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HOPEs  作者: 赤猿
67/100

第67話 伝えたい事

ー数分前ー



 俺は電柱の影に身を潜め、2人が通るのを待つ。


「……? 流石に遅くねぇか?」


 バレンタインデート大作戦の第2段階の為、先程急いで不審者っぽい服を揃えてきたのは良いが流石に遅い。



(イルミネーションを見に行くならここを通るはずなんだけどな…………お?)


 俺があたりをキョロキョロと見渡していると、視界の端にこちらへと向かって走ってくるアフロの姿が映った。



「ったく、やっと来たか」


 俺は飛び出すタイミングを伺う。

 しかしアフロは直前で右折し、イルミネーションの方向とは別の方へと走っていった。その目には涙を浮かべて。



「……? おいアフッーー」


「危なーー」



 アフロを追おうと俺は飛び出す。しかしその後ろから駆けて来たホルスとぶつかり、そのまま互いに倒れてしまった。


「いてて……」


「くっ……ってアレス? 何してるんだこんな所で?」


「え? あ〜その、仕事が早く終わったから俺もイルミネーションをと思って……」


「……そうか……いや、今はそんな事どうでも良い。早くアフロを!」



 俺達はアフロの向かった先を見るもその姿は確認出来ない。


 状況を理解したホルスは深くため息をつき何かを考え込む。



「……何があった?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 少しずつ人が集まってきたので僕はアレスを連れて屋上へと飛び、一から事情を説明した。僕の過去は少し端折はしょってだが。



「えーっと、つまり? お前が? アフロの? 前で? 突然泣いて? アフロが逃げ出したと?」


「……端的に言えば」


「お前さ、自分がマズかったって自覚あんのか? てか俺も怒ってんだけど」


 アレスの顔は冗談を言っているようには見えなかった。



「何故怒る? 突然泣いたて困惑させてしまった事は確かに悪かったと思ってる。だが僕だって泣きたくて泣いたわけじゃ……」


「それだよ、それ」


「それじゃ分からん」


「分かるだろ」



「……何でもったいぶるんだ? 早く教えてくれれば良いじゃないか?」



 僕のこの言葉を聞いた瞬間、アレスは何故か僕の胸ぐらを掴んで怒鳴る。


「お前、んな馬鹿じゃねぇだろ」


「何の話だ?」


「とぼけてんじゃねぇよ! お前、アフロは泣いてたんだぞ?

 確かにお前は馬鹿だけど、人の気持ちが分からないような馬鹿じゃねぇ」


「……」


「お前に頼られなかったのが悲しかったんだ! そんな自分が情けなかったんだ! そりゃ他人の感情を完璧に把握すんのは無理だけどよ……アイツが、俺らの事、お前の事を大事にしてたのくらい分かるだろ?」



「……じゃあ、どうすれば良かったんだ?」


「それはお前で考えろ」



 ここでアレスは満足したのか、ようやく僕を掴む手を離した。


「……」



「あ、もしもし那由多? そっちにアフロ行ってねぇか?」


『え? 来てないけど』


「そうか……いや、実はな……」



『それ本当!?』


「あぁ」


『……ちょっと待ってて、一回私から電話かけてみる』


「悪いな、体調不良なのに」


『私の事は良いから! 2人はアフロちゃんの事探して!』


「分かった」



 2人は頑張っているのに、僕はただ下を見ることしか出来ない。

 情けない。でも、本当にわからない。


「……」



「おいバカ鳥、お前どうするつもりだ?」


「……分からない」


「『分からない』ってーー」


「分からないんだ。僕が今どう思っているのかが」


「は?」


「初めての経験なんだ。喧嘩というのも、人に信じられるというのも」



「……詳しくは全部終わったら聞く。とりあえずお前は探せ!」


「いやだから、僕は見つけたとしてもどうすれば良いかが……」



『ーーホルス君』


 アレスの手に握られた携帯から那由多ちゃんが僕を呼ぶ。どうやらまだ繋がっていたらしい。


『この前、私達で遊園地に行ったでしょ? あの時にね、アフロちゃんこう言ってたの』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夜、2人はスマホを耳に当てて話す。



『ホルスもアレスも来れるって!』


「ほんと? 良かった〜……っていうか、アフロちゃんはまだ告白しないの?」


『え!? こ、告白?! しないよまだ!』


「なーんだ、告白する為にデート仕掛けた思って鎌かけてみたのに……」



『……うーんとね、今回はそういうのじゃないの。ホルスもアレスも凄い疲れてて辛そうだから、たまには楽しんでもらいたいなって』



「なんか……お母さんみたいだね?」


『ちょっとどういう事! もー……

…………でもまぁ確かに』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「『家族みたいに思ってる』って」



「ーーッ!」


 その言葉を聞いた僕はすぐに飛び立つ。


「っ!? っおい! ホルス!?」



 後ろからアレスの呼ぶ声が聞こえる。しかし今は振り向く余裕も無い。


 分かった。僕はただ、伝えるだけで良い。


 この想いをアフロに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー現在ー


「…………」


 街頭と月に照らされた夜道をアフロは歩く。

 薄く積もった雪は次々潰されてゆき、足跡はどんどんと増えていった。



(何が……正解なんだろう……)



「……私ってこんな面倒くさい女だったっけな……」


(明日も仕事だし帰ろ……ってあれ?)

