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16 その作戦は蜜の味



 三人の男と会った。聖騎士の秘密を探ろうとする者たちだ。


「うっす。棚家玲苑(たなか・れおん)っす」

「俺、糸鵜翔伍(いとう・しょうご)。ヨロ」

「はじめまして。安藤竜(あんどう・りゅう)です。竜ちゃんと呼んでください」


 三人目の男に訊き返す。


「えっ、なんと?」


 安藤竜は笑いながら英語で答えた。ただし翻訳機の腕輪があるため、意味がわからないことはなかった。本名はアンドリュー。金髪碧眼のカナダ人。日本には約二年間住んでいて、友人たちからは安藤竜という日本人っぽい『あだ名』をつけてもらったらしい。最近では竜ちゃんとも呼ばれるようになったのだとか。

 

 聖騎士たちは異世界人を【日本人】と【グムル人】の二つに区別しているが、彼は当然ながら日本人としてここにいる。日本人扱いされることについて、まったく悪い気はしないそうだ。


 三人とも俺の名前まではきちんと覚えていなかったものの、顔と特殊技能についてはよく知っているとのこと。安藤竜は「お人形さん遊びの……」と言いかけたところで、棚家玲苑と糸鵜翔伍に口を塞がれていた。


 棚家玲苑と糸鵜翔伍と安藤竜の特殊技能は、それぞれ【透明化】【光操作】【土石変化】だが、三人とも未熟であり、ほとんど発揮できていないらしい。


 そんなレベルの特殊技能で、聖騎士の真相を探れるのだろうか。


 棚家玲苑が言う。


「俺たち異世界人は、彼らにとって戦争の道具っす。このままでいいわけないっす。彼らは、本当に俺たちを元の世界に戻せるっすかねえ。あるいは戻せたとしても、敢えて戻さないことだって考えられるっす。もっと探る必要があるっす」


 それには同感だが。


「探る方法、何かあるのか?」

「いまはまだ模索中っす」


 だろうと思った。

 この三人にはあまり期待できそうもない。



 しかし彼らに会ってから三日目のことだった――。

 糸鵜翔伍が棚家玲苑に横目を送る。


「そろそろ信用してはどうだ?」

「うーん……」


 棚家玲苑は考え込んだ。

 安藤竜も糸鵜翔伍に同意する。


「わたしも信じていいと思います」


 棚家玲苑は二人に首肯し、じっと俺の目を見据えた。


「すまなかったっす。これまで颯太さんを少しだけ疑っていたっす。だから重要な話を内緒にしてて……。でも俺も颯太さんを信じることにしたっす。ヒヒヒヒ。実は俺たち、ある計画を企てたっす。聖騎士たちの秘密を暴くためっす」


 ある計画? ちょっと興味深い。


「でも他言無用を約束できるっすか?」

「わかった。秘密は守る。聞かせてくれ」


 棚家玲苑の目が鋭くなる。


「情報収集の手段として、俺たちがいまやろうとしているのは……ズバリ、ハニートラップっす!!」


 なんだと思えば。真顔で言うなよ。

 そんなもの、うまくいくものか。


 俺は溜息をついた。


「だいたいそれ、相当なイケメンじゃなければ無理だぞ」


 どう見ても三人は色仕掛け要員には向かない。

 はっ、まさか俺を色仕掛け要員に!?


「この面子の中から仕掛け人を出そうなんて、さすがに考えていないっす。だけど最高の仕掛け人を用意したっす」


 そういうことか。まあ、そうだよな。

 だいたい仕掛け人が男じゃ、仕掛ける相手も見つかるもんじゃないし。


 でも普通に考えればハニトラなんて、なかなか成功するものじゃない。それなのに、この三人の自信に溢れた顔はなんだ。


「ハニトラ要員ってどんなヤツだ。超美人でも用意できたのか」

「そりゃもう超美少女! 彼女は協力に同意してくれたっす」

「勿体つけずにハッキリ言え。どんなヤツが協力者に?」


 彼はペンと紙切れを取り出し、さらさらっと走り書きした。

 それをこっちに向けて差し出してきた。


 紙の上部に【リコちゃん♡】と書かれている。

 嫌な胸騒ぎがした。


「リコちゃんってまさか……」


 紙の下部の文字を追う。

 そこには【窯山莉子】の文字があった。


 窯山莉子……カマヤマ・リコ。

 圜子か! 旧姓は窯屋。カマヤ・マリコ。

 またもやその名前が出てくるとは。

 最も関わりたくない人物だ。


 棚家玲苑は大きくうなずいた。


「そう。めちゃくちゃ可愛くて評判のいい、あのリコちゃん♡っす!!」


 リコちゃん♡四十七歳。

 現在、離婚予定の悪妻だ。


 しらけた。一気に全身脱力した。がっかりだ。

 仕掛け人なんて責任のある大役、圜子にゃ無理無理。

 絶対に失敗するに決まっている。


 安藤竜が俺を見ながら首肯する。


「みんなの憧れリコちゃん♡が聖騎士の男と親密になるの、悲しいですか。わたしもちょっぴり悲しいです」


 悲しくはない。ついでに夫としての嫉妬も怒りも喪失感も苛立ちもない。


「その『リコちゃん♡』さんのターゲットは誰にするつもりだ? 聖騎士団長のグリガンか」


 聖騎士の下っ端をターゲットにしても、たいした情報は入ってこないだろう。俺たちにとって最も有益なのはグリガンだ。情報入手先としてだけでなく、うまく操ることができれば最高だ。まあ、圜子じゃ失敗するだろうけど。


