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【完結】竜の国——記憶を失った平民の少女は侯爵令嬢になり、そして……  作者: 一理。
ヴァルム魔術学院

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二年生(9)——夏期休暇


「マリアが……お母様?」


 私が呟くとお父様が言った。


「君が魔力暴走を起こしたのはマリアに連れられて王都に出てきた直後だった。君に魔力があって私の養女にすると決めた後、マリアは君の傍で君を見守りたいと言ったんだ。たとえ一生親子の名乗りを上げられなくてもね」


 ああ……だからマリアは私をいつも見守ってくれたんだ。いつも私の気持ちに寄り添ってくれて私はマリアの言葉は無条件で信じられた。


「おかあ……様」


「いえヴィヴィ様、マリアとお呼びください。ヴィヴィ様は侯爵家のご令嬢です。ただ私がヴィヴィ様を誰よりも愛していることをご理解いただければ嬉しいです」


「マリア!」


 私はマリアに抱き着いた。マリアはそっと抱きしめてくれた。




 そうして部屋に戻った後、私とマリアは沢山話をした。


 私はマリアにねだって五歳までの小さいころの話を沢山聞かせてもらった。





 次の日の朝食後、私はお父様におねだりをした。


「トランタの町に行きたい?」


「はい。昨日マリアと沢山話をしました。今の私はお父様の娘でアウフミュラー侯爵家の人間です。お父様やお兄様たちと絆がしっかりと結ばれていると信じることが出来ました。でも私は失われた記憶を取り戻したい。トランタの町に行けば何か思い出せるかもしれません」


「ふうむ……」

 

 お父様は何か考え込んでいるようだった。


「わかった。許可しよう。しかしトランタの町は遠いぞ」


「はい。馬車で十五日ぐらいかかると聞きました。なのでトランタに行った後は直接学院に戻ることになると思います」


 そう。トランタはこの国の南西部、大河メリコン川の向こうはヘーゲル王国だ。


 現在この国は完全鎖国をしているわけではない。この国と北西部でソヴァッツェ山脈を挟んで隣接するトシュタイン王国とは国交を断絶している(間者の類は双方の国で紛れ込ませている)が、南西部で接するヘーゲル王国とは通商を行っている。また大陸の西部の国境を接しない数か国とは船で交易を行っていた。


 ヘーゲル王国とは通商を行っているが九年前にトシュタイン王国がヘーゲル王国の領土に侵入しメリコン川を渡って攻めてきたこともありトランタの近くの街サルバレーには王国騎士団が駐在し、竜騎士団も定期的に巡回しているそうである。


「それから一応身元は隠すようにしなさい。今君は社交界で話題に上がっている。この時期に今まで縁もゆかりもなかった土地に出かければいらぬ憶測を生むことになる」


「はい。承知いたしました。許可してくださってありがとうございます」


 お父様は微笑んで言った。


「あまり気負わないで夏期休暇中の旅行だと思って気軽に行ってきなさい。お土産を楽しみにしているよ」


「では父上、僕も王宮に行ったら休暇申請を提出しますね。ヴィヴィと旅行なんて楽しみだなあ」


 しれっとフィル兄様が言ったがお父様に「お前はダメに決まっているだろう」と即座に却下された。


「まあまあ兄上、俺が代わりにヴィヴィを守るから安心して仕事をしていてくれ」


 エル兄様がついて来てくれるらしい。凄く心強かった。


「エル兄様!ありがとうございます!フィル兄様、お土産必ず送りますから!」






 急いで旅支度が進められ二日後の早朝、私はトランタに向けて出発した。


 馬車は一台。私はちょっと裕福な平民の格好でココアブラウンの髪色の鬘をかぶっている。私の銀に近いプラチナブロンドの髪色は目立つのだ。


 金髪は多いとまでは言わないが貴族にはちらほらいる。王家は代々見事な金髪が多い。ジークも国王陛下も見事な金髪だ。平民でもたまにいる。でも私の髪は光の加減によって銀にも見える。銀髪の人は見たことがなかった。


 私とマリア、エル兄様が馬車に乗り込む。その周りをハーゲンを含め三人の騎士が騎馬で付き添ってくれる。


 馬車に乗り込む前何度もフィル兄様にハグされ名残を惜しまれた。フィル兄様はやっぱり僕もついていくと言っていたがお父様に却下された。



 馬車が出発する直前、馬車の戸がドンドンと叩かれた。


「何だ?」


 エル兄様が戸を開けると乗り込んできた人が一人。


「ジーク!!」


 私やエル兄様の驚きをよそにジークは御者に声をかけた。


「出していいぞ!」


 ゆっくりと馬車が動き出す。

 馬車の窓からお父様に詰め寄っているフィル兄様の姿が見えた。


 ジークはエル兄様の隣にドサッと腰を下ろすとはあーと息を吐いた。


「間に合った!私も一緒に行くぞ」


「おまっ……王太子が王宮を抜け出して一緒に行くなんてありえないだろう」


 エル兄様は呆れ顔だ。


「父上には許可を取ったぞ。ちょっと強引だったけど粘り勝ちだ。見えないように離れてだけど護衛もついて来ている。それに、ほら!」


 ジークは黒髪の鬘と銀縁の眼鏡を取り出した。


「変装もばっちりだ」


 呆れるエル兄様をよそに馬車は軽快に走り続ける。


 私はというと……単純に嬉しかった。

 この旅は私が記憶を取り戻すための旅だ。取り戻せるかどうかはわからないけれど。いわば私の完全なる私用。私の我儘を叶えるための旅なのだ。王太子がホイホイついて来て良い訳がない。でも今年の夏期休暇もジークと過ごせることが単純に嬉しかった。




 そうして私たちは多少頑張って予定より早い十三日後にトランタの町に到着したのだった。


 






 ここまでお読みくださってありがとうございます。

 一週間ほど投稿をお休みさせていただきます。


 物語は中盤に差し掛かりました。この後ヴィヴィの運命は二転三転します。

 またヴィヴィの父、今まで一度も姿を現していないオリバーの物語も挟む予定です。

 オリバーの正体は?ジークとの仲は?隣国トシュタイン王国の野望は?


 面白いと言ってもらえる物語を目指し最後まで書き上げるつもりでおりますが、ブックマークや評価、いいね等で応援していただけると嬉しいです。

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