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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第7章】 秋から冬へ
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友人の悩み事(2)

海彩みいちゃんに言いたいけど、言えないことがある」


 浩ちゃんにそう言われてから少し気になる。

 今はまだ言えないけど、今度なら言えるってどういうことだろう。

 話しにくいことなのか、それともなにか別の理由なのか。


 まあ、今日は話すにはタイミングが合わなかったってことかな。


 そうこうしていると、私の乗る電車が到着した。


「じゃ、またね」


 そう言って立ち上がり電車の前でドアが開くのを待つ。


「うん、また」


 浩ちゃんもドアのところまで来てくれて、少ししてからドアが開いた。

 私がバイバイと手を振り、電車に乗り込んだその時。


「今度の日曜日」


 背中越しに放たれた言葉。


「え?」


 驚いて振り向く私。


「今度の日曜日、時間ある?」


「……」


 突然で答えに困ってしまう。


「10時に駅前のロータリーで待ってるから」


「でも」


「その時に、話聞いてくれる?」


「解った。10時だね」


 そう言ったときにドアが閉まった。

 嬉しそうに微笑む浩ちゃんに見送られ、電車はゆっくりと発車した。


 私はそのままガラス越しに外の景色を見ている。いや、見ようとしている。

 こんな夜に明るい車内から外の景色など見えるはずもない。

 ただガラスに映った自分の顔が見えるだけだ。

 それでもドアのガラス越しに外を見たかった。

 座席は空いていたのだけれど、とても座る気にはなれない。


 どうしてだろう。

 いつものように友達として浩ちゃんと待ち合わせをしただけなのに。

 なんだかいつもと違う気がする。



 いつも明るい友人の悩み事。すぐには言いづらいことだなんて、なんか気になる。

 浩ちゃん大丈夫かな。少し心配。

 日曜日、ちゃんと話を聞くことにしよう。

 いつも支えてもらっているのだから、今度は私が力になろう。



* * *



 日曜日、駅前ロータリーで浩ちゃんと待ち合わせて車に乗り込む。


「おはよう、待った?」


「おはよう、今来たところ」


 まるでカップルの挨拶のようだが、他に言いようもない。

 そのまま車は動き出す。沈黙の車内。

 私は気になっていることを聞くことにした。


「話って……」


海彩みいちゃん気が早いな。今会ったばっかりじゃん」


 まあ、そうだけど。別にどこかに行く約束をしたわけでもないし。


「でも、話があるからって、今日待ち合わせしたんだよ。今日なら言えるって言うから」


 そう、今日なら言えるって言うから。


「ちょっとだけドライブ付き合ってよ」


「ドライブ?」


「うん。さあどうぞって言われても、やっぱ言いにくいし。ちょっと気恥ずかしい気もするから追々話すってことで」


「まあ、そうかもしれないけど」


 確かに。悩み事をさあどうぞと言われて、ああそうですかと話せるはずもない。

 我ながらちょっと気づかいが足りなかったかと、少し反省。


「それに運転しながらじゃ話に集中できないから」


 それもそうだ。運転に集中してもらわないと。

 会話が気になって運転がおろそかになってもらっては困る。


「それもそうだね。ドライブか。いいかも」


「俺さぁ、来週から販社で研修が始まるんだよね~」


「工場での研修が終わったんだね。お疲れさま。大変だったでしょう」


「そりゃもう。体力の限界まで頑張ったよ。若いんだから頑張れって、みんな俺に押しつけてさ。新入社員は辛いよ。んでも次の販社での研修は、精神的にキツそうだな」


 新入社員研修。

 新入社員は、入社後約1週間の社会人としての心得や、基本的な接遇マナー、会社の概要、基本方針、企業理念など必要最低限の研修を受けて、各部署に仮配属される。

 

 私たちの会社は自動車メーカー。勤務先は本社のある本社工場。

 当然その工場での研修もあるわけだが。


 4月に各部署に仮配属されてから3ヶ月間、それぞれの部署で実際に仕事をしながら大まかな流れを把握してゆく。そしてその間に学生気分からしっかりとした社会人としてのマナーを身につけていくのだ。


 そうして社会人としての自覚が芽生えてきた頃、そう、3ヶ月後の7月からまた3ヶ月周期でいろいろな職場で実際に働きながらの研修期間に入る。工場研修のあとは、10月からの販社(販売会社)での営業研修など、1年間は研修づくめだ。


 相談って仕事のことなのかな?

 どうなんだろう。



お読み下さりありがとうございました。


次話「友人の悩み事(3)」もよろしくお願いします!

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