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HOPEs  作者: 赤猿
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第91話 激闘

ー島内 中心部ー



 島の中心は森林地帯や海岸部とは異なり、広域に渡って黄土が露出していた。


 そこには絶えず砂埃(すなぼこり)が舞い続けている。




「ッ!! おらァッッ!」


「……ッチ……ふん!!」


 アレスは常時赤い電流を纏い、猛攻を仕掛け続ける。


「 うぉらぁッ!!」


「遅いっ!!」


「っ!」


 一方のゼウスは常にガードを固めてアレスの攻撃を受け流し、隙を見て反撃を繰り返していた。



「クソ……おらッッ!!!」


 思い切り踏み込んだアレスのアッパーをゼウスは身を躱しギリギリで回避するも、次いで繰り出されたストレートをモロに顔面で喰らってしまう。



「っ……」


(速い……分かっていたが避けられなかった……)



「ボーっとしてんじゃねぇよ!!」


 アレスの激しい攻撃はまだ終わらない。1秒間に4発のパンチと1回のキック。そのどれもが渾身の一撃。


 既存のどの格闘技にも属さないその高速の連撃は、神力とアレス自身の努力によってのみ成し得る技だった。



「まだまーーっ!!」


「ふんッッ!」



 しかしゼウスの体術も負けてはいない。アレスの攻撃をいなしながらも喉仏に掌底を打ち込む。


 ゼウスはアレスと比べ手数は少ないものの、殺意に満ちたその攻撃は一つ一つが確実にその体力を奪っていった。


「ぐっ……!」


「痛がっている暇は無いぞ!」



 先程までとは打って変わり、ゼウスが攻めアレスが守る形へと変化する。


「何だ、守りになった瞬間随分と逃げ腰だなぁ?」


「っ……うるせぇ!」


(コイツの攻撃全部ヤベェ……一発もマトモには貰えねぇぞ……)



 ゼウスの攻撃に中々カウンターを合わせられずにいたアレスだったが、両者が軽くよろめいたタイミングで仕掛ける。


「っ! 何を……」



 アレスはよろめきに自身の体を任せ、その勢いのまま強く地面を蹴りつけた。その身体が大きく跳びゼウスの真上へと位置付けたタイミングで、思い切り右足を振り上げる。


「……っ!!」


 アレスの意図を理解したゼウスは瞬時に真上へ向けガードを固めるも、(かかと)は凄まじい勢いで振り下ろされる。

 