 


 アフロはキョロキョロと周りを見渡す。見た事の無い閑静な住宅街に戸惑っているようだった。


「スマホスマホ……あ、充電切れてる……ま、いっか」



 再びアフロは歩き出した。



 雪は緩やかなその勢いを強める事も弱める事もしない。


「……」


(……何がこんなにしんどいんだろ? 私は何を期待してるんだろう?……あ、また涙が……)



 こぼれ落ちる涙を拭い、トボトボとアフロは歩き続ける。

 ジャンパーを羽織っているとは言え時刻は既に21時を回っており、その体は寒さから小刻みに震えていた。



「ホルスになんて謝ろ……はは、気まずいなぁ……流石にもうチョコは渡せない、か……」


(そういえば私、何でホルスが好きなんだっけ? てゆーかいつから? 気が付いた時には好きになってたけど……)



「…………」


(まぁ、どちらにせよ私の感情を伝える事は出来ない。

 深く関わりすぎてしまう。私はそうなるべきじゃないし、ヒーローにとって大事な人は弱みにしかなり得ないから)






「……なんて、割り切れないよ……」


 アフロはその場にしゃがみ込む。住宅街の道路脇、2台の自動販売機の間に。

 夜だからか人通りは少ない。その寂しさが傷付いた心を更に蝕む。



「……私、みんなが好き……まだみんなといたい……いたいよ……でも私は邪魔にしかならない……」



 溢れ出る涙は止まらない。

 次第にその涙は心の傷にどんどんと染み込んでいく。


 そして、崩れ始めた。



 アフロは俯き、一言だけ呟いて黙り込んでしまう。




 「…………助けて」



 しかし、何の言葉も帰っては来なかった。

 聞こえるのは街灯が軋む音、近隣の家の生活音、妙な耳鳴り、誰かが近づいてくる音。



「……誰?」


 俯いたままアフロはそう言った。

 しかしその“誰か”は問いに答えない。



「不審者? 私強いから辞めとーー」


「ありがとうッッ!!!」


「!?」



 閑静な住宅街に響く突然の感謝。しかしアフロが驚いたのはそこでは無かった。

 目の前にいる男。今叫んだであろう男。その声の主を知っていたから驚いたのだ。


 アフロは少しずつ、少しずつ顔をあげる。



 その目に映ったのは降りゆく雪でも寂しい夜でも無い。白いジャケットに身を包んだ見慣れたイケメンが、見慣れない顔をして立っていた。



「ホルス…………」


「僕に……家族は居ない。昔は居た。さっき話した通りだ」


「……」


「家から逃げ出してきたんだ、僕」


「えっ!? そうなの?」



 驚いたアフロの顔と声にホルスは思わず笑みが溢れてしまう。


「あぁ、それで……那由多ちゃんから聞いた。家族みたいに思ってくれてるって」


「………………うん、思ってるよ」


 

 両者の瞳からは絶えず涙が流れ続ける。


「ずっと、家族が欲しかった。そんな僕にアフロは家族を教えてくれた。

 だから僕は、アフロに感謝してるし、心から信頼している」



「……ほんと?」


「あぁ。言うのが遅くなった、すまない。でも本心だ」



 そう言って深々と下げた頭をアフロは優しく両手で包み込む。


「ううん……私もごめんね。本当に大事だから、信頼されてないのが辛くて……」


「違う、それは僕の弱さだ。アフロを信じていないわけじゃ無い……ただ怖かったんだ。『家族の責務から逃げた薄情者』と思われるのが。

 そんな事、お前が思うはず無いのにな……」


 ホルスが顔を上げ2人が再び見合うと、互いの顔があまりにぐちゃぐちゃだった為、両者共につい吹き出してしまう。



「どうしてここが分かったの? 適当に歩いてきたのに」


「全部見た」


「何を?」


「この街を」


「あははっ! 嘘でしょ? 私の為に?」


「そうだ」



「……そっか。ごめんね、急に逃げちゃって。ホルスはさ……まだ、お父さん達の事憎い?」


「いや、憎いというか……怖い」


 小刻みに震えるホルスの手。それに気が付いたアフロは大きく深呼吸をして、ふわりと立ち上がり左手を差し出して話し始めた。



「じゃあさ、いつか2人で挨拶に行こ! 『私達は家族です』って!」


「あぁ、そうだな。本当にありがとうアフロ」



 笑顔でホルスはそう返した。



「……ホルス?」


「ん、どうした?」


「伝わってる……よね?」



「…………?」


 何の話だと言わんばかりにホルスは首をほぼ90°にまでかしげる。



「嘘でしょ……」


「なんだ? 何か言いたい事があるなら言ってくれ」



「いや、その……あぁ! もうっ!

 好きなのッ!! ホルスの事が! 家族として、仲間として、男として!」



「…………今、何て言った?」


「私は! あなたが恋愛的に好きなのっ! だから付き合って欲しいって言ったの!!!

 もう言わないからね!!」



 目を瞑り、顔を真っ赤に染めながらアフロは何とか言い切った。



「……アフロ」


「は、はいっ!」


「そのまま目、瞑っててくれるか?」


「え? うん。良いけど」


「少し上向いて」


「こう?……!?…………ぷはっ……え!? ちょ……え!?」


「アフロ」


「はい!?」


「僕も、アフロが好きだ。家族として、仲間として、女性として。

 だから、よろしくお願いします」



「ーー!!……ホルスーっ!」

 

 アフロは嬉しさのあまりホルスへと抱きつく。 

 そのままホルスは羽ばたき始め、2人は踊るように空を飛んでいった。








 そして、この日を境にホルスはHOPEsを去った。

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