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HOPEs  作者: 赤猿
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第64話 振り絞った勇気

「お前の速さじゃ、僕に指一本触れられないさ」


「随分と大見得を切るね?」



 道路の下、戦闘により生じた巨大な地下空間にて2人は互いに静止し向き合う。

 壁際に立つ2人の距離は50m以上。しかし両者はしっかりと互いの顔を見つめ合っていた。



「来ないのか?」


「……じゃあ、行こっかな」



 そう言ってガイアは地に手をつける。

 鳴動めいどうし始める地面。すぐに四方八方からホルスに向けて攻撃が降りかかった。


 ホルスは飛び立ち、迫り来る土の槍を的確に躱していく。


「そうやって逃げ回ってるだけじゃあ、さっきと同じだよー?」



「……」


(ガイアは僕の硬化のシンボルを認識している。だからこそ防御するのでは無く、視界の確保を優先しているのだろう。恐らくは逃走ルートもすでに確保しているはず。

 だが……)


 

 攻撃を避け続けていたホルスだったが先程とは違い閉鎖空間での戦闘の為、全ての攻撃を避けきれずにその体には切り傷が刻まれていった。

 しかしガイアの猛攻は止まらない。


(ただの土とは思えないほどに固い。やはり無理矢理にでも……いや、僕のシンボルでは関節も固めてしまう。慎重に使わなければ……)



「ーーはは、」


「……?」


「見ず知らずの女の子の為に戦って、怒って、傷付いて、ホルス君は本当に良い人なんだね」

 

「攻撃が止んだ?…………っ!」


 壁と地面が小刻みに震えている。



 その事実を認識した瞬間、ホルスは頭上のアスファルトに開いた大穴へと急ぐ。



「じゃーね。ホルス君」


「くっ……!」



 ホルスが地下空洞から抜け出したのとほぼ同時に、空洞の壁と地面が一気に体積を増した事で、空洞は綺麗さっぱり消え去っていた。



「圧縮か……」



(土の触手が高い硬度を持っていたのも、途中で見せた爆発も、そして今の現象も全て圧縮によるもの。こっそりと土を圧縮させ、一気に解き放ったのだろう……

 ガイアは恐らく逃げたか……いや、あの少女への執着は凄まじかった。だがガイアは彼女の居場所を知らない)



「それなら……」



 その時ホルスの脳裏によぎる、一つの疑問。 



(待て、本当にあいつは少女の居場所を知らないのか? もし本当に知らないのならここで再び僕を尾行するつもりという事になる。先程破られたばかりの作戦を再び使うか普通? もっとも、そもそも僕も少女の居場所は知らない)



 周囲に人の気配はない。




(それにアイツにはHOPEsの他メンバー到着という時間制限がある。 悠長に尾行なんてしないだろう。

 なら少女の居場所を知っていた? いつ知ったんだ?)



 ホルスの頬に一滴の汗が滴る。



(まさか…………!!!)



 ホルスはすぐに地面を蹴って空へと飛び立つと、身体を硬化させアスファルトを蹴りつけた。


(そうか! そういう事だったのか……!)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「どこまで来るんだよこの土ぃ!?」


 セベクは少女を抱えて下水道を走る。その後ろからはペルセポネと濁流のような土が押し寄せていた。



「セベク! 次で曲がって!」


「分かった!」



 3人が脇道へと逃げたところでペルセポネは水面を叩き、大きな水飛沫を上げて凍らせる。

 

 作り出された氷壁は土の波を防ぐ。セベクは少女を降ろし、その場に座り込んだ。



「……はぁ、下水道はいい案だと思ったんだが……まぁでもこれで一旦は大丈夫かな?」


「ナイスだペルセポネ。嬢ちゃん、大丈夫か?」


「…………」


 少女は閉ざした口を開こうとしない。



「ったくテュールの野郎逃げやがって!」


「仕方ないよ、初めての実戦だし……」


「仕方ないことあるかよ! せっかく合流出来たのに何も言わずに逃げ出すなんて……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー数分前ー


 2人は少女を守りながらも商店街を右往左往と逃げ回る。その時1人の男の背中が見えた。


「あっ! テュール!」


「ふ、2人とも……」



「良かった、無事だったんだな! 俺達いまこの子を護衛してるんだが、あの土がどこまでも来やがって……テュール?」


「…………」


「どうした? そんなに震えて」 



 テュールは下を向いたまま唇を噛み締める。それを見たペルセポネは心配してテュールの手を取った。


「テュール? 大丈夫?」



「……っ」


 添えられた腕を振り払い、テュールは背を向け走り出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……」


「……つーか何でこっちにまで攻撃が来るんだ? ホルスさんが足止めしてくれてるんじゃ?」



「分かんない、けど何かしなくちゃ。あの壁が壊されるのも時間の問題だよ」


「……そうだな。仕方ねぇ、地上に出るか」


「うん、そうしよっか。…………あれ? あの子は?」


「え? そりゃここに……っ! いねぇ!」




『もらってくよ、この子』


「「っ!?」」



 どこからか響く声。セベクは両手をワニの口へと変化させ警戒を強める。



「っざけんな! その子を返せっ!」


『嫌だよ。てか取ったのはそっちだしね』



「くそッ……どうなってんだ、ホルスさんが足止めしてくれてたんじゃ無いのか?……まさかっ」


『いや、ホルス君は強かったよ。ただ僕の方が上手うわてだっただけ』


「ホルスさん……」


『君達はもう用済みだけど……ま、生き埋めくらいなら死なないか』



 ガイアの声に合わせ氷壁が崩れる。そこからは大量の土が流れ込んで来た。



「やっ……足が!」


「うっ……! くそッ…………」


(まずい……このままだと本当に死ぬ……!)