 その衝撃はゼウスの身体を伝い、地面に大きな亀裂が走った。


「ぐッ……!!」


「ーーっくそ!」



 ゼウスは己の身体を捻り攻撃を地面へと逸らす。



「はぁ……はぁ……これも受け流せんのかよ……」


「馬鹿言え、受け流すとは言っても効いていない訳では無いわ……」



 2人は距離を取り臨戦態勢を取る。



「……アレス」


「ん?」


「強くなったな」


「……あ? 何だ急に」


「3ヶ月そこらでここまで強くなるとは思ってもみなかった。何かあったか?」


「……そりゃあもう、色々あったよ。半分くらいお前のせいだけどなっ!」



 アレスのジャブは的確に顔を撃ち抜いた。よろめきながらもゼウスはすぐに反撃の蹴りを繰り出す。



「俺のせいとは随分な言い様だな。直接的な原因は国民達だろう」


「うるせぇ。お前のせいではあるだろうが!」



 両者は手四つの姿勢で睨み合う。ゼウスの方が長身の為、少し見下す形で嘲笑うように話し出した。



「あぁそうか、ヒーローだから市民は庇わなきゃな。

 あんな事があったのに良くもまぁ、見上げた自己犠牲だ」


「……いや、それはもう変わった」



 アレスの膝蹴りで2人は一度距離を取ることになる。

 2人の間は10m程開いているが互いに間合いであり、相手から目を離す事は無い。



「ほぅ? つまりは自分が可愛くなってしまったと?」


「ちげー……って訳でも無いか。まぁそうだ」


「クソ生意気だったガキが随分と大人になったもんだ。前は見ていて恥ずかしいような理想論者だったからな」


「勘違いすんなよ。俺のなりたいヒーローはあの時から変わってねぇ」



 アレスの瞳が鋭く光る。



「……悪も正義も全部救いてぇ。でも俺にも俺の守りてぇもんがあるって話だ」


「おいおい、自己犠牲とヒーローはセットだろう?」


「いいや違うね。ヒーローってのは誰かの為に命賭けてでも頑張る奴の事だ」



「……やはり、ガキだな」



 ゼウスは一瞬で距離を詰め3発の連撃を叩き込む。



「頑張るだけでヒーロー? ふざけた事を抜かすな!」


「っ……ふざけてなんかねぇ! 俺は那由多から教わったんだ!」


「そんなヒーローが世に認められると本気で思っているのかッ?」


「こっちはただでさえ人助けしてんだッ! 責められる筋合いはねぇよッッ!」



 そう言って振り上げられた右脚はゼウスの顎を蹴り抜いた。よろめくゼウスにお返しの3連撃をアレスは撃ち込む。


「ッぐ……!」


「俺は仲間をッ! 家族を守りたいッ!!

 だからお前をここで止めるッ!!」


 浮いたゼウスの身体をアレスは再び蹴り抜いた。

 ゼウスは黄土の上を転がりながらも数回の落雷を引き起こし視界を奪う。



「っどこに……!」


「ーーそれがお前の"ヒーロー"か」


「ッ!!」


 アレスの背後からゼウスは腕を回しがっちりと拘束する。


(いつの間に…………っ!)



「だが俺もそう簡単に止められる訳にはいかないんだ」



 ゼウスはアレスを掴んだままバク宙し、そのままアレスを地面へと叩きつけた。


 すぐにアレスは立ち上がり反撃を繰り出すもその威力は先程までと比べ弱々しく、簡単に止められてしまう。



「……アレスよ。お前は強くなった……だがこの程度ではヒーローとは呼べぬ」


 ゼウスの膝がアレスの腹部へとめり込んだ。


「かハッ…………!」


 アレスは数十m吹き飛んだ後にうつ伏せで倒れ込み、纏っていた電流が消える。



 それを見たゼウスも力無く膝をついた。


「…………まだだ……早く決着を……」



 ゼウスは立ち上がろうとするも中々身体が言う事を聞かない。


「アドレナリンが切れたか……はぁ……」


 身体中至る所にあざや切り傷が付いており無傷とは到底言えないものの、大きな傷は無く運動機能に問題は無かった。

 だが先程までの戦いのダメージは確実に体内へと蓄積されていた。



「ふぅ…………よし」


 ゼウスは深呼吸して再び立ち上がる。



「……っ…………まぁ、そんな簡単に終わる訳も無いか……」



 その視線の先には拳を地面に突き立て、今にも立ちあがろうとするアレスの姿があった。



 アレスは顔を上げると同時に赤い電流を纏う。


「負けられねぇんだよ、俺は」


「……」



 両者は同時に一歩踏み込む。しかしアレスは、ゼウスが攻撃の構えをとった瞬間にバックステップを踏み距離をとる。


 そして腰を落とし、電流を右腕へ集め始めた。アレスの右腕はすぐに白く輝き始める。



(なんだあの腕は? 一度離れる……いや、攻めるッ!)


「ふんッッ!!」


一撃インパクトォッ!!!」



 間合いに入るよりも先にアレスは右腕を突き出した。


 当然その拳がゼウスへと命中することは無かったが、発せられた強い衝撃はその身体を100m余り吹き飛ばす。



「っ……ぐっ……! 何だ今の攻撃は……!? 爆発したのか!?」


「おぉら“ぁぁ!!」


 困惑するゼウスの顔面をアレスは容赦なく撃ち抜く。さらに数発の攻撃を加え最後に蹴り飛ばした。



「ぐハァッ……!……っふん!!」


 空中でゼウスは自身の体を回転させる。

 吹き飛びながらもタイミングを見計らい地面を思い切り蹴りつけた。するとゼウスの体はピタリと停止し、もう一度地面を蹴ってアレスへ飛びかかる。



「なっ!?」


「お返しだッ!!」



 ゼウスは右脚を大きく振り上げ、間合いに入った瞬間思い切り振り下ろした。


 何とかアレスは両手で攻撃を受けるも耐えきれず、背後へと飛ばされる。


「いってぇ……」


「今の攻撃を防ぎきれないとは……どうやら先程の技は負担が大きいようだな」



「……どんだけ頑丈なんだよテメェ?」


「おいおい、お前にだけは言われたくないな」



 2人は傷ついた体を相手へと向ける。


 アレスは真剣な眼差しで拳を握り、ゼウスは少し笑みを溢しながらも攻撃の構えをとった。




 後世まで語り継がれるこの戦いの、主役となる2人の男。彼らだけは、まだこの戦いが始まったばかりである事を悟っていた。

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