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HOPEs  作者: 赤猿
47/100

第47話 昨日



「…………っはぁ!」


 

 俺は布団から飛び起きる。



「セトは……っ!」


(……ここ……アジトだ)



 俺は周囲を見渡す為に体を起こそうとするが、右腕と背中に鋭い痛みが走る。


 痛みで気が付いたが右上半身には包帯が巻かれており、腕にはギプスのような物が取り付けられていた。



「なんだ、コレ……」




「あっ! アレス起きた! おーいスサノヲー!」


 アフロが廊下に向かって叫ぶ。どうやら今部屋に入って来たらしい。



「良かった……体の調子はどう?」


「ん……腕と背中が痛い」


「そっか、まぁ大丈夫そうだね」



「……なぁ、アフロ」


「うん?」


「あの後……どうなったんだ?」


「……」


「アフロ?」



「…………あの後ねーー」


「アレスッ!! 起きたか!!」



 部屋の扉が勢い良く開く。直後すぐにスサノヲが飛び込んできた。



「大丈夫か!? アレス」


「あぁ、大丈夫だ」


「そうか……傷はどうなんだ?」



「傷……? あ、そういや……俺こんなにボロボロだったっけ……?」


(火傷と打撲は沢山あったが……右腕こんなだっけ……)




「ボロボロって……それでも良くなった方なんだけどね」


「これより酷かったのか?」


「まぁね」



「……! 3人も呼ぶか?」


 スサノヲが言う。それを聞いたアフロはハッとして立ち上がった。



「あ、忘れてた! ちょっと待ってて、今呼んでくる!」


「あ、ちょおい……」



 アフロは部屋から飛び出していく。何が何だかわからない俺はスサノヲに問いかけた。




「……なぁ、スサノヲ。今って……何日だ?」


「ん? 2月の3日、節分の朝だが……?」


「えっと昨日が……2日?」

(あ、そういうのは無いのね)



「……どうした? 変な顔してるぞ」


「急にディスるんじゃねぇよ。シンプルにもう、何が何だか……気になる事が多すぎるんだ」



「というと?」



「あの後佐竹さんと坂東はどうなったのか、街への被害はどの程度だったか、俺のこの怪我は何なのか、とか。挙げてきゃキリねぇぞ」


「あぁ、それならすぐに分かるさ」


「すぐに?」




「アレスさんッ!!!」


 扉から勢い良く2人の人影が入ってくる。



(今日コレ多いな……って!?)




「佐竹さん!」


 

 扉から入って来た2人は、佐竹さんとその妻、佐竹麗奈さたけ れいなさんだった。

 遅れてアフロも入って来る。


「二人共無事だったんすね……! 良かった…………!」



「ふふ、まぁ無事では無いかもですけど」


 麗奈さんは笑いながらそう言う。気が付かなかったが麗奈さんは全身包帯で巻かれていた。



 俺はすぐに頭を下げる。


「っ! す、すいません! 俺、今頭回ってなくて……」


「あ、違うんです! そういう意味で言ったんじゃ無くて……アレスさんには本当に感謝してるんです!」


「そうです、僕たち本当に感謝してるんです。だから、頭を上げて下さい」



 俺は頭を上げる。



「……そういや、息子さんは?」


「あぁ、かいですか。あの子なら隣の部屋で寝てますよ」



「いや、そうじゃなくて……傷は?」


「特に無しです。麗奈が身を挺して守ってくれたので」



 佐竹さんがそう言うと、麗奈さんは自慢げに包帯を俺に見せつけた。



「名誉の負傷なんです! だから、本当に気にしないで下さいね」



 俺は胸を撫で下ろす。

 しかし、一つの事実に気が付いてしまった。



「……なぁ、アフロ……」


「どうしたの?」




「坂東は……どこだ?」



 俺の問いに対して、返答は返って来なかった。スサノヲが気まずそうに切り出す。




「……見つからないんだ」


「見つからない?」


「昨日、あの事件の後から坂東が見つからないんだ」


「!?……どう言うことだ……?」


「ちょっと待ってスサノヲ! 一旦最初から説明しよ?」



「……あぁ、そうだな」




 2人がそう言うと、アフロは一度深呼吸をして話し出した。




「あの後すぐに、私とホルスが現場に到着したの」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「この辺だよね?」