 土はセベク達の体を足から腰、腹から胸へと飲み込んでいった。必死に手足を動かしもがくも、土の流れは止まらない。



『じゃあね、会えて良か…………え? まさかもう気付いたの?』


 困惑するガイアと共に土は動きを止める。




「セベク、ペルセポネ! 無事か?」


 ガイアの声と同じように、2人にとっては聞き慣れた声が響き渡った。


「「ホルスさん!」」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「例の少女は保護した。2人はなるべくすぐに脱出して避難所に向かってくれ」


 ホルスは少女を抱えながら止まること無く、何本にも枝分かれした土のトンネルを飛翔する。



『わかったっす! っていうかホルスさんは今どこに?』


「大きな地下空間にいる。恐らく2人のいる場所とも繋がっていんだろう。上手い事反響するように作られてるらしい、会話が出来る!」



『じゃあガイアのやーー』

『その子を返してッ! ホルス君!!』


『『っ!』』


「細かく説明できるほどの暇は無い! 早く動け!」



 高速で地下トンネルを飛行するホルスの背後では、どんどんと土でその空間が埋まっていく。

 奥からはガイアの声がこだまし続けていた。



『どうやってここが……!』



「トリックに気づいただけだ。全部お前のてのひらの上だったんだな。

 お前は最初っから僕の近くにはいなかった。ずっと地下からペルセポネ達を尾行していたんだろう? このアリの巣のような地下空間を使って!」



『……』


「思えば簡単な事だ。でもその可能性を考えることが出来なかった。まさか【神力】の操作範囲がここまで広いとはな。アスファルトを操らない点を鑑みるに操作対象には制限があるようだが」



『……本当に頭が良いね』



「そしてお前は今僕に有効打を与えられない。この子を巻き込んでしまうからだ!」



『だから地上への逃げ道は塞がれてる。ってところまで分かってるでしょ? どうするつもりなの?』


「こうするさ!」



 ホルスは急速にスピードを上げる。



『な……何してるの!?』

(そんなにスピードを出したらあの子の身体が保たない……)



「音が響いてきてる以上、お前はこの道に通じるどこかに居るはずだ」



『ちょっと! そんな事よりスピードを落としなさい! その子が……』



「僕のシンボルは身体を硬化させるだけじゃない。密度が高くなるんだ。

 現状では逃げ切るのは難しい。かと言ってこのアリの巣からお前を見つけ出すのもほぼ不可能だろう」



『話聞いてる!? その子を離せってーー』


「あの子はここには居ない」



『は……?』

(じゃあさっきのはブラフ……?)



「そんな事より、お前はどうやって僕やセベク達に的確な攻撃を仕掛けていた?」


『……』


「音だろう? 緻密に作られた空間を反響するこの音で全部を把握している。傷つけようにも僕の攻撃力じゃすぐに直されてしまうだろう。なら……」



 加速していたその身体が最高速に達した瞬間、ホルスは羽を前面へと向け硬化のシンボルを発動する。


 急停止したその体からはとてつもない衝撃が発せられ、壁には一瞬で大きな亀裂が入った。



『ウ“ッ……な……にに……オオ』


 ガイアの声は掠れて聞き取れない程になり、土は見当違いな方向へと伸びていく。



「……よし」



 ホルスは天井を10回ほど蹴り上げ破壊し、地上へと飛び出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……」


 少女は一人の男に手を引かれながら歩いている。


「も、もう大丈夫だよ」


「……」


「……」



 その男の体は土に塗れており、出血部位も多く見られた。


「あ、あの……」


「……」


「……」




「……ありがと」


「ーー!」


 テュールはこっそり拳を握り、染み出る感情を抑える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー数分前ー



 ガイアの策に気付いたホルスは、街を上空から見おろし地下空間への入り口を探す。



「ほ、ホルスさーん!」


「ん? テュールか! ちょうど良かった、手伝って欲しいことがあるんだ」


「僕に……ですか?」



「あぁ。これから僕は地下空間へと突入する。もしかすると例の少女がガイアに囚われている可能性がるんだ。お前にはその子を探して救出して欲しい」



「っ……! そんな、大事な任務……」


「頼む。僕だけじゃ見つけられないかもしれないんだ」



「…………」


 テュールの手が震える。


「頼む。少しでも、可能性を上げるために」



「…………」


「……」




「…………分かりました。僕がやります!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「に、逃げなくて良かった……」


「……?」

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