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HOPEs  作者: 赤猿
61/100

第61話 差

ーアジト リビングー



「はぁ!? 寿命が無い!?」


 手に持っていたチキンを握りつぶしながらアフロが叫ぶ。


 俺は夕飯の席で、昼にセトから得られた情報をHOPEsメンバーと共有していた。今日のメニューはチキンにピザ。まるで出前のようだがそこのキッチンで作ったと言うのだから不思議でならない。



「うるさいアフロ、ある程度予測できた事だろう」


「無理だよぉ〜私ホルスみたいに頭良く無いもーん……」



「にしてもホルスは少し落ち着きすぎじゃないか?」


 シシガミがホルスへと問いかけた。



「別に嫌でも無いからな。焦る理由が無い」


「俺もホルスに同意だ」


 そう言いながらスサノヲとホルスは食事を楽しむ。



「私はアフロと同様に嫌だがな。長寿ならまだしも不老となると……」


「だよねぇシシガミ! こいつらアホだから分かんないんだよ!……あ、アホといえばアレスはどっち派なの?」


なにで俺のこと思い出してるんだよ! 別に俺は……普通だ、普通! 

 そんな事より続き話すからなー? 寿命以外に得られた情報は主に3つだ。1つ目は【神力】が宿る条件ーー」



 俺の言葉を聞いた瞬間、シシガミが椅子から立ち上がる。



「何!? それが分かれば……」


「落ち着けシシガミ、その条件ってのは『ある一定以上の知能を持った宇宙に存在する生物に宿る』ってモンらしい。何かしらに活用できる情報ではねぇよ」


「そうか……」


 シシガミはそのままゆっくりと席に着いた。




「2つ目も【神力】についてだ。神力という存在は宇宙の誕生時には間違いなく存在していた。一体何のためにあるのか、そもそも何なのか、それについて知る者は1人もいないらしい。

 そして神力者が死ぬと、神力は数年から数万年の眠りの後に次代の神力者に宿るんだと」



「……ん?」


 アフロがつぶやいた。


「どうした?」


「いやさ、誰も知らないなら私達の知る神話って誰が考えたのかなって。ほら、多少の差異はあっても大まかには【神力】とあってるじゃん?」


「それについてもセトに聞いた。神話のような物語のたぐいは地球だけでは無く、宇宙中の星に存在するらしいんだ。それぞれ微妙に違うらしいがな。そして作っているのも伝えているのも、ラヴの側近ムネモシュネらしい」



「ムネモ……あれ? 何だっけ」


 首を傾げるアフロの肩に、ホルスはぽんと手を乗せる。



「ちゃんと話は聞けアフロ、ムネモリネだ」


「ムネモシュネだわアホ鳥」



 ホルスからの鋭い睨みが突き刺さる。



「……何故神話なんか作ったんだ? ムなんたらは」


 ここまで黙々とチキンを食べ続けていたスサノヲがそう言った。



「ムネモシュネな。神話があった方が【神力】の存在を受け入れやすいし、理解しやすいだろ? そういう意図らしいぜ。まー長寿だし暇だったのもあんのかもしれねーけど」



「そうか……ムなんたらの能力はーー」


「ム・ネ・モ・シュ・ネ!……ムネモシュネは記憶やら何やらに関する【神力】で……ほら、お前らも先代の神力者達と暗い空間で会ったろ? あれをやってんのもムネモシュネなんだとよ」


「へー」


「アホ剣士テメェマジでぶっ飛ばすぞ」



「ーーアレス」


 冷静な口調でホルスが呼びかけて来る。



「……んだよ?」


「その話はわかった。そろそろ3つ目を話してくれ」


「……」


「アレス? もし言いたくないなら言わなくても良い」


「いや、そうじゃ無いんだけど……正直これはよく分からねぇんだ」


「分からない?」



 ホルス初め、全員がこちらに注目していた。

 俺は一度情報を整理する。

 

「シシガミ、神力者って現状何例確認されてるっけ?」


「今か? 確認できているのは150例、神獣も含めれば230例ほどだが……まぁ数倍はいるだろうな」


「だよな……でもセトの話によれば『1つの星に多くても2、3人』が相場らしい」


「「!!!」」



 寿命の時に比べ、全員が等しく驚きを顔に表した。



「これに関しては何故なのか皆目見当もついていない……それに神力者が多い事だけじゃない。去年の5月、俺たち含め神力者が同時発生したあの数日間。あれは相当な異常事態らしい」


 各々が少し俯いて考える。何故なのか、解決方法はあるのか、あったとして出来ることなのか。

 


「……確かに訳が分からんが、知ったところで何が変わるでも無い。他の情報もそうだ、今は心の隅に留めておけば良いんじゃないか?」


 何となく全員が感じていたことをホルスが言語化してくれた。

 


