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【完結】竜の国——記憶を失った平民の少女は侯爵令嬢になり、そして……  作者: 一理。
王宮生活

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ディートフリート第二王子(6)


「陛下、私は下がらせていただきますわ」


 エミーリア様の言葉に陛下は意外そうな声を出した。


「どうして?側妃とは言え君は私の妻だしディーの母親だろう?」


「陛下、陛下の妻はユリアーネ様だけです。ご冗談でも私なんかのような者を妻とお呼びにならないでください」


 少し強い口調でエミーリア様が言う。

 あ、この人は自分のことも私()()()のような者と言った。ディーだけじゃないんだ。


「エミーリア、私はもちろんユリアーネの事を愛しているよ。亡くなった今でも私の最愛の妻はユリアーネだ。でも形は違うが君のことも大切に思っている。そしてディーは私の息子だ」


「いえ、陛下が愛するのはユリアーネ様の忘れ形見のジークハルト王太子殿下であるべきです」


「もちろんジークの事も愛しているが……」


 陛下は少し困惑気味だ。


「あの、お話し中に失礼します。エミーリア様はディーの事を愛していらっしゃいますよね?でしたらどうしてディーを蔑むようなことを仰るのですか?」


 私は我慢できずつい口を挟んでしまった。横でジークが小さく笑っている。


「私はユリアーネ様亡き後陛下が次のお妃さまを、次のお子様をと皆に期待されているのが我慢できなかったのです。陛下のお妃さまはユリアーネ様お一人ですしお子様はユリアーネ様のお子様のジークハルト殿下お一人だと思っています。次のお妃さまが決まってユリアーネ様とジークハルト殿下が蔑ろにされるくらいならと私は陛下に側妃にしてくださいとお願いしました」


「うん、あの当時あまりにも新しい王妃様をと言われ続けて提案に乗ってしまった私にも責任があるな」


 陛下は苦笑と共に少し後悔しているように見えた。


「また次の側妃様をと言われないように最低一人はとお子を望みましたがディーが生まれたので私はもうお役目を終えました。後はジークハルト殿下のお邪魔にならないように間違ってもディーがジークハルト殿下の敵にはなりえぬようにひっそりと生きていくつもりです」


「え!?どうして?あなたやディーの幸せは?」


 私は納得できなかった。


「私の幸せはユリアーネ様と共にある事でした。でもユリアーネ様はトシュタイン王国の陰謀で亡くなられてしまいました。私はユリアーネ様の場所を奪わぬよう、誰にも奪わせぬようする事しか……」


 エミーリア様の声はだんだん小さくなっていってどんどん俯いていく。

 私はエミーリア様の考えにまだ違和感が付きまとっていた。


「私はずいぶん信用が無いんだな」


 陛下の言葉にエミーリア様はえっ?と顔を上げた。


「私はユリアーネの事を生涯愛しているしそれが揺らぐことは無いよ。ユリアーネの場所を脅かすものがいれば私が排除する」


 お母様がポツリと言った。


「あなたは……陛下のことを愛しておられるのですね。そしてユリアーネ様のことも……だから苦しんでいる。自分やディートフリート殿下に厳しくあろうとするんですね」


 お母様の言葉でやっと違和感が消えた。ああ、そうか。この人は陛下を愛しているんだ。だからこそ自分がユリアーネ様にとって代わるような真似は出来なかった。苦しんでいるんだ、ずっと……


 陛下はエミーリア様の手を握られた。


「私のことを愛してくれていたのか、嬉しいよ。ずっと苦しんでいることに気づいてやれなくてすまなかった」


「え?いえ……私は……陛下のことを愛してなど……」


 エミーリア様は愛してなどいないと言い切ることはできなかった。


「ねえエミーリア、さっきも言った通り私は君も大事にしたいと思っているんだ。何年たってもユリアーネのことを忘れないでいてくれて大切に思ってくれている君だから。それに君はディーの母親だろう?私の子供のディートフリートの。君も私の大切な家族なんだよ」


「あなたが陛下を愛していることはユリアーネ様も喜んでくれるのではないかしら」


 お母様がエミーリア様に話しかける。


「私はユリアーネ様ではないから断言できないけれどユリアーネ様はあなたを可愛がっていらしたのでしょう?だったら自分がいなくなった後陛下を支えてくれて自分のことをずっと忘れずにいてくれるあなたが陛下を愛してくれることは嬉しい事じゃないかしら。あなた自身の幸せもユリアーネ様は望んでいると思うわ」


 私もお母様もユリアーネ様に会ったことは無いのでユリアーネ様が本当にそう思うかなんてわからないことはお母様は百も承知だ。でもエミーリア様の気持ちを肯定してあげることがエミーリア様にもディーの為にも必要だと思う。


