第48話 髪
「……は?」
(ホルスと坂東だけじゃ無く、ハデスさんにシシガミまで連絡が取れない……!?)
「ホルスと坂東さんがいなくなってから、皆んなに連絡取ってみたんだけど…スサノヲ以外とは電話が繋がらなくて……」
「俺も同じだ。救助活動の最中、突如アフロ以外に連絡が通じなくなった。
最後にハデスとシシガミを確認したのは、昨夜事件を収束させる為にアジトを飛び出した時だ。恐らくは俺を追いかけている最中に何かあったのだろう」
「そんな……何で……?」
「あの……僕達は席外した方がいいですかね……?」
佐竹さんが気まずそうに言う。
「あ、いえ。大丈夫ですよ。皆さんも危険なので見える範囲にいた方が安全ですし……そういや、セトは?」
「セトはアレスさんにやられてから、まるで居なくなったみたいに消えちゃいました。
まぁ……あんな攻撃喰らえばそうなるのも納得ですけど」
「あんな攻撃……? 一撃の事ですか?」
「それです。最後の技ですよね?」
「最後の技……あ! あの瓦礫の山アレスがやったの!?……どうりで腕ボロボロな訳ね」
「それはよく分かんねぇけど……一旦、セトの脅威は忘れて良いんですね、佐竹さん?」
「えぇ。心配は要りません」
「そうですか……」
俺は胸を撫で下ろす。同時に皆んなの行方を考える。なぜ、どうして消えたのか。犯人は誰なのか。
「……なぁ、これからどうする?」
「どうするも何も、探すしか無いでしょ?」
「それはアレスも分かってるだろう。どう探すのかって話じゃ無いのか」
俺達がいくら考えても答えは出なかった。
ホルス達の行方を掴もうと、俺とアフロは早朝の街を徘徊する。スサノヲは佐竹さん達を守る為、アジトで待機していた。
昨夜の騒動による街への被害は凄まじく、そこらかしこが焼け焦げている。
「……大丈夫なの?」
「ん? 何がだ」
「腕、まだ痛いでしょ。休まなくて良いの?」
「あー……まぁまだ痛いけど、多分戦える位にはなったと思うぞ」
「そんな訳無いでしょ! 馬鹿言わないで全く……」
「わ、わりぃ……」
俺がそう言うとアフロはため息をついて進んで行く。
「……アレス、ちょっとこっち来て」
「おう?」
アフロに着いていくとやがて、見覚えのある街並みに辿り着いた。
「ここ……昨日の?」
「そ、私達がアレス達を見つけた場所」
道路は一部熱で変形したまま固まっており、血の跡がそこかしこに残っている。
「この血……酷いな」
「えぇ。でもそれを見せる為に連れて来た訳じゃ無いの。ほら、コレ」
「ん……?」
アフロは道路では無く、その横の瓦礫の山を指差した。その左右のビルは抉られたように穴が空いている。
「……あれ? こんなに壊れてたか?」
「いや……アンタがやったの」
「え……俺が、これ?」
「うん」
俺は瓦礫を眺める。自分がこれをやったという事実が信じられなかった。
「一撃の衝撃で……? じゃあもしかして、この腕はそん時に……」
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‐アレス達の会話‐
「……やがて体は内側から崩れるだろう」
「な……ま、マジ?」
「残念ながらな。勇斗、悪い事は言わん。赤い電流はもう使うな。それと今お前が構想しているあの技もだ」
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(一撃。現在俺が使える片腕限定の疑似オーバーヒートと全身に使える純正のオーバーヒート、この内純正の方を疑似オーバーヒートの要領で片腕に集め放つ技。
そりゃあまぁ代償は覚悟してたけど……まさかここまでとは……)
「……」
「……ねぇアレス……」
アフロは真剣な声色で俺を呼んだ。その目は真っ直ぐに俺を見つめる。
「その腕ね、本当に酷い状態だったの。今回はすぐ着けたから骨折で済んだ。でも今後はあぁは行かない」
「……」
「あの場では確かにコレが最善だったのかもしれない。でもアレス……体張りすぎだよ」
「……言いたい事は分かる。だけど、俺はヒーローに……」
「知ってる。だからだよ」
「……?」
「ヒーローになりたいんだったら……死んじゃダメだよ……」
アフロは少し涙ぐみながら言った。
「……悪かった」
「もう……絶対分かってないじゃん。もしアンタが死んだら、那由多ちゃんだって悲しむんだからね?」
「……あぁ」
(それでも、俺は…………)
「……ん?」
アフロの背後、ビルの影に何かが見えた。俺はすぐにアフロを引き寄せて構える。
「誰だっ!?」
「ちょっ……アレス? どうしたの?」
「今あそこに何か居た」
場が緊張に包まれる。
「……」
(もしかしてホルス達を攫った……?)
