表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HOPEs  作者: 赤猿
73/100

第73話 始まり

ー3月1日 横浜ー



「この国は腐っているッ! 今こそ改革が必要なのだッ!」


 小太りの男が大通りの中心で叫ぶ。


 周囲には既に20人程の警察官が集まっているが男には近づかない。



「あぁあ! 時間がどんどん過ぎていく! 早く……早く変えねばッ!」


 男の声に共鳴するように周囲の車が浮遊し空中で渦を形成し始めた。



「警察の方々……改革が、必要なのです。そこをどきなさい!」



 男を囲む警察官のうち、短髪で細身の若い男と40代程のがっしりとした男が小さな声で会話する。



「ッ……おい佐々木、お前昔神力者と戦ったことあるって言ってたよな? 何とかならねぇのか?」


「無茶言わないでくださいよ! それに、戦ったって言っても泥の触手に捕まってただけっすから!」




「何を、話しているのです?」


「あぁいや! 何でもねぇよ!」


「そ、そうっすよ! 全然気にしないで下さい!」



「……なら……道を、開けなさい」



「「…………」」




「……あぁ、心が痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!! あぁぁッ!」



 発狂と同時に宙に浮いた車達は警察官目掛けて突撃していく。



「くっ……退避ーッ!!」



 次々と押し潰される警察官を見て男は涙を流し、手を合わせブツブツと何かを唱え始めた。



「弱き者たちに救いを。あぁ神よ慈悲を、私に免じて彼らにーーぃぶっふぉおッ!!」


 男は突然吹き飛び街路樹へと激突する。頭を強く打った影響でそのまま気を失ってしまった。





「おい佐々木! 無事か!?」


「はい……! 何とか!」


 2人の警察官が肩を貸し合って立っている。まだ数人の生き残りの影も確認できるが周囲は警察官の血と壊れた車から立ち込めた火で囲まれており、脱出は絶望的だった。



「まずいぞ佐々木……このままじゃ……」


「いや、もう大丈夫っすよ。アレ」



 若い警察官は炎の中の人影を指差す。その人影はありえないスピードで2人へと迫り、炎の外へと連れ出した。



「あ!?…………い、今のは?」


「HOPEsっすよ」


「え? でも神力者も熱には無力なんじゃ……」


「あ……そう言えば…………」



 2人の目線の先では炎の中で赤い稲妻が絶えず動き続けていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 アレスはビルの屋上から街を見渡す。



「……ん。メールか…………いっ……!」


 ポケットからスマホを取り出そうとするが火傷を負った皮膚に布が触れ、痛そうな様子で手を振る。



「はぁ…………あ、那由多からだ」 

 


『勇斗、誕生日おめでとー!』


「…………俺、今日誕生日だったんだな……」



 アレスは少し首を傾げて軽くため息をついた。



『忙しいだろうから郵送でプレゼントは送っておいたからね! またホルス君とアフロちゃんと4人で遊ぼーね!』


「あぁ、そういや那由多にホルスの事言ってなかったっけな…………まだ続いてる……」




『大変だろうけど頑張れー! 応援してるよ!』


 

 その1文を読んだアレスは小さく、とても小さく舌打ちをうった。





「何も分からねぇクセに……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー数時間後ー



 沢山の人間が行き来する煌びやかな街。その中を黒いロングコートに身を包んだスーツの男が闊歩する。


「……」



 隠す気の無い顔を見た通行人達の中には、ニュースで報道されていた犯罪者の顔だと気付く者もチラホラ見受けられたが声をかけることなどできる筈も無かった。


 充分に離れた場所で警察に連絡する者、友人とヒソヒソと話をする者、その様子に気付きつつもゼウスは表情を変えない。




『ゼウスー? こっちは準備出来たよー?』



 ゼウスの耳に付けられたイヤホンからガイアが語りかける。



「俺ももう少しで着く。ヴァンパイアは?」


『いつでも行ける』


『それよりさーコイツ本当に大丈夫なの? 動く気配も無いんだけど』


「大丈夫。指定した時間に動くように命令しておいた。安心して良い」


『なら良いけど。じゃ待機しとくから』


「あぁ」




 確かな足取りでゼウスは目的地へと向かう。その表情は完全にリラックスしておりどこか吹っ切れたようだった。



「……全ては目的の為。…………ケラウノス計画を始める」



 そう言ったゼウスの目には国会議事堂がしっかりと映り込んでいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ートラック 荷台ー




 ガイアのすぐ横に座り込む大きな狼のような生物。しかしその骨格は人間のようで手の形はまさに人のそれであった。


 微動だにしない怪物をガイアは怪訝そうに横目で見る。


「犬なのかな……狼?……いや、狼男……?」



『ガイア、時間だ』


「お、やっと〜? 待ちくたびれたよ〜」


『もう暴れていいぞ。ただしーー』


「『殺しはするな』でしょ? 分かってるって、もう耳だこが出来そうだよ」



『なら良い。ま、お前の出番は無いかもしれないがな』


「え? それどういう……ってアレ!? 狼男いなくなっちゃったんだけど!?」



 先程まで確かに座っていたはずの場所にその姿は無かった。



『もう時間か。ほら、お前も目的の為に動け。それと顔は見られるなよ』


「はーい」



 荷台から降りたガイアは真っ黒なローブとお面で姿を隠し、サイレンの鳴る方へと向かう。

 そこには暴れる狼男の姿が見受けられた。



「うっわ……アレ本当に人間なの?」


 

