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26 なかなか見つからない



 オーキュネンが殺された。衝撃的な事件だった。

 当然ながら、いま大騒ぎとなっている。


 発見は早朝。第一発見者はグムル人副リーダーだった。

 死体には傷があり、刃物による刺殺ということらしい。


 愛するオーキュネンの死に、圜子が泣きじゃくっている。

 俺のことならば新婚の頃でさえ、ここまで取り乱していなかっただろう。


 もちろん俺だってオーキュネンの死は悲しい。

 聖騎士の中では、割りと話す機会のある方だった。


 彼はほぼ毎日、圜子のテントに通っていた。

 だから犯行は、夜間に圜子のテントを出てから早朝までの間だと思われる。


 刃物ならば異世界人の誰もが与えられている。

 小さな懐剣のようなものだ。


 聖騎士団長グリガンは怒りに震えていた。


「誰がオーキュネンを殺した! 名乗り出ろ!」


 特殊技能の訓練は中止となった。


 三人の容疑者があげられた。

 一人は、第一発見者だったグムル人の副リーダー。

 もう一人は、昨晩オーキュネンと会っていた圜子。

 そして残りの一人が俺だ。


 なんで俺も容疑者なんだ?


 数十日前のイベントで、俺がオーキュネンに圜子を奪われたことがあり、それを恨んでの犯行ではないかと言われているらしい。動機だけで容疑者かよ。


 だいたいあのイベントは遊びだろ。本気で圜子に手を差し出したんじゃない。それだったら、もっとガチのヤツらが大勢いたじゃないか。


 こっちの世界の犯罪捜査の未熟さには呆れてしまう。


 グムル人の副リーダーも納得していないようだ。


「第一発見者だからって、どうしてあたしが疑われるの? 意味不明よ。もともとオーキュネン副団長とは、ほとんど接点なかったし!!」


 圜子も泣き続けながら、理不尽な扱いを非難している。


「何故あたしが疑われるわけ? 信じられない。本気で愛し合ってたのよ」


 しばらくして圜子の泣き声が収まった。

 泣き疲れたのだろうか。


 圜子の指がこっちに向く。


「コイツよ。コイツの報復としか考えられない!」


 俺のせいにしやがった。


 なんで俺がオーキュネンに報復なんかしなくちゃならないんだ。

 告白タイム中に彼があとから来て圜子を奪ったからって、恨むかよ。

 まさか未だに妻や家族として圜子を愛しているとでも思っているのか。


「あのイベントは数十日前のものだ。しかもお遊びだったじゃないか」

「そっちじゃない! 日本にいるときの話よ!!」


 多くの者たちが耳を傾ける。

 圜子はこの場で暴露しやがるつもりか。


「この際だから打ち明けるけど、コイツとはつき合ってたの!! だけど別れたってこと。そうよ、もう別れたんだから、あたしに執着するのやめてほしいわ!」


 なんてことをバラしてくれたんだ……。


 さすがに籍まで入れていたことは触れなかったが、そんなの双方にとっての黒歴史だろ。無かったことにしたくはないのかよ。こっちの世界に来てまで、圜子にはいっさい関わりたくなかったんだ。少なくとも大勢の前では赤の他人を貫きたかった。


 たちまち周囲が騒然となった。



 **** ここから 月輝姫 視点 ****



 眼前で颯ちゃん(・・・・)が聖騎士に連れていかれた。

 殺人の容疑をかけられたのだ。


 わたしが正面に立ちはだかると、彼は無言で首を左右させた。

 彼が言わんとしているのは『手を出すな』もしくは『殺すな』だ。


 仕方なく道を空けた。

 雪綺姫と結衣姫が彼を見守っている。


「二人とも安心していいわ。もし彼に剣を向けることがあったら、わたしが何をするか想像できるでしょ」


 二人は首肯したが、それでも不安そうだった。


 一応、オーキュネンという男の死体を見ておいた。刺殺ということだが不審な点があった。


 出血が原因とは考えにくい。傷は肩から腕にかけてのものだ。動脈ではない部分だし、傷口は決して大きなものではない。なのに、それほど大量に出血したのか。止血も間に合わなかったのか。いいや、そんな馬鹿な。はっきり言って、人が死ぬような傷ではない。


