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HOPEs  作者: 赤猿
56/100

第56話 今更

 夕焼けが差し込む病室。ベットの上には物言わぬハデスさんが眠っている。



「とりあえず今は様子を見ましょう」


「分かりました……」



「……応援しています。それでは」



 そう言ってお医者さんは病室を後にする。

 

 突如倒れたハデスさんを俺達で病院へと連れてきたは良いものの、かれこれもう1時間もの間俺達は座って黙り込んでいた。


 お医者さん曰く、ハデスさんが意識を失った原因はストレスと疲れによる物だそうで命に別状は無いらしい。

 が、後遺症等が残る可能性もあるらしく現在も意識は戻っていない。





 静寂だけが響く病室。静かに眠る仲間の姿。



 嫌でも思い出す、2ヶ月前の事件。



 そんな重い空気の中スサノヲが口を開いた。


「HOPEsの活動、どうする?」


「まぁ、再開は延期すべきだろうな」


「そう簡単な話じゃあ無いだろうシシガミ。俺達の休止期間中に神力者犯罪、また通常犯罪の発生件数は東京都だけで言えば15%も増加している。これ以上休んではいられないぞ?」



「そんな事言ったってハデスさんは疲労とストレスで倒れたんだ。この人の業務を私達が引き継いだ上で満足な活動は不可能だろう」



「……確かに、ハデスさんの担当していた業務はあるが、このまま休止を伸ばすのであれば更に犯罪件数は増加する。一刻も早く復帰しなければーー」


「2人共落ち着け。ここは病院だぞ」



 ヒートアップする2人をホルスが一喝する。



「復帰については確かに早い方が良いだろうが、今はまず現状を何とかしなければならない。ハデスさんの担当していた事務業務だって残っている。

 せめて万全な状態で復帰するべきだ」




「……まぁさ、ハデスさんの容態は安定してるんだしアレス達は一回アジトに戻って休んだら?」


「確かに、俺達がここに居てできる事も無いしな。アフロはどうするんだ?」



「私は一応残るよ」


「俺も残ろう。何かあってはいけない」


 スサノヲが剣に手をかけて言う。




「そうか……それじゃあ俺達は一度帰ろう。アフロ、スサノヲ、頼んだぞ」


「うん」


「任せろ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……って何かの冗談じゃあ……ねぇよな、コレ」



 アジトに戻った俺達は、普段入る事のないハデスさんの書斎へと足を踏み入れた。


 信じられない量の書類の数々、鳴り止まないメールが俺達を歓迎する。



「……とりあえず片っ端からやろう。ホルスはメールの方を頼む」


「分かった。アレスは?」


「シシガミと俺は書類を片付ける」




 俺は積み上がった紙の山を見上げる。その時ちょうどホルスの携帯が鳴った。



「ん……アフロからだ。……っ! ハデスさんの容態が良くなっているらしい。明日には意識が戻るそうだ!」



「ホントか!? 良かった……うし! 気合い入れてやるぞーッ!」


















「普通に無理だったな」


「あぁ」


「全くダメだったな」



 すっかり夜も更けた午後11時。俺たちが作業に着手してから約5時間が経過し、先ほどまで天にすら届きそうだった紙の山は依然、圧倒的な標高を誇っている。


 メールの処理を終えたホルスが途中からこちらの作業へと混ざってくれたのだが、まるで終わる気はしなかった。

 



「これじゃあいつまで経っても復帰できねぇよ……」


(あの人休止中もこの仕事こなしてたのか……?)



 書類の大半は神力者や神獣による被害報告とそれに対応したHOPEsの報告書で、それ以外では色々な請求書やたまに届くHOPEsに対する賛否の手紙等も見受けられた。




「……アレス」


「ん? 何だシシガミ」


「いろいろな手紙があったろう?」


「……あぁ」



 手紙の中にはエゲツない人格否定や誹謗中傷も混じっていた。



「『手紙に書いてまで悪口言いたいとか頭おかしいんじゃねぇの?』って思いながら読んでたよ。

……普段はこういうマイナスな手紙届かねーのに、こういう時に限ってなぁ……」




「……思うにアレス、この手の手紙はこれまでもずっと届いていたのではないか?」


「え? でも俺は見た事ないぜ? SNSとかで叩かれてんのは見るけど……」



「我々は反感を買いやすい立場にある。それなのにポジティブな意見の手紙だけが届くなんて都合が良すぎる」



「……つまり?」



「つまりだなーー」


「ハデスさんが分けてくれてたって事だな」


 ホルスが口を挟む。



「ハデスさんが? なんで?」


「僕は直接見ていないが、相当酷い内容だったんだろう? あの人はそういうの結構気にするからな。僕たちに見せたくなかったんだ」



「……」


「……アレス?」


「いや、なんか不甲斐ねぇなって」



「……ま、言わんとする事は分かる」



「自分の事でいっぱいいっぱいで、ハデスさんがこんなに大変だった事にも気づかねぇで、あげく気まで使われちまって……

……なんて今更気付いても遅いんだけどな」



「そんな事無い、お前達も十分頑張ってる。立派にヒーローやってるよ」




「……でもよシシガミ、ハデスさんは倒れちまってんだ。自分のせいで大事な人傷つけて、頼られもしねぇでヒーローもクソもあるかよ」



「……一旦休もう。ホルスもアレスも疲れたろう?」




 俺は何も言わずにゆっくりと立ち上がって書斎を抜け出し、リビングのソファに寝転がる。





「…………ヒーローって、何だろうな」






 

『ーープルルルル』



 その時、政府との連絡用の電話が鳴る。俺は咄嗟に取り出して確認すると電話の相手は(かべ)総理だった。



「もしもし?」


『ん? アレス君か?』


「はい。すいません、ちょっと今色々立て込んでて……」



『聞いている。ハデスが倒れたそうだな。容態は?』


「安定してます。明日には意識が戻るそうです」



『それは良かった。忙しいところすまないが今来れるか?』


「いや、今はちょっと……」


『大事な話だ。なるべく早く済ませたい』



「……分かりました。すぐ行きます」


『助かる』



 

 そう言い残し電話は切れた。気付けば2人もリビングのソファに腰掛けている。



「つー事で行ってくるわ。乗せてってくれるかホルス?」


「国会議事堂か?」


「多分な」



「良いのか? お前ら2人だけで」


「大丈夫。俺は結構あの人の事信頼してんだ」


「そうか……分かった。気を付けるんだぞ」


「あぁ!」






「……アイツら、大丈夫だろうか…………」




「……あの〜」


「っ! 誰だ!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……総理……本当に今からHOPEsが来るんですか?」


 男は小刻みに震えながら総理に問う。



「もちろん。何か?」



「落ち着いてテュール、大丈夫だよ」


 女はそう言うと震える男の肩に手を乗せる。



「見せつけてやろ! 私達の力!」

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