第65話 想い
ーHOPEsアジト リビングー
俺達はホルスからの報告を受けていた。
「成程……そんな事が」
シシガミが手で顎をつまみ何かを考え込む。
「……」
(ガイアか、セトの言っていた通りだ。となるとゼウスのシンボルの件も信憑性が増す。……やはり皆にもこの事を言うべきか?……いや、辞めておこう。シンボルの詳細も分かっていない現状では不安を煽るだけだ)
「それで件の少女についてなんだが、僕の親族がやっている孤児院に引き取ってもらうことになった」
「大丈夫なのか?」
声を上げたのはスサノヲだった。
そういえばスサノヲも孤児だった時期があったし、何かしらの心配はあるのだろう。
「心配は分かる、スサノヲ。だがあそこは良い所だ。信用して良い」
「お前がそう言うなら良い」
「あ、あのぉ……」
会話が一段落した時、廊下からか細い声が俺たちに話しかけてきた。
「す、すいません……よ、呼ばれて……来たんですけど……」
「どうもっす……」
「お邪魔します……」
「TOMORROWs、ホルスが呼んだの?」
「あぁそうだ。ガイアとの戦闘においてTOMORROWsは大きく貢献してくれた。だから彼らには現在のパトロール以上の任を任せてもいいと考えている」
「まだだろう」
そう真っ先に反対したのはまたしてもスサノヲだった。
「確かに心はもう出来上がっているのかもしれない。だが純粋に実力不足だ」
「その意見も分かる。が、僕とアレスは毎朝彼らの練習に付き合っているが、最低限の実力は身につけていると考えている」
「最低限じゃダメだろう。まだ実戦投入できるレベルには無い。何も俺ほどに強くなれとは言わないが、流石にまだ弱すぎるだろう」
「俺もスサノヲに賛成だ。まだ早いんじゃねぇか?」
俺も席を立ち意見する。
「……そうか。」
意見が却下されたホルスはそう呟き俯いてしまった。
「……」
(どうしたんだホルスの奴。焦って命を危険に晒すなんて事、あいつが1番嫌いそうなモンだが)
「じゃあそういう方針で行こうか。悪いね、わざわざ来てくれたのに」
シシガミはそう言ってTOMORROWsの3人に頭を下げる。
「あぁいえ! そんな大丈夫っす! 俺達も正直……まだだと思ってたっていうか……えっと、もう6時なんで俺たち帰りますね!」
「し、しし失礼しました……」
「……あの!」
セベクとテュールの2人は礼儀正しく挨拶をした。が、ペルセポネだけは何かを言うために声を荒げてこちらを見つめてくる。
「……どうした? 無理に呼び立てた事なら謝るがーー」
「違います! その、私は嬉しかったです! ホルスさんが推薦してくれた事も、皆さんが『危険だ』と止めてくれた事も。
……だから、私達頑張って強くなります!!…………そ、それじゃあ失礼しました……」
ペルセポネは勢い良くリビングの扉を開けて飛び出していく。テュールとセベクは数秒
困惑して固まり、ペルセポネの後を追いかけて行った。
「……それじゃ、夕飯を食べたら私とアレス以外はもう仕事無いよね?」
「あれ? 俺今日夜間パトロールだっけ?」
「そうだよ?」
(今日はみっちり修行しようと思ってたんだけど……)
「ま、しょうがねぇよなぁ……」
「……ねね、アレス」
アフロが俺の袖を掴んで引き留め、耳元で囁いてくる。
「ん? どうした?」
「ちょっとさ、パトロール前に話したい事あるんだけど……良い?」
「お、おう」
ー報告を終えたホルスはいまだに席を立つ素振りはない。それどころか変わらず俯いたまま、何かを呟いていた。ー
「このままじゃ……まずい……ダメだ………………」
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「どうした? わざわざ部屋にまで呼んで」
「あんまり聞かれたくない話だからさ。ごめんね」
俺は皆でシチューを食べた後、導かれるままにアフロの部屋へと連れてこられた。
「んで『話したい事』って何だ?」
「えっと、2つあるんだけど……」
「あーじゃあ軽い方からで頼む」
「それが……どっちも重いの」
「……じゃ好きな方からで」