「エミーリア様、東の離宮に遊びにいらしてくださいな」


「東の離宮に?」


「ええ。一緒にお茶をしましょう。慣れたらお友達を招いてもいいわ。あなたは外に出ることが必要だと思うわ」


「それはいい考えだ!マリアレーテ、よろしく頼む」


 陛下が喜んで賛成したのでエミーリア様は「……はい」と頷いた。

 さすがお母様、エミーリア様の頑なな心もお母様なら解きほぐしてくれそうな気がした。


「ディーも喜ぶわ」


 私が口にした途端エミーリア様の表情は一変した。


「いえ、あの子はダメです。今は陛下のお言いつけで東の離宮にお邪魔させていただいていますが近々ご遠慮させていただこうと思っていたのです」


「そんな!どうしてですか!?」


「あの子がジークハルト殿下やヴィヴィアーネ殿下とお付き合いさせていただくのに相応しくないからです。怠け者で勉強嫌い、小狡くて計算高いからですわ。ディーの性格が矯正できるまでは人前に出すことはできません。私の子供ですから私が責任もって——」


「ディーはそんな子ではありません!!」


 私はつい大声を出してしまった。どうしてエミーリア様はディーのことをそんな風に思っているのだろう?


「いえ、ヴィヴィアーネ殿下はあの子に騙されているのですわ。あの子は狡いところがあるのでヴィヴィアーネ殿下に取り入っているのです。そのことはアルフォンスからもディーの家庭教師からも報告が来ています。ディーはすぐ勉強に飽きて家庭教師やアルフォンスの目を盗んで遊びに行ってしまう。私の目の届かないところでは酷い我儘を言う。メイドたちも困っているようです。私はあの子の親ですから責任もって矯正しないと。でもあの子は私には媚を売るのです。常に私のご機嫌を窺うようなそぶりを見せるのです」


 エミーリア様は困ったように言うけれども違うのに!そうじゃないのに!


 勉強嫌い?離宮に来て輝くような目で本を読んでいたディーが?与えられたたった数冊の本を大事にしていたディーが?

 我儘?何をするにも気を使ってすぐに謝ってしまうディーが?


「ご機嫌を窺うのは悪い事ですか?」


 押さえようとしても怒りが滲み出てしまっていた。


「私の今までの生い立ちはご存じの事と思います。私は五歳からアウフミュラー侯爵家の養子として育てられました。そしてちょうどディーぐらいの年のころ上の兄のフィリップにとても疎まれていたんです」


 私の発言にジークは驚いた顔をした。

 フィル兄様が冷たい態度をとっていたのはジークがアウフミュラー侯爵家を訪れなくなった時期だ。今あれだけ私を溺愛してくれるフィル兄様との関係が悪かっただなんて想像もつかないのだろう。


 ごめんなさいフィル兄様引き合いに出してしまって。でも私はあの頃どうにかしてフィル兄様の歓心を買いたかった。愛されたかったから。家族になりたかったから。私は必死にエミーリア様の歓心を買おうとしているディーの気持ちがよくわかる。


「私はその頃どうにかしてフィル兄様の歓心を買おうとしていました。それはフィル兄様に妹と認めてもらいたかったから、愛されたかったからです。今は特にフィル兄様の歓心を買おうとは思っていません。それはフィル兄様が私を愛してくれているのがわかっているから。その愛情が信頼できるから私はフィル兄様の前で伸び伸びと本来の自分を出していられるのです」


「私はあの子を愛していますわ!」


 エミーリア様は叫ぶように言った。


「でもディーの言葉を信じていませんよね。ディーはあなたの前でもっと勉強したいとかもっとあなたと一緒に遊びたいと言いませんでしたか?」


「そんなことは……いえ……言っていたわ。もっと本が読みたいとか一緒に散歩しましょうとか……いつから言わなくなったのかしら……」


 エミーリア様は暫く考え込んでいた。


「ああ、そうだわ。本が欲しいと言った時にアルフォンスに買い与えるように言ったのです。そうしたらディーは今現在の勉強にも真面目に取り組んでいない。今の勉強も遅れがちなのに新しいものばかり欲しがると言われたのです。それに気を許しているとどんどん我儘になるから厳しく接した方がいいと。家庭教師も同じ意見でしたわ。だから私はディーには殊更きびしく接するように心がけているのです」



 やっぱりだ!!元凶はあのアルフォンスだ!!彼がエミーリア様にいろいろな事を吹き込んでいたのだ。彼がどうしてそんなことをするのかはわからないけれど幼いディーに対してそんなことをするのは絶対許せない!!


 私の怒りは頂点に達していた。






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