 ガイアが通り過ぎた銘板めいばんには『防衛省庁舎』と彫られていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー警視庁本部庁舎ー



「警部、昼の神力者犯罪の件ですが……」


「大丈夫、その件はもうこちらで済ませておいた」


「っ本当ですか!? ありがとうございます!」



 このやり取りを見た周りの警察官達はヒソヒソと話し始める。


「やっぱり千賀せんが警部はかっこいいな……」


「あぁ、憧れるぜ」



「ねぇ千賀警部……次のお休みの日呑みに行きません?」


 皆が隠れて話す中、1人の婦警が千賀に話しかけた。



「悪いが、少し用事があってな」


「えぇ〜何の用事ですか〜?」


「プライベートな用事だ」


「教えてくださいよ〜」


 諦めの悪い婦警にうんざりしたのか、千賀は少し俯いて小声で呟く。




「……ぶっ殺してぇ…………」




「え? なんか言いました?」


「あぁいや、何も…………」



 その時、千賀の目には時計が映る。

 



「…………は……ハハ……やっとだ」



「……千賀警部?」




「よいしょっと……悪い皆!」

 

 千賀は立ち上がり、室内にいる全員に届く声量で話し始めた。



「俺のお願い、ひとつだけ聞いてくれるか?」


「……え、あ、はい! 千賀警部の頼みとあれば!」


「そうですよ!」


「もちろんです!」


「何でも言って下さい!」




「そうか…………じゃあ、なるべくあらがってくれ」



 そう言った千賀の筋肉はどんどんと膨れ上がっていく。引き裂けたスーツがずり落ちると白い皮膚があらわになった。



「おいおいどうした。腰が引けてるぞ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー国会議事堂ー



 崩壊する国会議事堂の中、かべ総理大臣は天井の下敷きとなって身動きが取れずに居た。



「クソっ……早く動かねば……」



「よう……総理」


「……とうとう来たか、ゼウス……」



 ゼウスは倒れる壁の顔を覗き込むと、右腕を掴み瓦礫から引っ張り出した。


「ぐあぁぁあ……ッ!」


「悪いな。だが仕事はしてもらう」


 

 ゼウスはポケットからスマホを取り出し、少し操作をした後に安定する場所に置いた。


 壁の腕を掴んだままゼウスはスマホの前に立つ。



「おい……!……何をするつもりかは知らんが……はぁっ……議事堂を落としたとて、この国は何も変わらんぞ……!」



「……この状況でまだすごむか。流石は国のトップだな。だが安心しろ議事堂だけじゃない。全ては今日の内に落ちる」



「なっ……不可能だ! そんな事……」


「いいや? 可能さ。人手なら腐るほどいるんでな」



「…………っ!! 神の会か……!」


「その通り。さぁ、ここからが本番だ」


「何……?」




 ゼウスは空いてる方の手でスマホに触れる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ースクランブル交差点ー




 人々は各地で起きている惨状など知る由も無く、ただ日常を幸せに生きる。



「えーマジ? いや流石に嘘っしょ〜…………ねぇ、“アレ“……何?」



 1人の女が指さしたのは、モニターに映るゼウスと壁の姿だった。

 周囲の人々もやがて気付きだしスマホをモニターへ掲げ始める。



『こんばんは日本国民諸君。俺はゼウス。突然だがこの方は現職の内閣総理大臣であるかべ恭三きょうぞうさんだ』



 ゼウスは壁を引っ張り上げる。



『今は国会議事堂から配信していてな、お察しの通り堕とさせてもらった。それだけじゃない。警視庁本部、防衛省はもちろん札幌、仙台、さいたま、千葉、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州、福岡の役所ならびに主要警察署も既に陥落した頃だろう』



 

「え? なんかヤバいことになってない?」


「どーせそういう広告だよ」



『俺がこのケラウノス計画を実行した理由はただ1つ。

…………HOPEs……最終決戦と行こうじゃないか』













おまけ HOPEs登場人物プロフィール





千賀せんがれん

【神力】ヴァンパイア ???

身長182cm

38歳

好きな食べ物 レバー

表では優秀な警部として活躍しているが、裏ではゼウスの部下として殺しを行なっている。




???

【神力】ガイア 土、木を操ることが出来る事はわかっているが、それ以外は不明

身長151cm

16歳

好きな食べ物 食パン

幼少期に親から虐待を受けており育児放棄されたところをゼウスに拾われた。今ではゼウスの計画をサポートする優秀な右腕。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