだし、傾斜では落ち葉がまるでローションの様に足を滑らせてくる。そのせいで貞一は斜面を転げ落ちて足を捻ってしまうし、せっかくの異世界風格好も汗だくで泥まみれのみすぼらしい恰好へとクラスダウンしてしまった。
最初は魔物がいるかもしれないと注意しながら進んでいた貞一であったが、30分もすれば周りを気にすることなくただひたすら己と戦い続けながら歩き続けていた。
徐々に日が陰り始め、夜の訪れを感じさせる。ここは森の中。ただでさえ鬱蒼と生い茂る樹々が日光を遮り、薄暗くじめじめしているのだ。刻一刻と日は沈んでゆき、森の中では加速度的に暗さが増してくる。
少しでも進まなければという焦りと、もう一歩も動けない座ったのが間違いだったでござる足に根が張ったでござる、という相反する心が貞一の中で激しい戦いを繰り広げる。
運動不足の貞一は激しい葛藤の末、出発することを選択した。休んだことで幾分回復はしたが、それでも貞一の足は棒のようで動くな立ち上がるなと悲鳴を上げている。それでも出発を決意したのは、時間が出発側に味方したためだ。
「ふぅー、休憩は終わりでござる。さ、行くでござるよ拙者! ファイトでござる!」
自分に喝を入れ、貞一は重い重い重い腰を持ち上げて、目的の草原を目指して進んでいった。
◇
貞一は再度絶望していた。その絶望度合いは深く、今までの比じゃないほどの絶望である。
既に日は沈みかけており、いつ日が沈んで真っ暗になってもおかしくない状況だ。折り重なった樹々が夕日を遮ることで宵闇の様に暗く、風に揺らされた枝葉の音が不安を煽り心細さが増してゆく。
そんな中、貞一は行ったり来たりと同じ場所をどすどす動き回る。
「あ、あっているでござるか? ほ、本当に道はこっちにあるでござるか? もうずいぶん歩いたでござるよ? 本当にこっちなのでござるか・・・?」
貞一は迷っていた。迷子・・・いや、遭難である。
ずぶの素人が備えもなしに森を真っ直ぐ歩くことなど、土台無理な話なのだ。ただまっすぐ歩くだけでも大変なのに、転んだり休んだり歩きにくそうな場所を迂回して進めば、方向感覚なんて狂って当たり前である。
そして、追い打ちをかけるように陽が沈んでいく。ただでさえ迷っているという精神的ストレスが止まることを知らないのに、周囲が早送りのように暗くなっていくことで、貞一は軽いパニックに陥っていた。
「ややや、やばいでござるよ! も、もちつくでござる拙者! 慌ててもいい案は出ないでござるよ!」
貞一はその場で立ち止まり、突き進むべき方向を思案する。
一度ここで夜を過ごし明日の朝に出発する、という考えは論外である。昼間の明るい時間でさえどこか不気味な雰囲気の漂う森の中で一泊するなど、過剰ストレスで死んでしまう。貞一は小動物よりもストレスに弱いのだ。
ならどちらに進むでござるか? やはり初志貫徹で進んできた方向に? でもその方向があってるかわからないのが問題なんでござる・・・。時間も無いでござるし、間違ってたらアウトでござるよ・・・。一体どうすれば―――
グシャリッ
貞一がぶつぶつと考え込んでいると、離れた場所から草木を踏みしめるような音が聞こえた。
一瞬で硬直し、息すら止めて縮こまる貞一。まるで心臓を握りしめられたように息苦しく、心臓はうるさいくらいに鼓動を打つ。静かになることで、草木を踏む音が気のせいではないことが伝わってしまう。そして最悪なことに、その足音は徐々に貞一へと近づいて来ているようだ。
貞一は油が差していない錆びたロボットのように、ギギギと音のする方へと振り返る。
貞一が振り返った先には、無数に蠢く影がいた。薄暗がりの中、目を凝らせば深緑色の2足歩行の生き物が、周囲に散開しながらこちらへと向かってきている。
決して速くはない。走っているわけではないのだ。けれど歩くにしては早い。それはまるで、獲物に気付かれないように接近を試みる猟師のようであった。
それらは手に様々な武器を所持し、動物の皮でなめしたような服を着ていた。鼻と耳は尖がっており、身長は140cm程度だろうか。小さいが、侮れるほどの小ささではない。身長の割に体形はがっちりしており、筋肉質なゴツい見た目をしている。
