第45話 戦火
「黙っとけ居候ッ!!」
アレスは全力の右をセトへと撃ち込む。
その拳はセトの脇腹へと直撃したかと思われた。しかしセトはその攻撃を受け止め、そのまま壁へとアレスを打ちつける。
「うッ……」
「どうした小僧? そんなものかぁ!?」
壁に打ちつけられたアレスに対し、セトは容赦なく追撃を加える。その攻撃で壁は崩壊しアレスは建物の外の道路へと吹き飛ばされた。
通行人の悲鳴と事情を理解していない車のクラクションが鳴り響く。
「クソッ……!」
(このままじゃ被害が…………)
「……ん? 小僧、その赤い雷はなんだ? 初めて見るが……不調か?」
「ちげーよ、修行の成果だわッ!」
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‐1時間前‐
「ハデスさーん!」
ハデスの部屋の扉が勢い良く開く。
「ん? どうしたアレス、佐竹さんとのトレーニングは終わったのか?」
「ついさっき! それより見て欲しいモノがあるんです」
そう言うとアレスはゆっくりと息を吐き目を閉じる。
そして次の瞬間、赤い電流を纏った。
「おぉ! オーバーヒートじゃないか!」
「そうなんです!」
アレスは、ここ1週間で掴んだ擬似的なオーバーヒートの感覚を完全にモノにし、自らの意思でオーバーヒートを引き出せるようになっていた。
「……ん? でもリスクがあるって言ってなかったか? それ」
「!…………いえ?」
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状況を正しく理解した通行人達は、次第にその場を離れ出す。
「危ないんで離れてくださーい!!!」
(これまで通りなら、一定以上のダメージを与えれば戻る筈だけど……)
アレスは周囲を見渡す。
(……やっぱ、こんな住宅街で人いない所なんて無いよな。警報も出てるし暫くすりゃ人は減るだろうが……つか赤電流いつまで持つんだ……?)
「ふぅむ……成る程な。人が邪魔で全力が出せないか」
「そこまで分かってんなら移動しようぜ?」
「……いや、その必要は無い」
そう言うとセトは両手を高く掲げた。
「熱ッ!」
そう言ってセトは手を叩く。
「うっ!!!」
その瞬間周囲が眩い光に包まれ、街には熱風が吹き荒れる。
アレスはその眩しさと熱に全身を覆われ、ただうずくまる事しか出来なかった。
熱風が弱まった頃、すぐにアレスは顔を上げる。
「っんだ今の……っ!」
アレスは言葉を失う。その目にはセトを中心に溶けたアスファルトと車が、そして燃え盛る街が映っていた。
「よし、いい塩梅だな」
「……お前、何した?」
「ん? お前が全力を出せるように少し掃除をな。大丈夫、燃やしただけだ。この程度なら神力者は効かんだろう?」
「…………お前らは本当に……」
「ん?」
「何でそうやって簡単に殺せんだッ!」
アレスがセトに駆け寄り、拳を撃ち込む。セトは先程と同じく受け止めようとするが、アレスの拳はその構えごと吹き飛ばした。
「ッ! やはり本気じゃ無かったか小僧っ!!!」
「黙っとけ!!!」
アレスはセトに飛びつき連撃を叩き込む。その連撃はセトを通じてアスファルトを打ち砕いていった。しかしセトは防御しながらも笑顔を崩さない。
「いいぞ小僧ッ! やはり俺の目に狂いは無かった!」
「!!!」
連撃の隙を突き、セトがアレスを高く蹴り上げる。
「何で簡単に殺せるかって? 気持ちいいからさ!!!」
セトはそう言うと飛び上がり、右手の掌底でアレスの脇腹を突いた。
「あっつ!! 何で!?」
(!?……ウィンブレが溶けて腹に火傷が……)
「それが俺の神力だ!」
両者着地すると、困惑するアレスにセトが話しかける。
「俺は両の手のひらの温度を上限無しに上げる事が出来る。ただし先程のように爆発を起こせば、一時的に体の自由が効かなくなるがな」
「お前……どう言うつもりだ? ペラペラと……」
「俺は小僧の力を把握しているが、そっちは知らんだろう? 戦いはフェアな方が面白いッ!」
駆け出すセトに合わせアレスも走り出す。
2人の繰り出した初撃は共に命中し、続く二撃目三撃目も同じく互いの体を撃ち抜いた。
威力にそこまでの差は無かったものの、セトの攻撃は拳では無く、掌底での熱を帯びた攻撃だった為に蓄積されるダメージはアレスの方が大きかった。
「ぐッ……!」
「フンっ!」
2人は撃ち合うことを辞めない。
「痛かろう小僧ぅ? 焼けた肉を打たれるのは!」
「お前だって動き鈍ってきたぞ!」
アレスのアッパーを躱したセトは一度バックステップで距離を取り、それを追うようにアレスは追撃を仕掛ける。
「お“りゃあッ!!!」
(クソっ……! コイツ、確かに熱を帯びた掌底は厄介……でも、それ以上にタフすぎる! こっちは赤電流だってのに手応えが無ぇ……効いて無い訳じゃないんだろうが…………っ!?)
