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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第5章】 転勤間近
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会えない1週間(1)

 8月7日火曜日。

 今日もいつものように身支度をして会社に向かう。

 あれから龍也くんからの連絡はない。多分忙しいのだろう。


 気にならないと言えばウソになるけど、私からはなるべく連絡したくない。

 仕事に専念してほしいし、彼のタイミングで電話をかけてくれるのを待っているから。


 今までなら送りたいときにメールを送って、かけたい時に電話をかけて。

 でも今はそんな気になれない。どうしてかな。仕事が忙しくて疲れているのもあるかもしれないが、ただそれだけじゃない、今までとは少し違う感覚。でもそれが何なのか自分でも解らない。




 会社に着くと夏期休暇前の追い込みで、仕事も全て前倒し。9日間も休むのだから、その分の仕事が夏休みの前後に振り分けられるのは仕方がない。夏期休暇を思う存分楽しむためには、なんとしても休暇中の休日出勤は避けたい。かといって毎日残業というのもご勘弁。一日中走り回って今日はなんとか定時で帰れそうだ。でもその分明日は残業かも……と思いながらも帰る準備を始めよう。


「あ、葉月さん」


 むむ、嫌な予感。


「はい、なんでしょうか」


 振り向くと満面の笑みを浮かべた係長がそこに。


「受付のところにTJ部品社長の八代さんが来られてるから、応接室に案内してくれる? 応対は部長がするからその旨伝えておいてね」


「はい、承知しました」



 私は早速受付に向かい、お客様にお尋ねする。


「失礼致します」


 恰幅かっぷくのいい、いかにも社長と思しき男性に声をかけた。


「は、はい」


 その男性は緊張した声色で返事をする。


「TJ部品さんの八代様でいらっしゃいますか?」


 社外の人には『○○社長ですか?』などと、名前の後に肩書きをつけて呼ぶと失礼にあたるのだ。

 そして会社名も呼び捨てしてはいけない。


「はい、そうです」


「大変お待たせ致しました。わたくし総務部の葉月と申します。応接室にご案内いたしますので、どうぞこちらにお越し下さいませ」


 そう言って今から進む方向を右手のひらを上に指し示す。


「はい」


 軽く会釈をして応接室に誘導する。途中何度か振り返り、相手を気づかうことも忘れてはいけない。

 応接室の前まで来て立ち止まる。


「こちらでございます」


 八代様にそう告げて、コンコンコンと会議室のドアをノックする。

 中からは誰の声も聞こえない。まだ部長はお見えになってないということだ。


 私は会議室のドアを押し開けて先に中に入り、ドアを押さえて声をかける。


「どうぞお入り下さい」


 そう言うと八代様は「は、はい」と体つきとは正反対で、とても緊張されているご様子。

 八代様が入室されると一度ドアを閉めて、出入口から一番遠い『上座』にあたる奥のソファーを示し、


「どうぞこちらにおかけ下さい」


 ひと声かけて促す。

 着席を確認し、もうひと声かける。


「部長の小山は間もなくまいりますので、恐れ入りますが、もうしばらくお待ち下さいませ」


 お辞儀をし、ドアのところまで進み振り返り、「失礼いたします」ともう一度お辞儀をする。

 そしてドアを開け、退室。


 慣れているとはいえ、お客様をご案内するのは緊張する。

 後はお茶をお出しして、今度こそ帰ろう。



お読み下さりありがとうございました。


次話「会えない1週間(2)」もよろしくお願いします。

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