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HOPEs  作者: 赤猿
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第81話 帰宅

ー3月23日 19時ー



 アジトに戻った俺達は小1時間ほど休憩し、会議を始めた。


 HOPEs全員でテーブルを囲むのは実に7週間ぶりの事だ。俺達以外にもスーツを着た大人が何名かテーブルの横に立っている。



 机上には人数分の飲み物だけが置かれていた。



「来たる4月1日、ゼウスとの決戦の日は近い」


 ハデスさんがパソコンをいじると、テレビには何処(どこ)かの航空写真が映し出される。


 埋め立てられた四角い土地の先、湾の中央に不自然な島が浮かんでいた。

 


 その島は深々とした緑で覆われおり中央部だけ黄土が露出している。



「ハデスさん、ここは?」


「現在の東京湾の写真だ」


「っ……」



 ハデスさんの発言にその場の全員が目を見開く。俺も特段地理に詳しい訳ではないが、東京湾にこんな物が無かった事位は知っている。



「これについては葛城(かつらぎ)警視監からお話を頂く」


 そう言ってハデスさんは1人のスーツの男性の方へ振り向いた。数名の中で最も髪が白みがかっている。



 葛城警視監。警察組織が瓦解した今、残っている警察官のトップに立ち指揮をとっている人物だ。




「葛城です。この島が確認されたのは一昨日未明、避難中の市民によって発見されました。

 この地区はゼウスとの決戦に使われるという事で避難勧告が出されているため、作成過程を目撃した市民はいませんでした」



「とは言え不自然だ」


 シシガミが声を上げる。


「その通りです。なので我々はこの島は神力者が作った物だと踏んでいます。

 もっと言えば、ガイアの仕業だと」



 一部の警察官にはゼウス陣営の情報、またHOPEsの現状を報告している。葛城さんはその1人だ。



 葛城さんの話が一通り終わった後、ハデスさんは再び口を開く。



「私としても同じ見解だ。そして恐らくはこの島こそが決戦の場だろう。

 ガイアは木や土を操るうえ、操作範囲が桁外れに広い。奴にとっては街中よりも余程戦いやすいフィールドだ」




 そう言いながらハデスさんはパソコンに触れる。次にテレビへと映し出されたのは4枚の写真だった。



「ここで一旦ゼウス側勢力を整理する。これらはすべてケラウノス計画の際に撮影されたもので、先日なんとか警視監が入手した物だ。

 左上に写っているのが恐らくガイア、黒いマントを被っているため顔は見えないが、使用している神力から察するに間違いない」



「戦闘経験があるのは僕とスサノヲ、顔を知ってるのは僕だけですね」



「あぁ。だがこの中で言えば比較的接触の多い人物と言える。

 左下はヴァンパイア、本名『千賀蓮』。

 白色の皮膚と膨れ上がった筋肉が特徴。自我を持たない同様の特徴を持つ、アレスの言うところの『マッチョ』の元凶であると推測される人物だ。接触があるのもアレスだけだな」



「はい。直接戦闘した訳ではありませんが……相当強いと思います」



 あの光景は忘れたくても忘れられない。


 たった数十秒でTOMORROWsトゥモローズ3人を惨殺。並の実力じゃ出来ない事だ。



 アイツらはまだまだこれからだった。良い奴らだった。俺はアイツらを許さない。でも、俺以上に憤慨しているのはシシガミだろう。


 

 シシガミの表情はいつも通りの冷静さを保っていた。しかしその目に光は無い。



「…………コイツは、私にやらせてほしい」


「すまないがそれは状況による。どちらにせよ、ヴァンパイアは捕縛しマッチョ化を解く術を聞き出すつもりだ」



「……分かりました」


 少しだけ俯いてシシガミはそう答えた。



「……よし、次に右上。この狼人間のような生物は神獣か神力者かも分かっていない。だがケラウノスの際、防衛省庁舎をガイアと共に襲撃していた」



 画面が映し出された時から気になっていた。4人の中で最も情報量の少ない人物で、俺自身も初めて見た。


 その体はハデスさんよりも二回り大きく、人間よりも狼に近く、二足歩行の獣のように見える。



「戦闘スタイルはシンプルな近接戦闘。牙と爪を使った斬撃がメインだ。スサノヲか私、『硬化』のシンボルを持つホルスのうち誰かが応戦するべきだろう」



 ホルスは頷き、スサノヲは背中の剣を握る。




(…………次は……)



