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HOPEs  作者: 赤猿
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第94話 目覚め




「何だ…………コレ……」



 倒れる仲間と1人立つ敵。そしてその拳を撃ち込まれた那由多。



「……ッはぁ……っはぁ……!!」


 俺の視界に飛び込んで来た光景は、地獄そのものだった。




「目を覚ましたか。だが、少々遅かったようだな」


「……お前……」


「安心しろ。誰も死んではいない。この女は分からんがな」



 そう言ったゼウスは那由多を軽く突き飛ばす。俺は倒れる那由多の姿をただ見ている事しか出来なかった。


「那由っーー」


「男が狼狽えるな。情けない」


「……っ…………」



 全身に鳥肌が立つ。寒い。気持ち悪い。頭に酸素が届いていないような感覚。


 尋常じゃない嫌悪感の中、俺が唯一自覚出来た感情は怒りだった。



「はぁ…………はぁっ……!」



 倒れた仲間と那由多、死屍累々の上の立つゼウス、そして何より眠っていて何も出来なかった自分。


 全てが怒りを加速させる。



「何なんだよ……コレ…………っあ“ぁ……!!」



 そんな時、突如として激しい痛みが俺の体を襲う。



「狼狽えるなと言っているだろう?」


「ぐっ……ぅあ…………!?」


 あまりの痛みに俺は胸を押さえ地に膝をつけた。



(死ぬ!? 痛いなんてモンじゃ……!!)



「っクソ……何だってんだ……!?」


(身体が千切れッーー)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「何だというのだ、いきなり苦しみ始めて。

 まさか死んだか?」


 ゼウスは怪訝そうな表情で静かになったアレスを見つめる。膝立ちで力無く俯いたその姿は、まさに死人のようだった。



「………………ウ”ゥ……」


 しかしその疑念はすぐに振り払われる。


「今のは……獣の呻き声?」


「グゥ……ルルゥ……!」



 声の主はアレスだった。先程まで力の籠っていなかった腕は強く握り込まれており、その身体は小刻みに震えていた。



 だが特筆すべき点はそこでは無かった。捲られた袖から見える腕、首、顔。露出している肌という肌から黒色の毛がびっしりと生え始めている。


「……ははっ、そう来たか!」


「ウゥ……グゥワァァッ!!」



 雄叫びと共に体毛が一斉に伸び、肉体の骨格が人とはかけ離れたモノに変わっていく。

 身長と肩幅はみるみる内に大きく変貌しそれに伴って筋肉も肥大していった。



「ウ“ゥウウゥゥ…………」


「つくづく面白い男だっ、お前はッ!!」



 巨大化する肉体はアレスのウィンドブレーカー(ウィンブレ)を破りその真っ黒な体表を(あらわ)にする。



「ウ"ガァルラ"ァッ!!」



「……ゆ……うと…………!」


「なんだ、死んでいなかったのか」



 腹部を抑えて何とか立ち上がる那由多を、ゼウスはただ見下していた。


「あまり無理はしない方が良いぞ。今動けば命に関わる」


「ゆうと……ダメっ…………!」


「聞こえなかったか? それとも理解していないのか? 要は『余計な真似をするな』と言ったんだ。今度こそ殺してやろうか?」


「ゆうとっ!……起き……てっ!」



 しかし那由多はゼウスの言葉には耳も貸さずにアレスへと一歩づつ近付いていく。




「…………はぁ、勘違いするな。俺はお前に興味も関心も無い」


 ゼウスは拳を振り上げる。



「お願いッ……ゆうとっ!」


「死ね」



「いや、死なせない」


「ーーッ」


(何だ……!? 身体が動かないッ!)



 腕を振り上げたままの体勢でゼウスは硬直する。その背後には1人の男が立っていた。


「その女は、俺の恩人の想い人だ」


「貴様…………誰だ?」


「お前に教える義理は無い」


「……コレはお前の神力か?」


「あぁ。元々は物の形を変えるだけの力だったんだがな」



 そう言って男は黒いコートをなびかせる。


 その直後口から大量の血を吐いた。


「ほぅ。強い拘束力だがそれなりのリスクはある様だな」


「げほっ……この程度で真神力者を足止めできるなら安いもんさ。

 今度はコッチから質問だ。数ヶ月前のセトの暴走、あの時彼の妻を銃で撃った者が居たと聞く。お前の差し金か?」


「……さぁな」



「黙秘か。なら無理矢理やらせてもらう」


「…………『俺の指示だ』……ッ! 口が勝手に……何の神力者だ貴様っ……?」



 流れ出る血は止まらない。それでも男が拘束を解く事は無かった。

 


「俺の神力はーーぐフッ!……どんな物も、人も支配する…………ベルゼブブだ」


 坂東の視線は這いずる那由多へと向けられている。



(お前達のような子供にばかり任せてすまない。せめて時間稼ぎくらいはッ……!)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




(…………どこだ、ここ……)


 アレスは今日3度目の目覚めを一筋の光が差し込む暗闇の中で迎える。


(何だ……身体が沈んでいく……)



 まるで深海のような暗闇でその身体は落ち続けた。



(……そうだ、早く……戻らねぇと…………)


 思い出したように必死にもがき始めるも、浮かび上がるどころか一切の抵抗すら発生していない。


(クソ………………あれ……何で戻らなきゃいけないんだっけ……)


 ただ不思議とその表情に怒りは無かった。



(……戻っても……どうせ勝てねぇだろ……)



 次第にアレスの動きは鈍くなっていく。



(てか……何してたんだっけ……? 確かゼウスと…………ゼウスって誰だ…………?)