アレスはセトの後ろにとある人影を見つけた。
「よそ見か小僧!!!」
「っ!」
セトの握り込んだ拳がアレスの胸を捉える。アレスは十数m吹き飛んだ後、地面に仰向けで倒れた。
「うっ…………かはッ……!」
「やはりいい速さだ。技術も高い。だが、威力が足りないな小僧」
「ハッ……ハッ……」
(息が……いや………立たなきゃ……………!)
「それにしても戦いの最中によそ見とは……一体何を見ていたのだ」
そう言ったセトは後ろを振り向く。
そこには佐竹麗奈と佐竹海を抱える、坂東の姿があった。
「……お、アレは神力者……? と……闘士の家族か。
……そうだ」
セトは坂東に一瞬で迫り攻撃を繰り出す。
「見ていろ……闘士ーーッ!」
(!? っなんだ? 体が勝手に……!)
しかしギリギリのところでセトの拳は止まり、坂東に当たる事は無かった。
セトに驚いた坂東は、2人を抱えながら一度セトと距離を取る。
「お前……何者だ?」
坂東のその問いに対しセトは、己の手を開け閉めしながら返答した。
「……それは俺のセリフだ。お前、小僧の知り合いだろう? お前のせいで興が削がれた、責任を取れ」
「小僧??……っ! アレス!!!」
「……坂東……2人連れて……逃げろっ…………!」
アレスは呼吸を荒げながらも立ち上がり、セトを睨みつける。
「お、少しは回復したか小僧」
「……はぁ……はぁ……ふんっ!…………ふぅ……」
「アレスッ!! この2人はまだ息がある! 病院まで運んだらすぐに戻ってくる、それまで耐えろ!」
「っ!……分かった!」
「……もう、良いか?」
「あぁ……居候野郎。始めようぜ、続き」
「ふふ……次は殺すぞッ!」
まずはセトが駆け寄り仕掛けた。それに対しアレスは防御と回避に徹する。
「うっ……?」
(コイツの攻撃……ちょっとだけ軽くなってる……?)
「チッ……やはりか」
「どうした居候! キレ悪くなってねぇかぁ?」
少しずつアレスは防御を緩めカウンターを繰り出し始める。セトはそれを受け流すが何度かに一度は流しきれずにいた。
「ぐッ……! 闘士め……」
セトは小さく呟く。アレスはそれを聞き逃さなかった。
「!?……佐竹さんッ!? いるのか! 今、そこに!」
「どいつもこいつも邪魔しやがって……!」
(闘士め……家族の生存を知り精神が回復したか……先程から力が70%程度しか出せていない。このままでは敗北もあり得る……ならば)
セトはアレスを強く殴りつけると振り返って駆け出した。
「!?……逃げっ…………! っ違う! あっちは……」
アレスは急いでセトを追う。
「あっちは……坂東が向かった方角……!」
(闘士、今度こそお前の心を完全に折ってやろうッ!!!)
セトは不敵に微笑んだ。