「……そして右下はゼウス。皆も良く知っているだろうが雷を操る神力者で、近接戦闘能力も高い。コイツはーー」


「すいません!」



 俺はハデスさんの話を遮る。そして立ち上がって頭を下げた。


 最初に声を掛けてきたのはアフロだった。


「どうしたの急に……? 何かあったの?」



 顔を上げると皆が優しい表情でこちらを見ている。


 少しの違和感を感じながらも俺は続きを話し始めた。



「……俺、皆に言えなかった事があるんだ」


「言ってみなさい」



「ありがとうございます。

 詳細は分かりませんが、奴は……ゼウスは、何らかのシンボルを持っています」



 セトから聞き出したは良いが、皆に伝える事が出来なかった。打ち明けるなら今しかないだろう。




「……そうか」


 ハデスさんはそれだけ言って俺の方を見つめる。



「すいません。俺が弱かったばっかりに、皆に報告出来ませんでした」


「別に構わないよ。考えがあっての事だろう?」


「……」


「どうした? まだ何かあるのか?」


「いや……なんかあっさりだなって……」



「シンボルの有無が分かってもその詳細が分からなければ、こちらから出来る事は無い。そもそもシンボルが有ろうと無かろうと奴は警戒しなければならない相手だ」


 

「えっと、そっちじゃなくて…………」



「ん?……あぁ、アレスが隠していた事に対してか? それならもっと問題は無い。私達はお前に絶対的な信頼を置いている」


「……」


 皆の方を見るとアフロもシシガミもホルスもスサノヲも、俺を見て微笑んでいた。



 皆の強さを信じられずに情報を秘匿した。そんな自分が恥ずかしくなったと同時に、HOPEsに所属している事が誇らしくなる。



「アレス」


「はい?」


「対ゼウス戦は雷が効かないお前を主軸として戦う事になる。頼んだぞ」



 アイツと、る。3度目の正直だ。



「……はい」



「よし。これでゼウス勢力は全てだ。それと当日は朝からヘリコプターで現地まで移動する事になる。皆、それまでにコンディションを高めておくように。

 葛城警視監、何か補足はありますか?」



「そうですね…………ケラウノス時の警視庁庁舎と防衛省庁舎、また国会議事堂の三地点以外の襲撃箇所についてですが、『神の会』メンバーの犯行で間違いありません。つまり、神力者は基本いないはず。

 ですので決戦当日、我々警察と自衛隊の残存戦力で各地点の警察署の制圧を行います。この事は極秘ですのでどうか内密に」



「分かりました」



「それと現在、例の動画により犯罪発生件数はケラウノス前の3分の1程に減少しており、むしろ以前よりも治安が良くなっている状態です。

 ですので皆さん、国は我々に任せてどうか休息を」



「だそうだ。私と警視監からは以上だが、他に何か言いたい事がある者は?」



 ハデスさんの問いかけに反応する者はいなかった。

 葛城さんと数人の大人が一礼して部屋を退室する。





 ようやく、この時が来た。



「…………皆さん、お願いします」



 俺の声に合わせて扉が開く。そこから佐竹夫妻とドールさん達が幕のかかったキャスター付きテーブルを押してリビングまで入ってきた。



 心臓の鼓動が高まっていく。



「えーっ、それじゃあ皆………………ホルスの帰還とアフロホルスの交際を祝ってーー」



「「乾杯!!!」」


 皆のグラスが集まり綺麗な音を立てる。


 それと同時に佐竹夫妻が幕を持ち上げると、テーブルの上には色とりどりの美味しそうな料理の数々が並んでいた。



「うまそー! これ全部佐竹さん達が?」


「えぇ。僕と妻、それにドールさん達で腕によりをかけて作りました。おかわりもあるのでじゃんじゃん食べてくださいね!」



 それぞれが皿に料理を取り分けていく。


(何から食べよう……お、このトンカツ美味そうーー)


「隙あり〜!」


「あっ! ちょお前アフロ! それは俺が狙ってたヤツだろうが!」


「狙ってたとか関係無いから! 先に取った方が偉いんだよ?」


「……また太るぞ?」


「あ!? それだけは絶対言っちゃダメでしょ!?」


 

