表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HOPEs  作者: 赤猿
85/100

第85話 分断


「ねぇ那由多ちゃん」


 ガイアはまるで友達に話しかけるように、フランクな口調で那由多に話しかけた。


「……」


 しかし那由多からの返事は無い。


「僕さ、同年代の友達が居なかったんだ。だからこうやって那由多ちゃんと話せて嬉しいよ」


「……」


「ま、これじゃ話してるって言わないか」


「何で僕がここに来たか分かる?」


「……」


「僕はね、秋斗あきとに恩返しをしたいの」


「……」


「ちょっと位返事してくれないと悲しくなっちゃうな〜」


「……貴女はーー」



 那由多の瞳は力強くガイアを睨みつけていた。



「貴女は恩人が人殺しをしていて何も感じないの?」


「ん……まぁ殺された人は可哀想だなとは思うよ。でも秋斗も可哀想だと思う。

 僕も秋斗もそういう生き方しか知らないもん」



「……それは言い訳だよ」


「そうかもね」



 その時、雷鳴があたりに鳴り響く。



「もう時間だ、行かなきゃ。それじゃあね!」


「……『隠れてろ』って言われてなかった?」


「うん。でもこのままじゃ秋斗が負けちゃうかもしれない」


「信じてないんだ」


「いいや? 秋斗は強いよ。でも頭数ではHOPEsに軍配が上がる、作戦によっては危ないかもね。

 だからそこを私が補うの」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 空気を裂くような雷の音と共に俺は走り出した。真っ直ぐにゼウスへと向かって。



 俺の拳をゼウスが掴み、ゼウスの拳を俺が掴む。俺達2人の力は均衡していた。


「ゼウスッ!!」


「うるさいわぁッ!」


 ゼウスが大きく振りかぶった直後、頭部に激痛が走る。



「っ……頭突きってマジかよッ…………っ!? 何だ!」



 突如地面が鳴動する。まるでスライムのように曲がりくねって俺はバランスを失ってしまった。

 

 周囲を確認したいが動き続ける地面に阻まれて立ち上がる事も出来ない。島全体が動いていたようだった。



「ッガイアか!? くそッ……!」



 何の抵抗も出来ず、ただ大地に流される。

 体にかかるGからとてつもなく速い速度で移動している事が分かった。

 

「ぐ……」


(一体どこまで……!)



 

 徐々に大地は落ち着きを取り戻し、停止した。島そのものの形が大きく変わっており、今島のどの辺りに居るか把握が出来ない。


 ガタガタの地面で見にくいが、周囲に人影は確認できなかった。



 ただ1つを除いて。



「全く……隠れていろと言ったんだがな」


「……」


「それじゃあ、仕切り直しと行こう」



 俺とゼウスは同時に走り出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「いったた……」


「アフロっ! 怪我は無いか?」


「ホルス……上手く分断されちゃったみたいだね」



「2人は付き合ってるの?」



 ホルスとアフロは声の方に振り向く。


 そこに居た女に見覚えがあるのはホルスだけだった。



「ガイア……」


「ガイアって……あの子が? 私より小さい……」


「僕だって身長伸ばせるなら伸ばしたいよ。

 それより、2人は付き合ってるの?」



「お前に教える義理は……無いッ!」



 ホルスは飛び立ち、アフロを抱えて空を旋回する。


「ちょ……」


「アイツと戦う時は地面に近ければ近い程不利だ。僕が攻撃を躱すからアフロが弓で攻撃してくれ」


「あ……わ、分かった!」



「はぁ。もうちょっとお話したかったな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うっ……止まったか?」


 ハデスは立ち上がりながら辺りを見渡す。辺りの地面は凸凹でこぼこしており、遠くを見渡す事が出来なくなっている。


 そんな中、一本のつのが見えた。



「スサノヲ!」


「ハデスか……一体何があった?」


「分からん。だが分断されたようだ」


「なら近接戦闘に長けた俺達が他の奴らと合流すべきだ」


「あぁ、すぐに…………とは行かなそうだな」



「グゥルルルゥ……」



 2人の目線の先には全員の毛を逆立たせた狼男が立っていた。



「とっとと片付けるぞハデス」


「……そうだな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 余り物2人が向かい合う。


「分断ねぇ。俺としてはハデス辺りと()りたかったんだけどなぁ……」


「私はお前だけを見ていた」


 一方は落胆し、一方は(たぎ)っていた。



「……? 俺達会った事あるか?」


「お前は私の友人を怪物に変貌させた。いわゆるマッチョ……お前の言葉を借りるなら“眷属“か」


「あーそういう事ね。それで? 俺をどうするつもりだ」


「まずは拘束する」


「へぇ……じゃあーー」



 ヴァンパイアはバネのように跳ね、一瞬でシシガミとの距離を詰める。


「やってみろ」


「……勿論」


「ーーっ!」



 地面から伸びる無数のつたがそれぞれ絡み合い、一本の強靭な縄となってヴァンパイアの両足を縛り付ける。


 そのままヴァンパイアの巨体は宙に浮き上がり何度も地面に叩きつけられた。


 

