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HOPEs  作者: 赤猿
78/100

第78話 再会2



「久しぶり、勇斗」



「な……母さん……」


(何で……こんなところに……?)


 突然の母親の登場に俺は驚きを隠せない。


 去年の5月に別れた以来、実に10ヶ月ぶりの再会だった。

 驚く俺をよそに礼司れいじさんは冷静に話し始める。


「貴方達がここに来るのは時間の問題だと思っていました。そうなった時、私だけでは役不足だ」


「だから私が来たの」



「……違う。何で居るのかじゃない、俺が気になってるのは何で来たのかの方だよ。

 ここに居るって事は俺を止めるつもりなんだろ?」


「うん。そうだよ」


「何で? HOPEs入るって言った時は応援してくれたじゃねぇか!」


「あの時はね」



 取り乱す俺と冷静な母さんのギャップで、俺は置いていかれたような気持ちになる。



 そんな俺の心情を察してか、他に目論見があるのか、礼司さんが奥の扉を指さしてこう言った。

 

「……一旦、お二人で話してもらいましょう。アレス君も笑美(えみ)さんもそれで良いですね?」


「えぇ、ありがとうございます」


「……」


「さ、いきましょ」


「……うん」


 俺達は二人で例の部屋へと入る。中は先程の部屋をそのまま縮めたような綺麗な部屋だった。


 母さんは羽織っていた白いコートをソファにける。



「……ごめんね、急に」


「何で今なんだ?」


「……別に理由という理由は無いの。ただ、心配で……」


「それは……まぁ分かるけど。でもこれまでいくらでもタイミングはあっただろ? それこそ『HOPEsに入る』って言った時とか」


「……」



 母さんの様子がおかしい。どこかバツが悪そうにしている。



「……母さん? 何か事情があるのか?」


「あ、ううん。そういう訳じゃないの…………」



 そう言って母さんは深く息を吸い込む。


「……?」



「ふぅ…………私ね……勇斗がHOPEsに入りたいって言った時、少しだけ喜んじゃったの」


「喜んだ……?」


 俺にはその言葉の意味が分からなかった。何故こんなにも申し訳なさそうにしているのかも。



「お母さん達さ、勇斗がまだちっちゃかった頃に離婚したでしょ?」


「え……うん」


「ちょっとした喧嘩からどんどん顔を合わせるのが不快になってね……でも離婚するってなった時、私は悲しかったの」


「……」



 あの頃はまだ小さくて何が何だか分からなかったが、俺も父さんは好きだったし会えなくなるのは悲しかった。

 きっと母さんも好きだったんだろう。

 

 でも恐らく、母さんの『好き』は俺とは違う。




「ごめん、急にこんな事言われても困っちゃうよね」


「いや、大丈夫……」


「……それから10年、汗水垂らしながら頑張って勇斗を育てた」



 そう語る母さんの顔はどこか満足げだった。しかしすぐにその顔が曇る。



「でもアナタが中学生になった頃から、少しずつお父さんに似ていった」


「……」



 もう何となく察しがついた。



「もちろんアナタを恨んだ事も、心から嫌いになった事も無い……」



(…………聞きたくねぇな)



「……でもその顔を見る度にお父さんを思い出して……辛かったの。ごめんね、こんな事言うべきじゃ無いよね……」



 俺は、涙を流す母さんから顔を背ける事しか出来なかった。


 その状態のまま口を開く。


「……だったら尚更。何で今来たんだ?」



「…………出ていった時は心がスッと軽くなったけど……アナタのボロボロな姿をテレビやニュースで見る度、どんどん不安な気持ちが増して……」



「だから俺に、ヒーローを辞めて欲しいと」


「ごめんね……都合が良いのは分かってるけど……でも辛いの……っ!」



 俺は母親が嫌いではない。女手一つで育ててくれた事には感謝しかない。


 だがここでヒーローを引退するなんて選択肢は正直、無い。




「……」


「ごめん……ごめんね…………っ! 勇斗!? どこ行くの!」



 選択は今では無い。直感でそう感じた。



 俺は来た方とは別の扉を開けて廊下に飛び出す。


 そしてそのまま電流を纏い館内を走る。



(アイツに会わなきゃ……助けるんだ……! それに何か……俺の中で何か、答えが出かかってる……!)



 俺はただひたすらに走り、目に付いた部屋のドアを一つ一つ開けていく。


(どこにいる……? てかそもそもこの館にいるのか?)