 全員の方向性が一致したところで各々食器を片付け始める。



 そんな中、シシガミが俺の耳元で囁いてきた。 


「アレス、聞き出せた事はそれだけか?」


「あぁ。これ以上は知らねぇってよ」


「そういえば佐竹さんは? 調理には参加していなかったようだが」


「佐竹さんは部屋で休んでる。セトに変わると、あの日の事を思い出すらしい。それとこれからは基本手足に枷を付けて貰うから、料理はできないと思うぜ?」


「そうか……分かった。ありがとう」




 夕食を食べ終わった俺達は、各々自分のすべき事をこなす。俺は今夜の通報、連絡用電話番なので本来なら自室に居るべきだが、電話を中庭まで持ち出してトレーニングを行っていた。


 

「ふっ……ふっ……ふっ……」


(ダメだ……もっと強くならなきゃ……俺が、強くならなきゃ……)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 セトはニヤリとした表情を変えること無く俺を見つめる。



「……何見てんだカス野郎」


「動揺している小僧が面白いだけさ」


「チッ……」

(そりゃ不老だなんて知ったら動揺くらいするだろうが)



「それより、もっと有益な情報があるんだが……聞きたいか?」


「ーー! 当たり前だろ!」


 俺がそう言うとセトは目を閉じる。


 

 

 すると、その額に光り輝く目のような印が刻まれ、消えていった


「っ!? 今のは……」


「ん? シンボルだ。俺は少し特殊でな。体はすでに消滅しているが、『セト』の【神力】で意思だけは引き継がれている。

 これにより生前備わっていた、俺のシンボルを使う事が出来るのだ」



「あ? どういう原理だよ……」



「シンボルは【神力】とは違う。神力が超常的な事象だとすれば、シンボルは難解な事象の説明書の様なものだ。

 シンボルはこの世の誰もが解放する事が出来る力。しかし方法が難解すぎる。だからなのか何故なのか強い気持ちで何かを望んだ時、適したシンボルの解放方法が脳裏に流れ込んでくる。

 これを一般にシンボルの解放と言うのだ」



「だから生前の記憶があるお前は使える、と」


「その通り。それじゃあ本題といこう。俺のシンボル『サーチ』は、集中して数十秒間静止する事で一定範囲に存在する生物の情報を得る事が出来る」


「そこは分かった。それより『有益な情報』ってのは一体何なんだ?」



「あぁ、俺が闘士の中にいる時は暇でな。意識があるうちはサーチをし続けているんだ。

 あれは確か……小僧と闘う少し前……場所は……覚えてないが」


「良いから早く言え」



 セトはそのニヤついた口元にさらに角度を付け、不気味なほどの笑顔で話した。



「ゼウスの神力者を発見した」


「っ!?」

(俺がセトとやる前……同時襲撃後のゼウスだ。もしかしたら本拠地か……? 何としてでも情報を……)


 頭から質問を捻り出す。一分一秒が勝負の分け目になるかもしれない。


「おいセトッ! それは一体どこでーー」



「それに何かしらのシンボルを会得していたな……」


「ーー!」



 俺の頭は真っ白になる。俺との銀行前での対戦時はシンボルを持っていなかったはず。ならばあれからの一月足らずでシンボルを得たということになる。


 

(あれ…………頭が痛い……なんで急に?……あ、まだ聞かなきゃいけない事が……)


「セト、ゼウスの周りに仲間みたいな奴は居たか?」



「居たな。確か『ガイア』の神力者が」


「ガイアか……」


(地母神ガイアなら土を操ったりか?……! そういえば北海道の時にスサノヲが襲撃された相手は木や地面を操ったって……やっぱ仲間だったか……)



「その他には?」


「居なかった。少なくともその時はな」



「……」


(この情報は皆に……いや、言ったところでなにが起きるでもないか。

 それに、今はみんなの心が疲れてる。ポセイドンさんもハデスさんももう居ない……ゼウスの雷を無効化できるのは俺だけだ。みんなにアイツは危険すぎる……)



ーアレスは長考の末にこんな結論へと辿り着く。

その結論は良く言えば自己犠牲の精神であり、ヒーローとして最も重要なことかもしれない。

 しかし、今の彼の顔を見て同じ事が言える人間は、そう多くはいないだろう。ー




(俺が…………俺が俺が俺がっ! やらなきゃ、いけない……)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーほぼ同刻 千葉県某所ー



「えー、まぁ良いけどさぁ。僕が捕まったらどうするの?」



 一人の女が街を歩く。その手には携帯電話が握られており、誰かと通話している様だった。

 高校生だろうか、身長はあまり高く無いが表情から知性を感じ取れる。


「まー捕まるつもりは無いけど、もし捕まったら助けてくれる?」



 街ゆく人々は彼女とすれ違う度に振り向き、もう一度その整った顔を見ようと必死だ。

 しかし彼女は後ろで結んだ毛髪を揺らして止まる事無く進んで行く。



「えー酷いなぁ……え? うん、分かった。気をつけてね秋斗あきと。ふふっ、久しぶりにこっちで呼びたくて! じゃあね」


 そう言って彼女は携帯をポケットに入れ路地裏へと入った。



「さてと……この辺かな?…………ん?」


 ふと視界の端に泣いている女の子が映る。



 それに気付いた彼女は少し迷った後、少女の方へと駆け寄って行った。

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