3連休(2)
手土産を持って、智ちゃんたちの新居にお邪魔したのが11時過ぎ。
近くのコインパーキングに車を止めて、彼等の住むマンションへと向かうわけだが、なんせ、私たちの周りで結婚しているのは智ちゃん夫妻だけなので、当然新婚家庭にお邪魔するのは初めてなわけで。少し緊張した。と同時に、ピンクを使っていたりハートマークがたくさんでてきそうな、いわゆる『らぶらぶ』風の内装なのかと興味もわいてきて。そんなことをああだこうだと話ながら、マンションのエレベーターの3階ボタンを押す。
「なんか緊張するな」
「ホントだね」
言葉数も少なくなり、エレベーターのドアが開く。
彼等の部屋は、エレベーターを降りて真っ直ぐいったところの305号室。
少しソワソワしながらも、龍也くんがインターホンを押す。
「はーい」
元気よく扉を開けてくれたのは、恵子ちゃんだった。
「こんにちは」
龍也くんの挨拶に続き、私もご挨拶を。
「この度はお招きいただき……」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶はいいから。さあ、上がって」
そう促されて龍也くんが、持ってきた手土産のクッキーを手渡す。
「ありがとう。そんな気を使わなくていいのに」
「おじゃましまーす」
龍也くんに続いて私も。
「おじゃまします」
思ったよりもあっさりとした内装。
白と黒を基調にした、シンプルなお部屋に「へぇー」っと、声にならない声を心の中で発していた。
リビングに案内されると、イケメン新入社員の浩ちゃんはもう既に来ていて、しかも寛いでいる。
「さ、適当に座ってて」
そう言って台所の方に向かった恵子ちゃんを見送って、思わず龍也くんと目を合わせてニヤッとしてしまう。すっかり奥さんしている恵子ちゃんの姿を、微笑ましく見守っている智ちゃんの姿もまた微笑ましい。
そうこうしているうちに、後輩の小川俊之くんと彼女の佐々木美枝さんもやってきた。
その後少しみんなでおしゃべりをして、お昼には恵子ちゃんお手製の和風ハンバーグをご馳走になった。
とっても美味しくて……と、ここまではいいのだが。
何を思ったか、智ちゃんが食後のひとときを映画鑑賞の時間にしようと提案。
と、ここまではいいのだが。
問題はその映画だ。
男子は乗り気で、いや、女子も私以外は結構乗り気で楽しくDVDを観ていた。
そう、私以外は。
私は基本映画大好き! なんだけど、今日はそうとも言い切れない。
誰が好き好んで、そんな映画観る?
もう、「きゃー」と叫んで彼にしがみつく……そんなレベルじゃない。
映像からも音からも恐怖が伝わる。そんな映画、誰が新婚家庭訪問時に観ると思う?
おかげで今日の新婚家庭訪問中の出来事は、殆どが記憶から吹っ飛んでしまう気さえした。
頭の中でこだまする絶叫や映画の残像を、頭の外へと追いやるように、私は頭をぷるぷると振る。
夕方になり、そろそろ帰ろうかとふたりの新居を後にするも、私たちの今日のデートも夕方でおしまい。
彼は私を送ってくれた後、一度実家に帰りそれからまたお出かけだそうな。
まあ、仕方ないとは思うんだけど。
ふたりっきりのデートは明日までおあずけ。しかも、明日だけ。
明後日には彼はまた千葉県へと向かわなければならない。
彼が今夜どうするかって?
なんでも、学生時代の友人と飲みに行くとか。
なんとも人気者はお忙しい限りで。……なんて。
お読み下さりありがとうございまs。
次話「3連休(3)」もよろしくお願いします。