決して貞一から目を逸らさないが、周囲と歩調を崩さずにじりじりと近づいてくる。適当に散らばっているように見えるが、そこからは最低限の規律を持って陣をなしていることがうかがえた。
その様子から導き出される答えは、深緑色のそれらはある程度の知能を持っているということだ。
しかし、そんなことはどうでもいい。冷静ならばいざ知らず、極限状態の貞一がそんな詳しく観察できるはずもない。
重要なのは二つ。何者かが貞一に向かってきているということと、それが深緑色をしているということ。
「ゴ、ゴブリンだ・・・」
貞一は広く知られている一般的な魔物の名を口にした。貞一のほうへと向かってくる者たちを、貞一はゴブリン以外にぴったりな言葉が浮かばなかったのだ。
その瞬間、貞一の中で何かが爆発した。
「ぶ、ぶひゃぁあぁぁああああああ!!!!!」
豚のような奇怪な叫び声を上げながら、その短い豚足、もとい足をフル回転させながら走り出す。ペース配分や逃げだす方向など一切考えず、貞一はゴブリンが来る方向とは真逆へ突き進む。
逃げることに全力を出したことが功を奏したのか、今までであれば転んでしまったであろう凸凹な道を、貞一は全力で駆けながらもなんとかバランスを崩さずにすんでいた。
「ギャッギャギャヤ!!」
貞一が逃げ出したことを確認した深緑色の生き物、もといゴブリンは、何事かを喚きながら走り出す。ゴブリンは木の根や凸凹な地面をものともせず、余裕を持って貞一を追い込んでゆく。
異世界での初遭遇が人じゃなくてゴブリンとはどういうことでござるかぁぁぁああぁぁああ!!?? このままではくっ殺一直線でござるよぉぉおおおお!!!
貞一は必死に走った。その必死さは、彼の人生の中で断トツに一番であろう。本人は、100mを10秒切らんとするほどの速度で走っていると思っているほどだ。
しかし現実は無常だ。
10秒も経てば貞一の息は上がり、その足は鈍重な亀を彷彿とされるほどの遅さへ衰退してゆく。ぶっちゃけ早歩きのほうが速いのではないかという速度だ。
「ゴブリンは弱いからゴブリンなんでござるぞぉおお!! 定番! テンプレは! 守るべきでござる!! 武器持って大勢で襲われたら死んじゃうでござるよおおおお!!」
そんな速度で逃げ惑う貞一を見て、1体のゴブリンは弓をつがえた。あんなにゆっくりとした動きなら、弓が当たると考えたのだろう。
周囲のゴブリンは弓が誤射して当たらないように射線を開け、貞一に接近していく。接近を止めない様子から、弓が命中すれば袋叩きにするつもりなのだろう。
ビュンッッ―――
貞一は、頭のすぐ横、耳元を何かがものすごい速さで通過したのを感じた。思わず縮こまってしまう貞一が見たモノは、地面に突き刺さった矢であった。
明確に自分を狙った攻撃。それも少しでも横にずれていたら死んでいたであろう軌道だ。
"死″
貞一はそれを理解した瞬間、心が恐怖に支配され、思わず足がもつれてしまう。走っていた慣性も相乗し、貞一は派手に転がってしまった。
慌てて立ち上がろうとするが、あまりの恐怖に腰が引けてしまったようだ。立ち上がろうにも力が入らず、重い腰はピクリとも動かない。
それでも貞一は、少しでもゴブリンたちから離れようと必死に這いずった。しかし、それを嘲笑うかのように、ゴブリンは貞一との距離を詰めていく。
このままではいずれ追いつかれ、後ろから攻撃されてお終いだ。貞一はゴブリンが貞一を逃がす気がないことを悟り、絶望とともにわずかな希望に賭け振り返った。尻もちをついたような姿勢のまま、貞一はゴブリンたちに手のひらを向け、必死に呪文を紡ぐ。
「ファ、ファイアーボール!! アースストーム! ライトニングサンダー!! アイスランス!!!」
思いつく呪文を次々に口に出すが、結果は丘の上と同じ。手のひらからは、火も土も水も風も雷も何もでない。
ゴブリンたちはその姿を見て、卑しく嗤う。
「ギャギャ!!」
まるで「格好の餌だ。間抜けな豚だ!」とでも言うかのように、嘲笑している。しかし、だからといってゴブリンたちに油断があるかといえば、決してそうではない。
