第54話 瞬く間
「それでは初戦! シシガミ対スサノヲ! はっけよーいッ……のこったっ!」
(なぜ相撲!?)
アフロの掛け声でスサノヲは駆け出した。
俺、ハデスさん、アフロ、ホルスは2人の様子を少し遠くから眺める。
初めに仕掛けたのはシシガミだった。地面から数体の木で作られた虎が飛び出しスサノヲを襲う。
「……この程度で、」
虎はそれぞれスサノヲに飛びかかる。しかし次の瞬間には全個体が一刀両断されていた。
「俺を倒せるとでも思っているのか!? 蛇斬りっ!」
スサノヲの放つ斬撃がシシガミへと向かっていく。
「……まぁそう来るよな」
そうシシガミが言うと地面から分厚い木の壁が生えて斬撃を受け止める。
さらに壁は大きさを増していきスサノヲに襲いかかる。 が、スサノヲは動じる事無く両手の短刀を水平に構えた。
「大蛇斬り!」
その掛け声と共に放たれた斬撃は巨大な壁を一刀両断する。
しかしそこにシシガミの姿は無かった。
「流石だな、スサノヲ」
「どこだっ!」
スサノヲは周囲を見渡すが、どこにも姿は見当たらない。俯瞰していた俺でさえ見つける事が出来なかった。
「……なぁホルス、シシガミの奴どこ行きやがった?」
「さぁな。だが、そう遠くには行っていないと思うぞ」
「…………?」
膠着状態が一分程が経過した時、地面が大きく盛り上がる。
「っ! まさか地面に……」
「お前の斬撃から逃れる為にはこうするしか無かったものでな。それより、お前は何でも斬ってしまうが……これは斬れるか?」
盛り上がった地面が砕ける。
そして、そこから木の巨人が這い出てきた。
「今の私の最高到達点、守人」
その30mにも達しそうな巨体は複数の木が絡まり合って構成されており、ジッとスサノヲを見つめている。
「……でかいな」
「私の意識下でコントロールできる有効範囲ギリギリのサイズだ。故に形成に時間が掛かるんだ……それじゃあ行くぞ」
「っ!」
木の巨人の大きな右腕がスサノヲを潰しにかかるがスサノヲはそれを悠々と躱す。
「そんな攻撃あたらないぞっ!」
「知ってるさ」
そう言うと守人の足が変形し、無数の蔦がスサノヲに迫る。
「クソっーー」
「いくらお前でも捌ききれまいっ!」
「……乱蛇切りッ!」
無数の斬撃が蔦を全て斬り落とす。
しかし、地面から生えてきた蔦にスサノヲは足を取られてしまった。
「な……!?」
(正面からの攻撃はフェイクかっ!)
「ようやく止まったな」
「っ!!」
守人の両腕が融合し、スサノヲへと振り下ろされた。
何とかスサノヲは両手で受け止めるが、段々と体が地面に沈んでいく。
「くっ…………何処にいるんだお前は……ッ!」
「ちゃんとこの中にいるぞ」
「そうか……ふんっ!」
スサノヲは一呼吸置くと片手を降ろし、斬撃を巨人目掛け飛ばす。
その斬撃は見事に命中し巨人の腹部を削り取った。
しかし、削られた腹部は瞬く間に再生する。
「先程も言ったがこの巨人は、私の意識下で動かしている。木を少し成長させてしまえばこのように再生させる事も可能だ」
「……つまりっ!……この形になった時点で……くッ、敗北は決まっていたと?」
「残念ながら」
「くッ……そ……!」
守人の手が地面へと到達し砂埃が舞う。
腕を上げると、手首の辺りにスサノヲが何重にも拘束されていた。
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「おっ来た、おーい坂東ーっ!」
坂東がこちらへ走ってくる。
「わりぃな突然」
「いや、大丈夫だ。それで俺は誰と戦えば良いんだ?」
「私と一緒にホルスと戦って欲しいんです」
「……分かった」
2人は少し近くに寄り、作戦会議を始めた。
「まず、坂東さんは私の指示に従って欲しいんです。ホルスの事は私の方がよく分かっているので」
「あぁ、それでいい」
「試合が始まったらすぐ……」
俺はそれを見ながらシシガミに話しかける。
「……アフロ大丈夫かな」
「何がだ?」
「いやほら、一応坂東ってさ……あれじゃん」
「大丈夫、今のHOPEsに坂東さんを敵視する奴はいないさ。アフロは特に、佐竹さんの件で彼の傷を間近で見ているからな」
「まぁ……そうか。じゃあさ、どっちが勝つと思う?」
「難しい質問だな。アフロ、坂東の2人は遠距離の攻撃を保有している。しかしサシならばホルスが勝つだろう。それが2人となってどう傾くか……アレスはどう読んでいるんだ?」
「そりゃあ……」
「アレスー! 掛け声おねがーい!」
坂東とアフロが並び、ホルスは少し距離を取った所で2人に向き合っていた。
「あぁ分かった」
(…………やべぇ……なんて言おう。ここに立つと結構悩むな。スタート? うーんなんか微妙だな…………)
「どうせやるなら勝つからね!…………アレス? どうしたの?」
「っ! わりぃ……う“う“ん!…………はっけよーい、のこった!」
(こういう事かっアフロ!!)
俺の声に合わせてホルスが消える。そして次の瞬間、坂東が吹き飛んだ。
「っ!? 坂東さん!」
アフロは吹き飛んだ坂東に駆け寄り、治癒を行う。
「坂東さん壁!」
「くっ……!」
坂東が地面に手を触れると土がかまくらの様にせり出し、2人を覆い隠した。
「……シシガミ、何やってんだアイツら? あれじゃむしろ逃げ道が……」
「恐らく、先ほどのような特攻を防ごうとしているのだろう。あれじゃあ正確な位置が特定できない事はおろか、そこにいるかも分からないからな。
ホルスとしてもアレには突っ込めないだろう」
「あぁ……そういう……」
「そういえばお前の予想を聞けてなかったな。どちらが勝つと踏んでいるんだ?」
「もちろん、ホルスだ!」
「何故そんなに確信を持てる? ホルスはあの2人に対しあまり相性が良くないだろう」
「そりゃお前……俺毎朝アイツと戦ってんだぜ? アイツはめちゃくちゃつえーよ……お、動いた」
2人を覆う土の壁が崩壊する。そこには弓を構えるアフロと無数の土の棘をホルスへと向ける坂東の姿があった。
「……っいた! 十時の方向!」
「了解!」
ホルスの姿を視認した2人はすぐに攻撃を放つ。
「……」
しかしホルスは微動だにしない。
「何故ホルスは動かない?」
「まぁまぁ落ち着けってシシガミ、見てろ」
矢がホルスの服に触れる。
その瞬間ホルスは上昇して攻撃を躱し、消えた。
「っ!……ホルスはどこに…………っ坂東さん壁!!!」
「分かっーー」
「坂どーー」
2人は突如吹き飛ばされ、その先で腹を抱えてうずくまっている。
「2人共攻撃が甘い、戦略もだ。先のシシガミのように地面に潜っていれば、後10秒は続いただろう」
俺たちはその声でようやくホルスの姿を視認できた。
あまりにも一方的な試合内容に俺以外の全員が唖然とする。
「ナイスファイト、ホルス!」
俺は片手を上げる。
「お前も勝てよアレス」
それを見たホルスも片手を上げた。
俺たちは歩いて近づき、手を交わしてすれ違う。
「あたりめーだ!」




