友人の悩み事(3)
それから車は東に向かって進んで行く。
龍也くんとのドライブは西に向かうことが多かったけれども、浩ちゃんの車は東に向かっていた。
いつも見慣れた景色とは違い、なんだか新鮮な感じがする。
「販社での研修は営業なんだよね」
「そうだよ。まさか整備はムリでしょう」
「そうだね。資格が必要だもんね。手伝うって言っても工具を渡すぐらいしかできないよね」
「かえって足手まといになっちゃうよ」
「ふふ。工具を持ってジタバタしてる浩ちゃんの映像が浮かんだ」
「俺も」
って言ってふたりで笑い合ったけど。
いつもと変わらない浩ちゃん。本当に悩みごとがあるのだろうかと思うほど。
仕事の悩みじゃないのかな? ちょっとだけ話を戻してみることにした。
「営業は大変だよね」
「そうだな。今、営業の研修をするための研修、みたいなのをやってるんだけどさ」
「研修のための研修ってウケる」
「笑いごとじゃないよ」
まあ、今までの工場研修では機械相手だったけど、営業となると人間相手の仕事になる。
世の中にはいろんなタイプの人間がいるから、最初の挨拶、話の導入部分から瞬時にタイプを見極めて、その人に合った話し方、話の進め方をしなければならない。
新入社員だって、お客様には関係のないこと。
お客様の前に出たら、ベテランも新人もない。
言葉づかい、姿勢、知識。
営業社員は、いわばその会社の『顔』である。もちろん本社では受け付けがその役割を果たすのだが、販売会社となると、やはりお客様と接する機会が多く、お客様は営業社員のその人となりをみて、車を購入するかどうかを決める場合も多々ある。
それに直接お客様と接することで、生の声を聞くことができる。
反応がその場で解るのだ。
反対にお客様にとっては、『受け付けや営業社員』=『その会社』というイメージになってしまう。
なぜなら、その態度、応対で会社のスタンスが読み取れるからだ。
もっと言うと、その社員を教育しているのは会社なので、応対がよければ『社員教育にも力を入れていて、きっと隅々まで行き届いた企業理念があるのだろう』と察することができる。
また、応対が悪ければ『社員教育もまともに行えない会社なら、きっと品質も良くないだろう』と考えられてしまう場合もある。
実際に品質の良い商品を開発して、市場に出していたとしても、社員の応対ひとつで台無しになってしまうのだ。
そう考えると、責任重大だと思う。
いくら我が社の車を気に入ってお越し下さったお客様でも、営業社員の応対、態度で買う気にもやめる気にもなり得る。値段が全てではないのだ。
たとえば、いくらお料理が美味しくてお店の雰囲気が好きなレストランでも、従業員の応対が悪いお店には二度と行きたくない、と思うのと似ている気がする。
そんな話を真面目にしながらも、結構な距離を車は進む。
「ねえ、どこまで行くの?」
「とっておきのところ」
「そんな、とっておきだなんて。恋人でもあるまいし」
「まあ、そうだけどね」
その後の沈黙の中、車はある坂道を上ってゆく。
お読み下さりありがとうございました。
次話「友人の悩み事(4)」もよろしくお願いします!