「……っ来る!」
ゆっくりとビルの影から誰かが出てくる。人間だ。
「……っ!」
「…………お、アレスじゃないか」
出てきたのは短剣を背負ったスサノヲだった。
「スサノヲ? お前何してんだこんな所で」
「小腹が空いたから少し買い物をな」
「買い物って……佐竹さん達が危ねぇだろ。せめて一緒に来いよ」
「佐竹さんは顔が割れているだろう? 今は露出を避けるべきだ」
「……まぁ、そうかも知れねぇけどよ……」
スサノヲは小さくため息をついた後、アフロに話しかける。
「それより、何か手がかりは掴めたのか?」
「なんにも。皆の事だし、大丈夫だとは思うけど……」
「……こっちはまた政府からの連絡があった」
「え〜また?」
「ちょっと待て! 『また』って何だ? 何かあったのか?」
状況が飲み込めない俺は2人に説明を求める。それに対しアフロが答えてくれた。
「アレスが寝てる間に、佐竹さんの引き渡しを命じられたの」
「……そういう事か」
「あぁ、二回目の連絡は半ば脅迫じみていた」
「……一度アジトに戻ろう。佐竹さんが危険だ」
「うんそれが良いかもね」
「ちょっと待て」
俺の提案にアフロは同意したが、スサノヲはそうでは無かった。
「仮にハデス達の誘拐の犯人が政府だとすれば、今の10%まで制限できる佐竹さんなら自分で対処できるだろう」
「いや民間人だぜ? それに政府とはまだ決まってないだろ」
「なら犯人がゼウスだったとして、こっちの戦力は腕が折れたお前と基本は非戦闘員のアフロ、実質的には俺だけじゃないか。
だったら佐竹さんを囮に政府とゼウスの注意を惹きつけ、その隙に俺達がハデス達を見つけ出すのが得策じゃないか?」
「……でもそれじゃ、佐竹さんがどうなるか分かんねぇだろ」
「そんなこと言っても……俺の剣だけでゼウスに勝てるわけないだろう」
「…………は?」
「いやだから……俺だけじゃ無理だろって?」
俺は全身に電流を纏う。
そして折れていない左腕をスサノヲに撃ち込んだ。
案の定、俺の腕はスサノヲをすり抜ける。
「やっぱりな……」
「……アンタ、誰?」
アフロがスサノヲによく似た“何か“に問う。
「うーん……バレちゃうんだもんなぁ、これで。若いって良いなホント」
「質問に答えろ。お前は誰だ?」
「……分かってんだろ、クソガキ」
返答を聞いた俺は深くため息を吐く。
「……確かにお前は人攫いには最適だな」
「人攫いだなんてとんでも無い。俺はただ仕事をしただけさ」
「仕事? よくお前みたいなセクハラロン毛が仕事にありつけたな」
「煽って情報でも聞き出そうとしてるんだろうが、無駄だ。それより何で分かった? 我ながら完璧だと思ったんだがな」
「……スサノヲは優しいんだよ。自分の命なんざ1ミリも案じないぐらいにな。
んな奴が自分以外を危険な目に合わせるような事するかよ。それに、アイツは強い」
「……はぁ」
スサノヲのような“何か“は髪を掻き上げ、こちらを見つめる。その体は少しずつ薄くなっていった。
「おい待てっ!」
「やだね。俺はドンパチするために来たわけじゃない。ただ伝言を伝えにきただけだからな」
「っ!…………伝言ってのは?」
「国会議事堂にて待つ」
そう言い残すと、スサノヲのような“何か”は完全に姿を消した。
「ねぇ……アレス、今のって……」
「……多分政府からの使者だろうな」
「じゃなくて! 知り合いだったの?」
「知り合いじゃねぇけど、ちょっとな」
俺はポケットからスマホを取り出し、スサノヲに電話をかけるが繋がらない。
「繋がった?」
「いや、繋がらない」
「……じゃ、行こっか」
「あぁ」
俺達は小走りで国会議事堂へと向かい走り出した。




