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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第7章】 秋から冬へ
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友人の悩み事(3)

 それから車は東に向かって進んで行く。

 龍也たつやくんとのドライブは西に向かうことが多かったけれども、浩ちゃんの車は東に向かっていた。

 いつも見慣れた景色とは違い、なんだか新鮮な感じがする。


「販社での研修は営業なんだよね」


「そうだよ。まさか整備はムリでしょう」


「そうだね。資格が必要だもんね。手伝うって言っても工具を渡すぐらいしかできないよね」


「かえって足手まといになっちゃうよ」


「ふふ。工具を持ってジタバタしてる浩ちゃんの映像が浮かんだ」


「俺も」


 って言ってふたりで笑い合ったけど。

 いつもと変わらない浩ちゃん。本当に悩みごとがあるのだろうかと思うほど。

 仕事の悩みじゃないのかな? ちょっとだけ話を戻してみることにした。


「営業は大変だよね」


「そうだな。今、営業の研修をするための研修、みたいなのをやってるんだけどさ」


「研修のための研修ってウケる」


「笑いごとじゃないよ」


 まあ、今までの工場研修では機械相手だったけど、営業となると人間相手の仕事になる。

 世の中にはいろんなタイプの人間がいるから、最初の挨拶、話の導入部分から瞬時にタイプを見極めて、その人に合った話し方、話の進め方をしなければならない。


 新入社員だって、お客様には関係のないこと。

 お客様の前に出たら、ベテランも新人もない。


 言葉づかい、姿勢、知識。

 営業社員は、いわばその会社の『顔』である。もちろん本社では受け付けがその役割を果たすのだが、販売会社となると、やはりお客様と接する機会が多く、お客様は営業社員のその人となりをみて、車を購入するかどうかを決める場合も多々ある。


 それに直接お客様と接することで、生の声を聞くことができる。

 反応がその場で解るのだ。


 反対にお客様にとっては、『受け付けや営業社員』=『その会社』というイメージになってしまう。

 なぜなら、その態度、応対で会社のスタンスが読み取れるからだ。


 もっと言うと、その社員を教育しているのは会社なので、応対がよければ『社員教育にも力を入れていて、きっと隅々まで行き届いた企業理念があるのだろう』と察することができる。

 また、応対が悪ければ『社員教育もまともに行えない会社なら、きっと品質も良くないだろう』と考えられてしまう場合もある。


 実際に品質の良い商品を開発して、市場しじょうに出していたとしても、社員の応対ひとつで台無しになってしまうのだ。


 そう考えると、責任重大だと思う。


 いくら我が社の車を気に入ってお越し下さったお客様でも、営業社員の応対、態度で買う気にもやめる気にもなり得る。値段が全てではないのだ。


 たとえば、いくらお料理が美味しくてお店の雰囲気が好きなレストランでも、従業員の応対が悪いお店には二度と行きたくない、と思うのと似ている気がする。




 そんな話を真面目にしながらも、結構な距離を車は進む。


「ねえ、どこまで行くの?」


「とっておきのところ」


「そんな、とっておきだなんて。恋人でもあるまいし」


「まあ、そうだけどね」


 その後の沈黙の中、車はある坂道を上ってゆく。



お読み下さりありがとうございました。


次話「友人の悩み事(4)」もよろしくお願いします!

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