「あぁ」


 私はホルスの背中に乗って街の上空を駆ける。


 政府からの指示に従いアレス達を探していると、街の一角で爆発のようなものがチラリと見えた。




「ッ! ねぇホルス!」


「分かってる、しっかり掴まれよ!」



 そう言ったホルスは急降下を始めた。ものの数秒で爆発の見えた場所に着く。




「危険だから2人で行動するぞ」


「うん、よいしょっと……って、何この穴?」



 道路脇のビルに大きな穴が、というよりビルの上部が丸ごと吹き飛んだかのような瓦礫の山がそこにはあった。


 それ以外は爆煙に包まれて良く見えない。



「どう? ホルス」


「煙が酷くて何も……っ! おいっ! こっちだ!」


「え? ちょっ……!」



 ホルスは突如煙の中へ走り出した。

 私もホルスの後を追いかけ煙の中へと入る。




「げほっ……げほっ……ちょっと! 何が見えたの?」



「……」


「ホルス……?」



 爆煙の少し薄い所でホルスが立ち止まった。



 私はホルスを追い越す。



 そこには焦げた2人の人間、そして血まみれのアレスが倒れていた。



「ッ!! アレス!」


 私はすぐにアレスに駆け寄ってアフロディーテの【神力】を使う。

 アレスの右腕は骨が砕け、筋肉は破裂していた。背筋もダメージが大きそうだ。



「アフロっ! こっちにも人が!」


「連れて来て!」


(傷は酷いけど……時間は全然経ってないみたい!……これなら治せる!)



「ホルス! 早くして!!」



「分かってる!!」




 次第にアレスの骨が繋がって行く。ヒビこそは治しきれないものの、かなりマシになってきた。


(筋肉も繋ぎきれないか……)



「連れてきたぞ! これ……坂東と麗奈さんだ……!」


「うっ……!」



 穴の空いた坂東さんの体を見て吐き気が押し寄せた。

 あまりに状態が酷すぎる。麗奈さんも一目では判別できない程火傷が酷い。



「まだ息はある。アフロ、どうにかなるか?」



「……私と坂東さん、麗奈さんを乗せてそこの病院まで行ける?」


「分かった、乗れ!」



 ホルスは麗奈さんとアレスを抱えて、私は坂東さんを抱えてホルスにおぶられる。すぐにホルスは飛び立った。


 坂東さんから溢れる血で、私の白いワンピースはどんどん赤色に染まっていく。



「…………ふぅ……」


 私は坂東さんの体に空いた穴に両手を掲げ、【神力】を発動する。焼き切れた内臓が徐々に再生していき、骨も少しずつ生えて来た。


 私の【神力】は、怪我をしたタイミングからの時間経過によって治癒の上限が決まる。もちろん早ければ早いほど良い。



(筋肉の再生は厳しいか……)





 内臓一部欠損、肋骨複数骨折、筋断裂、深達性の皮膚火傷の症状で坂東さんの治癒は停止した。


(脈こそあるけど……血が流れすぎてる。早く輸血しないと……)




「着いたぞ、坂東を頼めるか?」

 

 私たちは病院の入り口前に着陸する。ロビーでは本件の被害者が続々と集まっているようで、臨時的に敷かれたマットに怪我人が寝かせられている。


 中には顔に布が掛けられたものもチラホラと確認できた。




「……急いで3人を運ぶよ!」


「あぁ!」



 私たちが病院に入ると、それに気づいたお医者さんがコチラに駆け寄ってくる。


「HOPEsさん! 犯人は…………っ! すぐに手術室へ、井上さん! ストレッチャー!」



 お医者さんがそう言うと、ナースさんが車輪付きの担架のような物に3人を載せ、病院の廊下を走り出した。


 私はそれに並走しつつ麗奈さんに【神力】を使う。焼けた皮膚は徐々に肌色を取り戻していく。




「着きました、同伴なさいますか?」


「えぇ、私は残ります」


「僕は佐竹さんを探してくる」


「分かった。ヤバそうだったら連絡して」


「あぁ」



 ホルスは廊下の窓から飛び出す。私とお医者さんは手術室へと入っていった。



 まず最初にオペを始めたのは坂東さんだった。5時間に渡るオペにて命に関わる傷を塞ぎ、輸血を行うと彼の容態は何とか安定。


 麗奈さんの火傷は酷かったが命に関わるものでは無く、アレスは折れた腕以外緊急性のある傷は残っていなかった為、合わせて2時間で終了。



 7時間経って、私達はようやく全員を救う事が出来た。


 


 手術室から退出した際、廊下のソファには佐竹さんが腰掛けていた。その腕には眠る海君を抱えている。



「佐竹さんっ!? なんでここに…?」


「アフロさん……! 妻はッ!? あの神力者の方はッ!?」



「え……麗奈さんも坂東さんも、生きてます」


「良かった……」



「海くんも無事そうで良かったです。ホルスはどうしたんですか?」


「……? ホルスさん……ですか?」


「……えぇ。一緒にきたんじゃ……?」



「いえ、僕は一時間ほど前に瓦礫の中で目覚めて……麗奈と海をさがしに……」



 私は慌てて携帯を見る。ホルスからの連絡は無い。



 私の頭の中には様々な可能性がよぎった。その時、手術室からお医者さんが勢い良く飛び出してくる。



「アフロディーテさん! 大変ですっ! 坂東さんが……突然消えてしまって!!」


「え……?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それから今までの数時間、ホルス、坂東さん、そして……」



「ハデス、シシガミ。この4人と連絡が取れないの」



 2人は不安そうな表情で、俺にそう言った。

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