 棚家玲苑が首を横に振る。


「ちげぇっす。オーキュネンっす」


 ああ、聖騎士副団長か。


「どうせならグリガンを狙ったらどうだ」


 こう言っちゃなんだが、グリガンのルックス、喋り方、声質、体臭……。決して異性からモテるタイプには思えない。そういうヤツこそカモになりやすいのではなかろうか。


 棚家玲苑、糸鵜翔伍、安藤竜の三人はそろって視線を落とした。


「リコちゃん♡、相手がイケメンじゃないとイヤだって言うっす」


 なんてこった。


 でも確かに圜子ならば、いかにもそう言いそうだ。


 圜子には期待できない。やはり聖騎士を探るのは、俺自身でやらなきゃ駄目だということだ。そもそもハニトラなんて外道中の外道。クズの発想だ。


 ならば俺一人で何ができる? 聖騎士を探る方法ってあるか?

 テントに帰って一人になると、月輝姫がアドバイスをくれた。


「式神遊戯を極めるといいわ」

「はあ? 式神なんかで何ができる」


 確かに式神の攻撃力は凄まじい。だが聖騎士の本意まで探れるというのか。いやいや無理がありすぎるだろう。


「式神をここに置いてテントの外に行ってみなさい。そしてわたしの声を聞くの」


 外に出ろって? 俺に何をさせようというのだ。意図はわからないが、月輝姫の言葉に従った。


 式神を中に残して、一人で外に出た。

 テントの中にいる月輝姫の声を聞けばいいんだよな。

 耳を澄ました。


「聞こえる?」


 月輝姫の声だ。


 しかしその声には違和感があった。テントの中から聞こえたのではない。頭の中に響いたものだった。いまのはなんだ?


「聞こえた。でもこれはどうなっている?」


 頭の中で応答し、逆に尋ねた。

 しかし月輝姫からの返事はない。

 頭の中の声は一方通行のようだ。

 だから声を出した。


「聞こえたぞ」


 ふたたび月輝姫の声が頭の中に響いた。


「成功ね。さっき、わたしはここの式神に小声で囁いたの。『聞こえる?』って。わたしの声は式神を通してあなたに伝わった。これが式神を使用した技能。つまりあなたは式神に耳の役割を与えたということ」


 テントに入り、月輝姫に尋ねる。


「式神を遠くに飛ばせば、遠くの声や音を拾えるってことだな」


「そう。ただし、いまのはわたしの声だったから、式神を通じて頭の中で聞き取れただけ。わたしの声以外も聞き取りたければ、それなりの訓練が必要ね。きっと努力次第では、式神を耳としてだけでなく目としても使用できるようになるわ」


 なんと! こりゃすごい! 式神から視覚情報も得られるようになるのか。

 こうして日々の訓練内容が変わることになった。



 ある晩のこと。


 麦宮豪(むぎみや・ごう)という男が俺のテントにやってきた。


 決して知らない人物ではない。彼は九夏紅斗と親しいため、ときどき俺とも話す機会があった。


 百何十人もいる日本人の中で、麦宮豪は割りと有名な人物だ。というのは彼には連れがおり、そのバカップルぶりがとても目立っていたからだ。二人は転移前から夫婦だったそうだ。妻の名は麦宮美希。


 で、彼は何故ここに来た?


「副リーダーに相談があって……」


 確かに俺は、食事に一品ほど多くもらえる副リーダーだ。でも勘違いしてないか? 副リーダーの役割は、担任教師などとは違うんだぞ。


 とはいえ、彼を突き放すことはできなかった。


「ちなみに紅斗には相談してみたか?」

「した。紅斗からは副リーダーにも相談することを勧められたんだ」


 ヤツめ、俺に投げるなよ。


「ふうん。で、相談の内容って?」


 彼の愛妻のことだろうか。もし妻に贈るバースデープレゼントとか、結婚記念日のサプライズとかの相談だったらブチ殺す。


「ふ……副リーダー? 目が怖いけど」

「単なる疲れ目だ。気にしないでくれ」


 麦宮豪がとつとつと話す。

 一瞬、耳を疑った。


「なにっ、奥さんが不倫!?」


 急に親近感が湧いてきた。





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