 そうアレスが考えている内に表情からは生気が無くなり、自然とまぶたも閉じていく。


 沈み続けるアレスを照らす一筋の光は、気がつくと糸のように細くなっていた。



(戦う…………何で? 何の為に……誰の……為に…………)



 ただひたすらに、際限無く落ち続ける。 



(……眠い)


 豆粒程の光すら届かなくなった時、アレスはとうとう目を閉じた。







(…………? 眩しい……光?)


 先程よりもずっと太くまばゆい光がアレスの体を包む。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー現実世界ー



「ぐっ……カハッ……!」


(耐えろッ! 耐えろッッ!! 少しでも多くあの子に時間をッ……)



 坂東の口、鼻、目。穴という穴から血が吹き出す。


(あと一分! あと一秒だけでーー)



「……立ったまま気を失ったか」


 ゼウスが手を触れるよりも先に坂東はバランスを崩しその場に倒れた。



「さて、ようやく邪魔が消えた。最後の殺し合いと行こうーーっ……貴様、何を……?」




 その瞳に映ったのは獣と化したアレスとキスをする那由多の姿だった。


 膝立ちで呆然とするアレスの頭をしっかりと抱き抱え唇を重ねる那由多の瞳からは絶えず涙が溢れ続けている。



 一方のアレスは叫び暴れていた先程までとは打って変わり静まっていた。


「……」



 それを見てゼウスは冷めたような顔をした後、人差し指を前に突き出し銃のように構えた。

 すると先端には小さな雷のような物が生み出される。



「……」


 少しの躊躇いもなく雷は放たれ、その矛先は那由多へと向けられた。


 光速の雷撃はそうして無防備な背中へと迫る。




 だがやはり、当たる事は無かった。

 雷は黒い獣の腕に吸い込まれていく。


「グウゥゥ……」




 アレスはこれまで幾度となくゼウスの雷を無力化している。雷が少しでもアレスに掠れば、即座にそのエネルギー全てが消滅したように消え去っていた。


 だがアレスの神力に『雷の無効化』という能力は含まれていない。




「馬鹿な……異神力者には一切の理性が無い筈では……」




 先代のアレスですら知る事無く死んだその能力は『電気の吸収』である。

 雷がもたらす絶大な電力量に体が絶えられず、吸収後即座に地面へ放電されていた為アレス本人も知覚出来ていなかった。


 

 しかし逆鎧さかよろいのシンボルを得て異神力者となった現在のアレスの体は、雷のエネルギーの内ごく一部を吸収し蓄える事に成功する。



 そしてアレスは吸収の感覚を知覚する事に成功した。


 その瞬間アレスの身体が光り輝く。



「んっ……眩しい……」


「ッ……今度は何だ!?」



 真神力者と異神力者への進化にはどちらも大きな感情が必要不可欠であり、その上で神力の練度によって分かれる。神力の練度が高い者は真神力者へ、そうでない者は異神力者へ。



 その二つを分ける基準点にアレスはギリギリ届いていなかった為に異神力者となってしまった。


 しかしたった今、アレスは自身の新たな可能性に気付きモノにした。



「光が消えた……?……勇斗、勇斗は!?」


「……那由多、ありがとう」



 そう言ってアレスは那由多を抱き寄せた。

 身体は人型に戻っていたが破れた衣服が戻る訳も無く、傷だらけの上半身がむき出しになっている。


「…………勇斗、もう平気?」


「あぁ。お陰で目ぇ覚めた」



 アレスが両手の拳を胸の前で合わせると、その背中からは白い翼が生え、頭の上には天使の輪が現れた。



「……お前も来たか、このステージに」



「那由多、離れてろ」


「うん……頑張ってね」


「…………」



「…………おいアレス」


「あぁ、これで本当に最後だ」



 2人は互いに睨み合う。両者共に体中傷だらけ血だらけで、端から見れば今にも倒れそうだ。

 しかしその鋭い眼光がそれを感じさせない。



「……俺は負けねぇぞ、ゼウスッッ!!」


 アレスは叫びと共に全身に赤い電流を纏う。


「俺だって負けられない、アレス!!」



 同時に飛び出した2人の拳は正面からぶつかり合い、強い衝撃波を引き起こす。

 波は島中を覆い尽くし、最後の戦いが始まった事を知らしめた。


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