アフロは少し悩んだ様子だったが、すぐに床へと座り込み話し始めた。
「なんかね、違和感がすごいの」
「違和感?」
「うん。さっきのホルスの話でさ、『ガイアはゼウスに拾われた』っ言ってたじゃん」
「あぁ」
「それがなんて言うか、私の中でゼウスのイメージと結びつかないんだよね……」
何故か少し、その時のガイアは申し訳なさそうに見えた。
(まぁ、アフロは弟のこともある。それで言うとゼウスのイメージは最低ってところだろう)
「俺もそれに関しては違和感を感じていた。でもガイアは俺らとほとんどタメなんだろ? だったら拾ったのは10年以上前だ。それだけ時間があれば人は変わるんじゃないか?」
「……そうだね、確かに」
アフロの顔は以前曇ったままだった。
(やっぱこれじゃあ納得はしないよな……)
あの時ゼウスと話した過去の事、目的の事、この両方を俺はHOPEsに黙っている。理由はハデスさんにあの過去を知って欲しく無かった。それに、皆に言ったところで何が起きるでも無いからだ。
「あとさアレス、ホルスも何か変じゃなかった?」
「あ! 俺もそれ思った。普段のあいつならあんなこと言わねぇよな?」
「そうだよね? どうしたんだろう……」
「う〜ん……俺にもわかんねぇな」
「そっか、アレスが分からないなら誰も分かんないよね……」
「そんで2つ目は?」
「あ、えーっとね……その……」
言い淀んだアフロの顔は、先ほどとは対照的に少しだけ赤らんでいた。
「……アフロ?」
「あぁ! ごめん、ちょっと緊張してきちゃって……」
「お、おう……」
妙な空気感に俺は固唾を飲む。
「実は……私ね、好きなの……」
「……」
「ーーホルスの事……」
「……」
俺は、心の中でガッツポーズをする。
(よかったぁ!? あっぶねぇよマジで? ホルスじゃなくて俺って言われてたら誰も幸せにならなかったわ!
てかやっぱりコイツら両想いじゃねぇか!)
「それでね、明後日バレンタインじゃん? だから私、チョコ渡すときに……告白しよう思ってるの」
「告白っ!? そこまでいくのか!」
「うん……だからアレスにはその相談に乗って欲しくて……」
「もちろんだ! そういうの待ってたんだよ!」
それから俺がパトロールに出かけたのは、30分も後だった。
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ー都内 ???ー
「……ただいま」
金属製の錆びた扉が開かれる。その中には地下へと繋がる階段だけが掘られていた。
扉を開けたガイアはその階段を降りていく。
長くて暗く、複雑な道。その先には如何にも厳重そうなズッシリとした金属の扉が待ち構えていた。
「ただいま…………ん? ただいま、ただいまー!」
『分かった! 分かったから静かにしろ』
男の声がしたすぐ後に扉はゆっくりと開いた。ガイアは迷いなく中へと入っていく。
「ただいま」
「…………」
そこそこの広さにそこそこの家具、まるで地上にある普通の一軒家のような部屋がそこにはあった。
そしてソファには一人の男が座っている。どうやら機嫌は悪そうだ。
「何を怒ってるの秋斗?」
「……何を、だと?」
ゼウスはガイアの肩に両手を乗せ、しっかりとその目を見つめる。
「いいか、俺がお前に命じたのはTOMORROWsの偵察だ。戦闘を許可した覚えは無いし、HOPEsと喧嘩しろなんてもっての他だ!」
「っ……! でも……」
「でもじゃない。駄目なものは駄目だ」
「……」
ガイアは何かを言い返そうとしていた様子だったが、次第にゼウスに押されて拗ねた子供のようにむくれて下を向いてしまう。
「……お前は大きな戦力だ。こんなところで失うわけにはいかない。分かるだろう?」
「……」
何も言わずにこくりと小さく首を振る。
「……分かったなら良い。しばらくは休め。分かったかガイア?」
「…………ねぇ秋斗」
「ん?」
「久しぶりにさ、名前で……呼んでくれない……かな? カスミって……」
「何故だ?」
「何でも良いじゃん。お願い」
「……今度な」
そう言うとゼウスは扉を開けてその場を後にした。
「……」




