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遠距離恋愛の果てに  作者: 藤乃 澄乃
【第1章】 お互いの気持ち
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お互いの気持ち

偶然が重なった出逢いのころ。

今となっては、いい想い出。

 本当に私達が出逢った頃は偶然が多かった。

 5度の偶然。これってある意味必然? 出逢うべくして出逢った、と言うべきか。

 きっと『縁』があったのだと思う。


 5度目の偶然の時の会席の味は最高だったね。

 その時初めてお互いの自己紹介をしたね。

 なんていう話をしているとあっという間に時間は過ぎて。

 これから転勤の準備で忙しくなるという現実に引き戻されて。

 今後のことなんてなにひとつ話していない。

 想い出話をしに来たんじゃないんだよ。


 解っているのに。

 そう、ふたりとも解ってはいるけれど……。


 コーヒーの最後の一口を飲み干して、私達はアメリカの西海岸がモチーフのサーモンピンクで彩られた米国風レストランを後にした。


 広い駐車場の奥に止めた黒のSUVまで歩く。カントリーミュージックがかかる店内とは打って変わって、静かな雰囲気がそうさせたのか、お店を出てからは2人とも無言で。さっきまでの楽しい時間はどこかに追いやられて、龍也くんの後をただついて歩いているだけ。


 今まで押さえていた感情が込み上げてきた。 


 寂しいに決まっている。


 まだ付き合い始めて1ヶ月、本当なら一番甘くて楽しい時期。


 転勤イコール遠距離恋愛は免れない。どうする? この先どうなっちゃうの?

 肝心な話はひとつもできていない。仕事のことも大事だが、私達のこれからの方が今の私には一番の問題である。

 龍也くんはどうなの? どう考えているの?


 そんなこと……。


 聞きたいけれど、まだそれを聞いてしまうほど、遠慮の無い仲にまではなっていない。

 楽しい話、真面目な話はするけれど、お互いの気持ちなんて確かめ合ったことなんてない。


 私の気持ち?


 どうだろう。

 告白されて付き合うことになってからも、私の口からはまだ一度も好きとか嫌いとか言ったこともない。まあ、嫌いならこうして一緒にいることもないのだけれど。


 龍也くんに好意はもっている。一緒にいて楽しいし、頼りになるし。手を繋いで歩いたり、肩に手を回されたりするとドキドキする。

 多分好きなんだと思う。きっと好きに違いない。

 いいえ、好きだ。……今のところは。


 お互いに『言いたいけど言えない』『言いたくても言いだせない』そんな気持ちがあったからかもしれない。


 ゆっくりと歩いて車の前に着いた。私が助手席に乗り込もうとアウターハンドル(ドアの取っ手部分)に手をかけたその時に、背中越しに声をかけられた。


海彩みいちゃん」


 ビクッとしてそのまま身体が固まった気がした。ただ心臓だけが元気よく動いていて。


「待っててくれとも言わないけど、待たないでくれとも言いたくない」


 やはり彼も私と同じ不安を感じていたのだろう。


「でもひとつ、ひとつだけ聞きたいことがあるんだ」


「なに?」


 私は車の方を向いたままそう答えた。


「オレのことどう思ってる?」


「どう……って」


「まだ一度も海彩ちゃんの気持ち聞いたことないから」


「……」


「オレのことどう思ってる? ちゃんと聞かせてほしいんだ」


「そんなの言うわけないじゃん」


 照れ屋の私は、つい天邪鬼あまのじゃくな言い方をしてしまう。


「オレは海彩ちゃんのこと……好きだよ」


「ありがと」


「答えになってないよ」


 だって、そんなこと言えない。


「嫌いじゃないよ」

 

 素直に言えない私ってバカだと思うけど、でも……。

 その時優しくそっと背中から抱きしめられた。思わず『好き』って言ってしまいそうになる。


「その言葉だけでも充分だよ」


 彼の温もりを感じ、自分の気持ちを再認識した瞬間だった。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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