 大きく口を開いたアフロは真っ直ぐにホルスへと抱きついた。


「ねぇホルスー! アレスがイジワルしてくる!」


「子供か」


「え? ホルス私の彼氏だよね?」


「まぁ……そうだが。別に付き合ったら全てを肯定する訳では無いだろう?」


「正論やめてよぉ〜!!」



 アフロは流れる涙をホルスの白いジャケットで拭う。


 それを見たホルスはため息をきながら、そっと頭を撫でていた。

 2人共顔が赤くなっている。



「……なんとも不思議な感覚だな、アレス」


「スサノヲ……どうしたんだ?」


「いや、友人が交際するという経験が今まで無くてな。何というか……小っ恥ずかしい」


「まぁアイツらはちょっと初心うぶ過ぎる気がするけどな。

 そういやお前は誰かと付き合った事あんのか?」



「無いぞ。そもそも中学校を卒業してからはバイトと鍛錬の繰り返しだったからな」


「何だよつまんねぇな〜」



 ま、予想通りと言えば予想通りではあるが。



「……あれ? ホルス達どこ行った?」


 部屋を見渡すも2人の姿はどこにも無かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーアジト 廊下ー



「どうした? 『皆のいない所で話したい』なんて」


「あぁ、ごめんね……」


 アフロはもじもじしながら下を見る。両手は体の後ろに回しており、何かを持っているようだった。


 2人の顔はまだ赤い。

 


「……今日ホルスと会えたら、渡そうと思って昨日作ったんだけど……これ」



 そう言ってアフロはホルスへ手包を渡す。


 中から出てきたのは小さなカップケーキだった。


「これは?」


「バレンタイン。ほら、なんだかんだ渡せて無かったから……ちなみに意味とかって……いや知らないよね! ごめん、気にしないで」



「『特別な人』」


「え?」


「カップケーキの意味だ」



「……意外、ホルスこういうの知らないかと思ってた」


「まぁ……さっきまでは知らなかったよ」


「『さっきまで』?」



 不思議そうに顔を覗き込んでくるアフロから目を逸らし、小さな声でホルスは答えた。



「…………たから」


「え?」



「……調べたから…………ホワイトデー……渡す用に」



 ホルスの顔が真っ赤に染まる。アフロも赤くした顔を隠すようにホルスへと抱きついた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 リビングの扉が開く。


「あ、来た。お前らどこ……何やってんだ?」


 入ってきたホルスの足にはアフロが抱きついていた。

 ずいぶん強く抱きついているようで離れる気配が無い。



「何でもない、気にしないでくれ」


「うん……何でもないぃ…………」



「いや無理だろ。絶対に何かしらがあっただろ」


(……でも悪い事があった感じじゃねぇし。まいっか)



「そういえば、アレスは那由多ちゃんから何かもらったのか?」


「貰ってねぇよ。まぁ色々あったしな。いて言えば睡眠薬入りのクッキーは食わされたけど」



「……『友達でいましょう』」


「え?」


「バレンタインのクッキーの意味だ」


「……え? いやノーカンだよな? だってお前らも食べてたよな?」


「さぁな」


「ノーカンだよな? 頼む、ノーカンって言ってくれよ!? なぁ!?」



 俺はアフロが抱きついていない方の足へと抱きつく。

 


 『那由多のクッキーの真意や如何に』という不安が心の中に広がる。


 でもホルスが帰ってきた事を強く実感したことによる“嬉しさ“が、それを上回っていた。



(…………楽しい)


 俺は素直にそう感じた。



 そんな他愛たわいもない時間は唐突に終わりを迎える。


 ポンッという小気味良い音がリビングに鳴り響いた。



「…………お、おいホルス……」


「あぁ………………あれ……」



 俺達の目線の先には、あろう事かワインをラッパ飲みするハデスさんとシシガミ、スサノヲの姿があった。



「どうだ2人共? 良いワインだろ?」


「プハァー! このワイン美味いな!」


「そうですね、これ何てワインですか?」



「まずいぞ……こうなると…………」


「っ!……おいアフロ! 僕から離れろ!」


 ホルスが無理やりアフロを引き剥がそうとするも、足にしがみついて離れない。



「……まだ大丈夫だよな?」


「…………んぇ?」


「ッアレス!!」



 背後から響くホルスの声を無視して俺はシャワールームへと駆け込む。



「………………風呂、入るか」

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