 しかしヴァンパイアの表情には依然笑いが宿っている。



「こんな攻撃……いくら繰り返そうが意味は無いぞ?」


「……」



 つたはどんどんとヴァンパイアの体に巻き付いていく。その巨体が完全に隠れた頃、つたの動きが止まった。



「……私の友人は良い奴だった」


「……」


「優しくて、困っている人が居たら見過ごせない。住職としては勿論、いち市民として多くの人の助けになっていた。お前はそんな男を化け物に変えた」



「別にそんな事は知らねぇけどよ……戻して欲しいのか? 元の姿に」


「あぁ」


「嫌だね。俺にそれをする理由が無い」


「しなければ殺す」



「……ハハっ! ヒーローが言って良いセリフじゃねぇな。

 ま、それで言うと……」



 ヴァンパイアの体を締め付けるつたが一気に弾け、白色の皮膚が再び露わになった。


「この程度じゃ俺を殺せない」


「そんな事は分かっている。今のはただの時間稼ぎだ」


「……ほう」



「私は基本的に拘束で勝負を決着させる。人を傷付けたくは無いからだ。

……安心したよ、お前は人間じゃない」



 シシガミがそう言うと地面が割れる。その間から数十本の木が飛び出し、互いに絡み合って一本の大木へと変わっていった。



 次第にその大木は人の形へ変貌していく。長く大きな両腕を携え、髪の毛代わりの木の葉をなびかせる木の巨人。その腹の辺りからシシガミがヴァンパイアを見下していた。



「操作限界37m。守人もりびと


「…………ハハ、良いねぇ……俄然がぜんやる気が出てきた」


「……」



 守人の右腕がヴァンパイア目掛けて振り下ろされた。それを両手で受け止めようと構えをとるヴァンパイアにシシガミは口を開く。



「そんなもので止められると思っているのか?」


「たかが木を俺が止められないとでも?」


「『たかが木』……か」


「俺を舐めるんじゃーーッ!?」



 ヴァンパイアは予想外の重量に驚く。何とか膝を割って耐えるも、どんどんと沈み込んでいく地面に埋まっていった。



「守人を構成する木は極限まで密度を高めている。密度は重さだ。

 どうだ、耐えられそうか?」



「なるほど……なっ……!」


「悪い事は言わん。今すぐ眷属に変えた人々を元の姿に戻せ!」



「……くっ……嫌だね……」


 徐々に沈み込む体を他所に、ヴァンパイアは依然、笑顔を保っている。


「殺すぞ」


「……こっちも……っ……意味無く化け物作るほど悪趣味じゃねえんだよ……眷属ってのはな、数少ない適性のある人間に俺の血を与えることで生まれるんだ……!」



「そんな事はどうでも良い。早く元に戻せ!」


「適性のない人間の方が……圧倒的に多い中、俺がせこせこ眷属を増やした理由はっ……ぐっ……何だと思う?」



「……っ? 何だ?」



 重みに耐えて震えていた足が落ち着きを取り戻す。沈み込んでいた体が元の高さまで戻り、ニヤけた口元も更に吊り上がる。



 異変が起きたのはその後だった。35mを超える守人に対してその10分の1程しか無かったヴァンパイアの体が、8分の1、6分の1と膨れ上がっていき、最終的には3分の1程にまで巨大化した。




「俺の神力の真髄、それは眷属の数によって際限無く強くなるところにある。

 もうちょっと隠したかったんだがな」



 ヴァンパイアは守人の大きな腕を弾き、掴み直して背負い投げする。


「これでパワーは互角以上。さて……まだ俺を殺せると思うか?」


「あぁ。問題無い」


「ハハハッ! 良いねぇ……本格的に楽しくなってきた……!」



 立ち上がった守人とヴァンパイアは互いに見つめ合う。

 依然見下ろす姿勢ではあるが、先程までの体格差はそこに無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