第49話 カチコミ
「……結構遠いんだな」
「ね」
アレスとアフロは伝言に従い、電車で国会議事堂へと向かっていた。
2人に気づいたのか、周囲の乗客が少し距離を取っている。そんな中1人の青年が2人に話しかけた。
「……あの……HOPEsさん、ですよね?」
「……あ、はい」
アレスがそれに返答する。
「わぁ……あの僕、応援してます!」
「ありがとうございます」
「その右腕の怪我って……昨日の?」
「えぇ、まぁ……」
「犯人は? 捕まえたんですか?」
「……もう解決しました」
「そうなんですか?……良かったぁ。不安だったんです、あの近くに祖母が住んでて……」
「……すいません、苦戦して」
「え? あ、いやそんなつもりは……」
『ドアが開きます。ご注意下さい』
「あ! これからも頑張って下さい! 応援してますっ!」
青年は閉まりかけた列車の扉から駆け足で走り出して行く。
「……あ、次の駅だ」
「……」
「……アレス?」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや……何つーか……俺たちってまだまだなんだなって」
「何で? 応援してくれてたじゃん」
「でもさ、あの人すげー不安そうな顔してたんだよな……」
『ドアが閉まります。ご注意下さい』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『現在、国会議事堂を目指し電車で移動中』
「分かった。怪しい動向を見せたらすぐに報告しろ」
そう言うと男は電話を切る。それとほぼ同時に扉が開いた。
「今回も無事やってくれたようだな、ロキ」
「えぇ、壁総理」
ロキは部屋に入って来ると総理の机にもたれかかる。
「私にそれ以上近づくな」
「えー、まだ信頼してくれてないんですか? こぉーんなに献身的に働いてるのに?」
「今すぐクビ切っても良いんだぞ?」
「ちょっ……冗談じゃないですか〜!」
「……そろそろスタンバイしておけ。じきに到着するぞ」
「はーい、総理は?」
「私も行くさ。近くで見ていないと不安でな」
壁総理は立ち上がり、机の引き出しを引くと中に付いたレバーを手前に引く。すると机は大きな音を立てながら横にスライドし、地下へと繋がる階段が姿を現した。
「うわぁ……古典的だなぁ……」
「突貫工事だったからな。お前は普通の通路から行け」
「へいへい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アレスが国会議事堂の前に立つ。正確には議事堂を囲む塀の外だ。
「……どっちから行く?」
「どいて! 私からやりたい!」
アフロはアレスを押し除け塀の前に立つ。
そしておもむろに弓を無から取り出すと、塀に向かって思いっきり叩きつけた。
塀には大きくヒビが走る。アフロは振り返ってコクリと頷いた。
「……うし」
アレスは全身に赤い電流を纏って塀に向かい歩き出す。
そして踏み込み、折れていない方の拳を塀に打ち込んだ。音を立てて塀が崩れ落ちる。
「おーい!!! うちの家族返してもらうぞーッ!」
「そうだそうだーっ!」
2人の叫び声が響く。騒ぎに気付いたのか、背後には軽く群衆が出来ていた。
「もうちょっと静かに入ったほうが良かったかな?」
「良く言うな。んな事思ってねー癖に」
「……お二人共」
2人の前にスーツ姿の男が現れ、軽く礼をする。
「こちらへ」
「……」
2人は男に従い国会議事堂の中へと入った。
中には人の姿は愚か、気配すらも感じない。
「……?」
男がとある扉を開くと、そこには地下へと伸びる階段があった。暗くて奥までは見通せそうに無い。
「ここは……?」
「奥で皆様お待ちです。お進み下さい」
そう言うと男は扉の横で頭を下げ、ゆっくりと霧のように体が薄れていった。
「っ!……んだよ、またか」
「アレス」
「……あぁ」
2人は同時に一歩を踏み出した。
そして、落ちた。
「ッ!?」
階段が唐突に消え、2人は自由落下を始める。
数秒の落下の後、うっすらと床を視認したアレスは何とか着地に成功するが、アフロは背中から着地してしまう。
「うっ……!」
「アフロっ!」
「良く来たね瑠羽勇斗君、周防れいこさん」
「総理……っ!」
総理の声に合わせ暗かった部屋が明るく照らされて、その全貌が露わになった。
壁も床も天井も、全てが重厚そうな金属で覆われているまるで実験室のような部屋。違うところがあるとすれば恐らく、窓は愚か通機構すら見当たらないところだろう。
「おや? れいこさん大丈夫かい、随分と息が苦しそうだけど……」
「うっ……平気よ……」
「強がるねぇ…………うーん……まぁ勇斗君だけでいいか。やって」
「え……ちょ」
突如アフロの姿が消える。
「っアフロ!?」
「あぁ大丈夫。ちょっと違う部屋に行ってもらっただけだから」
「テメェ……!」
アレスは赤い電流を纏い構える。
「辞めた方が良い。もし君がその部屋の壁を少しでも傷つけた場合」
突如壁にHOPEsメンバー達の姿が映し出された。全員が別々の暗い部屋の中でうずくまったり、徘徊したりしている。
「君のお仲間達が収容されている鋼鉄の部屋の温度を上げる。」
「温度?」
「それこそ鋼鉄が溶ける位にね」
アレスの脳裏に焼けた坂東の姿がよぎる。
「……」
「おぉ、ようやく良い顔になったね。なに、少し質問がしたいだけだよ。応じてくれればすぐにでも解放しよう」
「……質問ってのは?」
「シンプルだ。お前ら犯罪者庇ってんだろ」
「ッ!!!」
(バレてたかっ……!)
「何故そんな事をするんだ? 私から見たお前らは危険因子ではあれど、善人だった。不安定な国を気遣い金銭的な要求もせず、ほぼ無償で人助けを続ける連中。
それがどうして凶悪な犯罪者達を庇う? 理解が出来ん」
「……それが最適だと思ったからだ」
「最適? この怪物を都内の山に拘束しておく事がか?」
総理の話に合わせアレスの前に、現在アジトで拘束中のスサノヲの友人、本郷慎二(赤マッチョ)の姿がジオラマのように現れた。
「……そっちだって犯罪者抱え込んでるじゃねぇか。さっきから悪趣味な幻覚見せやがって……!」
「誰が犯罪者だって?」
何も無い空間からスーツ姿のロキが現れる。
「……ようやく姿見せたな、ロン毛野郎」
「はっ! 俺がどんな犯罪を犯したってんだ?」
「あ? とぼけんなよ」
「証拠は?」
「……つくづくお前らクソだな」
「過去は知らないが、今のロキ君は優秀なボディーガードとして私の元で働いている。
こちらからの回答は以上だ。次は君の番だが……」
「まぁ待てよ総理」
壁の話を遮りロキが声を上げる。それと同時に四方の鋼鉄が白色に変色した。
「……? おいロキ、見えないぞ」
「すいませんね総理」
「おい、どうなってる!? 早く見せろ!」
「……?」
(なんだ? 仲間割れか?)
「大丈夫です。少しやりたい事があるだけなので」
「馬鹿言え! クビにするぞっ!?」
「……好きにしろよ」
「なっ!?」
ロキはゆっくりと歩き出しそして、アレスの前で立ち止まった。
「俺が総理なんぞに仕えたのも、下げたくもねぇ頭下げてたのも、全てはこの時の為だ」
次第にロキの体が赤く変色し、額からは角の様な物がせり出してきたかと思うと、例の如く霧のように消えてしまった。
しかしロキの話は止まらない。
「おいクソガキ、俺は根に持つタイプだぜ?」