一匹のゴブリンが他のゴブリンに指示を出している。確実に仕留めるために、ゆっくりと貞一を囲む包囲網を小さくしているのだ。数匹は周囲を警戒し、他のゴブリンは互いに目配せをしながら機を窺っている。
指示を出しているゴブリンは片耳がボロボロで、頬にかけて爪で引っかかれたような傷跡が残っている。リーダー格のゴブリンは、その傷を受けた時に、追い込まれた獲物が時に予想外の力で襲ってくることを学んだのかもしれない。そして、確実に目の前の人間を殺せなければ、巣へ戻った時に自分たちがボスに殺されてしまうことも知っている。このゴブリンたちは優秀だからこそチームを組んで偵察兼狩りを行っているが、自分たちの代わりなどいくらでもいることを先代が身をもって教えてくれた。
ゴブリンの違いなど判らない貞一ではあるが、なんとなくこのゴブリンたちが若輩ではなく、知識と経験を兼ね備えた大人のゴブリンだと感じられた。
せめてゴブリンが油断し貞一を雑魚だと侮ってくれれば、貞一にも逃げ出せる可能性は万が一、いや億が一の確率でもあっただろう。だが、ゴブリンたちの様子を見て、貞一は自分が助からないことを理解してしまった。
「火の精霊よ、力を与えたまえ! ファイヤーアロー!! 全てを包み込む母なる光よ、卑しき者どもに裁きを下せ! ホリーブラスト!!」
それでも、貞一は呪文を紡ぎ続ける。もう貞一にはこれしか助かる望みはないとばかりに、恐怖をごまかすために、貞一は叫び続ける。
この無意味な詠唱は、実はゴブリンたちに影響を与えていた。それはもちろん魔力的なモノではなく、警戒を抱かせるという意味でだ。ゴブリンたちはすぐにでも貞一を襲えたが、貞一が命乞いを言っているのでも、威嚇の言葉を発しているのでもないことを理解していた。それ故に、貞一が何かをしでかすのではないか、自分たちのボスのように摩訶不思議な力を行使するのではないかと、警戒を高めていたのだ。
だがそれでも、貞一のこけ脅しの呪文では、ゴブリンたちの足を止めるほどの警戒は抱かせられなかった。
「深淵なる闇よ! 漆黒よりも暗きその魂よ! 邪魔するものを討ち捨てろ! ダークネスフォール!!」
ゴブリンたちの距離が近づいていくにつれ、貞一が紡ぐ呪文は早さを増していく。どれか正解はないか、奇跡的に呪文が成立しないか、その願いを込め、必死に早口言葉のように呪文を紡いでいく。
「ライトニングバースト!! サンドフィールド!! エアリアルカッター!!!」
最早貞一にも何を喋っているかもわからないほど、パニックになっていた。貞一とゴブリンたちとの距離は、気が付けば5mも無いほど肉薄している。
ここまで近くなると、貞一はゴブリンたちの表情まで確認できた。その表情は残忍で、弱い者をいたぶり殺すことに愉悦を見出している顔をしていた。
―――それは、学生時代に貞一をイジメていた奴らとそっくりな顔だった。
「も、ももももうだめでござる! これまででござる! 来るなでござる!! あぁァアアあぁああ!!! 死にたくないでござるよ!!!」
とうとう貞一は呪文を紡ぐこともやめ、悲鳴交じりに叫び続ける。それはどこからどう見ても屈した弱者のそれで、ゴブリンたちは先ほどの喚きが無意味に終わったのだと理解した。
危険がないのであれば、やることはただ一つ。ゴブリンたちは互いに頷き合い、貞一との最後の距離を詰めるべく、獲物を掲げて走り出した。
その絶望的な光景を見て恐怖でパニックに陥っていた貞一は、思わず訳の分からない言葉を叫んでしまった。
後々になっても、なぜこの言葉が出てきたか貞一にはわからなかった。普段目にしていた言葉だったからか、ゲームのクランメンバーとチャットしているときに良く書き込んでいたからなのか、どれが理由かはわからない。
けれど、この言葉を最後の最後で引き当てた当時の自分を、未来の貞一は手放しで絶賛した。
その言葉とは―――
「フォ、【フォカヌポウ】ッ!!!」
その言葉を叫んだ瞬間、最も接近していた目の前のゴブリンが―――爆裂四散した。




