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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第4章】 転勤決定
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7月12日(木) それが理由?

 通勤途中のバス停で偶然会った浩ちゃん。

 新入社員研修まっただ中。かなり大変そうだけど、私には、ただ「がんばれ」と声をかけることしかできない。


 時間より5分遅れて到着したバスに乗り込んだ。どうやら道路工事の影響で、いつもは混まない道が渋滞しているらしい。


「じゃあ、来週からは仕事8時始まりなんだ」


「そうなんだよな。朝弱いのに7時30分までには作業着に着替えて職場に集合だって」


「そりゃ大変だ」


「まずそれが憂鬱だね。村上さんも朝が苦手だって言ってたけど、モーニングコールとかするの?」


 は? なぜに龍也たつやくんの話に?


「そんなことしないよ。実家なんだから。誰かが起こしてくれるんじゃないの?」


「そっかぁ」


 腕組みをしてニヤニヤしながらひとり頷いている浩ちゃん。何か意味ありげな様子が気になる。


「なによ、『そっかぁ』って」


「いや、別に」


「ヘンなの」



 バスは本社前の停留場に到着し、ぞろぞろと降りてゆく乗客達。

 やはり殆どがウチの社員だ。


 正門のところでゲートに社員証をかざし、守衛に軽く会釈をして本社ビルに向かう。

 浩ちゃんは大ホールにて研修があるということなので、ここで別れた。私は我が総務部のある5階までエレベーターで上がる。


 扉が開き、廊下を歩いて制服に着替えるべくロッカールームへ。

 今日も1日がんばろう。


「おはようございます!」


 ドアを開けると同時に元気よく挨拶をした。


「ああ、おはよう」


 ロッカールームの奥の方から、いつになく元気のない返事が返ってくる。


「美樹ちゃんどうしたの?」


「はぁ」


 大きなため息とともにうなだれている。

 

「なんかあった?」


「付き合ってる彼がいるんだけどね」


「え、そうなの!?」


「まだ驚くとこじゃないよ」


 いえいえ、充分驚くところですけど!


「転勤が決まってさ」


 どこかで聞いたような話だ。


「それって、もしかして社内の人?」


「うん」


「それで?」


「もう会えなくなるから別れようって」


「ええー! それが理由?」


 はあ?

 会えるか会えないかなんてまだ解らないのに?


「仕事も忙しくなるし、今までのようにはいかなくなるからって」


「そんなのまだ解んないじゃん。今からそんな別れ話しなくたって」


「そうなんだけど」


「転勤って、例の若手社員の大規模な研修という名の転勤?」


「そう、選ばれたから。この研修で頑張らないと将来の出世にかかわるから、恋愛との両立はできないって」


「好きなんでしょ?」


「うん、でも……ホントは別れたくはないけど、彼の仕事の邪魔はしたくないし」


 そう言うと美樹ちゃんは泣きだしてしまった。気持ちは解る。


「もう一度よく話をしてみたら? お互い納得してからでないと、後々尾を引くよ」


「そうだね。もう一度話してみる」


「美樹ちゃんはちゃんと自分の気持ちを正直に言わないとダメだよ!」


「解った。ありがとね」


 そう言って笑顔を見せた彼女を、ぎゅっと抱きしめずにはいられなかった。



お読み下さりありがとうございました。

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