 聖騎士にも呆れてしまう。

 武器を扱う職業なのに、殺され方に疑問も抱かないとは。


 出血が原因ではないとしたら……。

 まず中庭の武器庫に行ってみた。

 しかし探し物は見つからなかった。


「あら、今度はどちらへ行くつもりなのでしょう?」


 首をかしげる雪綺姫。


「次は道具庫よ」


 道具庫で一つ目の探し物を発見した。


 北フンディナの森や西タクッド山脈に派遣されたとき、兵士が運んでいたものだ。これがあれば、傷口は小さくとも人は殺せよう。刃先にでも塗っておけばいいのだ。


 毒矢用の毒だ。


 二つ目の探し物も、この道具庫にあるだろうか。

 あった。壁に立てかけられていた。これはいい。

 カカシのように人間の形をした『訓練用標的』。

 特殊技能の火炎弾などを命中させる訓練に使用するものだ。


 これも立派な人形だ。

 訓練用標的の人形に命じる。


「わたしの問いに答えなさい。『はい』は首を縦に、『いいえ』は首を横に振るのよ」


 標的人形が首を縦に首を振る。


「いい子ね。では尋ねるわ。夕べ、この毒箱に触れた者を見た?」


 標的人形は首を縦に首を振った。

 やはり毒箱に手を出した者がいたことになる。


「それは日本人?」


 標的人形は首を横に振った。

 犯人は日本人ではなかった。


「それはグムル人?」


 また首を横に振った。

 グムル人でもなかった。

 となれば……。


「それは大地人?」


 今度は首を縦に振った。


 大地人だとすれば聖騎士か兵士となる。いいや、兵士は許可なく城壁内の奥までは立ち入れないため、候補から除外してもいいだろう。ならば聖騎士が仲間を殺したということになるのか……。


 中庭に戻ってみる。


 何百人もの日本人とグムル人がいた。すべての異世界人が集められ、整列させられている。そこに目を光らせているのは聖騎士。彼らもまた、総出でその場に集まっていた。


 容疑者として連れられていった颯ちゃん(・・・・)の姿も確認できた。他の二人の容疑者もいっしょだ。


 なお、聖騎士が勢揃いで一箇所に固まってくれているので、一人ずつ当てっていくにはすこぶる好都合。


 標的人形に命じる。


「いいこと? もし犯人の顔だったら首を縦に、そうでなければ首を横に振りなさい」


 まずは端の聖騎士から。


 標的人形に顔を見せようとすると、聖騎士が睨んできた。


「お前は乙門颯太の……。人形は邪魔だ、テントに帰れ!」


 剣を振りあげてきた。脅しているつもりなのだろう。

 わたしの指先から発した光弾により、剣先は一瞬で消えてなくなった。


 他の聖騎士がいっせいに剣を構える。

 わたしに勝てると思っているのかしら?


 でも皆、震えているじゃない。

 いまのを見て怖くなったのね。


「人形は放っておけ」


 聖騎士団長グリガンの一言で、聖騎士は剣を収めた。


 あらためて標的人形に問う。


「毒箱に触ったのは彼?」


 標的人形は首を横に振った。

 端にいた一人目の聖騎士は無実だったみたい。


 二人目、三人目……と続けていく。

 標的人形はなかなか首を縦に振らない。


 十七人目でノーシェの番となった。彼女はオーキュネンの部下であり、きつく叱責されているところを見たことがあった。標的人形に問う。


「では、彼女がやったの?」


 標的人形は首を横に振った。

 ノーシェは犯人ではなかった。


 さらに続けても、標的人形が首を縦に振る聖騎士は出てこなかった。

 おかしい。これはどういうことだろう。


 最後に残った聖騎士は、聖騎士団長グリガンだった。オーキュネンが殺されたことに、怒りの感情を最も露わにしているのが彼だ。犯人とは思えない様子だけれど……。


 標的人形にグリガンの顔を見せる。


「では、彼だった?」


 なんと標的人形はまたもや首を横に振るのだった。


 標的人形によれば、犯人は大地人のはずだ。

 それなのに聖騎士の全員がシロだった。

 かといって、一般兵士は城壁内に入れない。

 犯人はいない? そんな馬鹿な。


 標的人形を持つ手をだらりとさげた。


「ねえ、月輝姫。城内の大地人でしたら、もう一人いませんこと?」


 雪綺姫がそう言った。

 もう一人……?


 ハッとした。確かにもう一人いた。


 標的人形を結衣姫に向ける。


「もしかして彼女だった?」


 標的人形ははじめて首を縦に振った。

 雪綺姫とともに同行していた結衣姫をじっと見据える。


「結衣姫、何か言ってちょうだい」



 **** 月輝姫 視点 ここまで ****





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