 いくらドアを開けても俺も探しものは見つからなかった。

 それでもひたすらに探し続ける。



「…………」


(どこだ……! どこにいる……!)



 走る俺の脳内に、1年間の思い出が走馬灯のように駆け巡った。

 

 ピンチの俺を助けてくれた時。

 勝負を経てライバルになった時。

 俺のモヤを晴らしてくれた時。

 模擬戦で俺を鼓舞してくれた時。


 


 アイツはずっと、俺を支えて引っ張ってくれた。助けてくれた。



 

 だから今度は俺の番だ。

 


(今笑って生きれてるならそれで良い! 幸せならそれで良い!

 でももし、お前が泣いているとしたら……俺は…………)



 足を止め、俺は一つの扉の前で立ち止まる。


 一瞬、涙をすするような音が聞こえたから。



「……ホルス」



 返事は無い。だが確信はあった。 

 ドアノブを握るも鍵が掛かっているようで回らない。


「……」


 俺は力の限りノブを引き、ドアごと引っこ抜く。

 

 暗い部屋の隅、体育座りをする人影がそこにはあった。



「…………ホルス」


「っ……何で…………アレスが……?」


 そう言ったホルスの顔には生気が感じられなかった。泣き腫らしたであろうまぶたはまだ赤い。


 いつものようなカジュアルな服装では無く、こんのスーツに身を包んでいる。



「……お前を、助けに来た」


「……」


「帰ろう、ホルス」


「……」


「皆も来てる。な、また一緒に生きよう」



「…………無理だ」


 ホルスは小さな声で、そう呟いた。


「どうして?」



「……危険だからだ。ヒーローが」


「どうしてそう思う?」


「『どうして』って……父様が言ってたから」


 虚な目でホルスはそう言う。



「父親の言う事が全部正しい訳じゃないだろ?」


「あぁ……でも、父様は絶対だろ……?」



(……コイツ……まるで洗脳されてるみたいだ……)


「そうか…………俺達に黙ってここに来たのも親父さんからの話か?」


「うん……『帰ってこい』って…………」


「……またヒーローになる気は無いのか?」


「どうして? ヒーローなんて危ないし、得られる物なんて何一つ無いんだぞッ!?」


「落ち着け。ホルス」


「ヒーローなんてしたところでメリットもリスクに釣り合う報酬も無いッ!」


「良いから落ち着けッ!」



「…………何で……? どうして……」




 狼狽えるホルスを見た俺の拳は、怒りに震える。


(一体、どんな事をしたらホルスがここまで弱る……? あの鋼のような男が…………)



「……なぁホルスお前……何でHOPEsに入ったんだ?」


「……アフロから聞いてないのか?」


「お前の過去はアフロから聞いた。ハデスさんからお前がHOPEsに入った経緯もな。

 でもお前は俺と同じ位、『ヒーロー』に固執してた。何かあったんじゃないのか?」



「…………」



 ホルスは下を見てしばらくの間黙り込む。


「ほら、お前から言ったんだろ? 『ライバルになろう』って。

 教えてくれ。何であの時そう言ったのか」




「…………昔」


 ホルスの重い口が開いた。


「一冊だけ、漫画を読んだんだ。父様達から教育を施される中、母様が差し入れてくれた一冊だけ」


「……あぁ」


「その漫画の主人公は仲間と一緒に、悪を倒すヒーローだった……僕は自分と正反対の彼を見て、憧れた」


「……」


「だからヒーローになりたかった。だからお前とライバルになった。全部その漫画の通りにやった。そうすれば幸せになれると信じてたから

…………ただ、それだけなんだ。皆みたいに立派な理由じゃ無いんだ……」



「……そうか」



「……そんな夢に魅入られた僕を、父様が助けてくれたんだ。どちらにせよこんな理由じゃ長続きしなかったさ」



「…………確かに、立派な理由では無いかもな」


「あぁ。それに姉様の事もある……僕は姉様をあんな風にした責任をーー」


「でもな!」



 俺の声に驚いたのか、ホルスがビクッと身震いをする。



「まずは、俺の話を聞いてくれないか?」


「お前の……?」



「あぁ。俺がヒーローを目指す理由の話だ」


「っ……」



 動揺した様子のホルスを見て、俺の感情は複雑に揺れる。


 それでも、話すべきだと思った。



「俺な……小学生の頃、いじめられてたんだ」


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