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HOPEs  作者: 赤猿
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第37話 ガールズトーク

-同刻-



「きゃっ!!」


 アフロが廃ビルの中を転がる。



「いたた……アンタ! 何すんのよ!」



 アフロの目線の先には、ゆっくりと歩く長身長髪の女の姿があった。女はニヤリと笑って話し出す。




「アンタじゃないヴァルキリー。ちょっとストレス発散しただけよ」



 ヴァルキリーを名乗る女がそう言うと、彼女の手の中に短剣が現れそれをアフロに向けて投げつけた。アフロはそれを避けるため右へ飛ぶが、ふくらはぎを斬られてしまう。


「いっ!?」


「ぷっ、あはははっ! 何今の声? 情けなさすぎるでしょ! それでもヒーローなの? ま、今まで辛い目になんて合った事無さそうだし、しょうがないわね」




 ヴァルキリーは、(ひざまず)くアフロを見下しながら手の中に槍を出現させアフロへと向ける。


「それじゃあ死んで。ヒーローごっこのバカ女」



「……うっさいわね……舐めんじゃないわよっ!」



 アフロは弓を具現化し目の前の女に向かって矢を放つ。ヴァルキリーは仰け反りそれを躱すが、正面を向き直した時にはアフロの姿は無くなっていた。



(っ!? アフロディーテはどこに行ったの? 目を離してた時間なんてせいぜい1秒なのに……)




 ヴァルキリーは慌てて周囲を見渡すがアフロの姿は無い。しかしその後すぐに弦の音がする。背後から飛んできた矢はヴァルキリーの左足を掠めた。すぐに背後を振り向くがそこにも姿は無い。




「……どこにいるの? 隠れてないで出てきなさいよ!」


「見つけてみろよ!」


 

 声の(あと)、次々に複数の方向から矢が飛んでくる。ヴァルキリーは矢を躱しながら声のする方、弦の鳴る方へと攻撃を続けるが有効打はおろか、あれからアフロの姿を捕捉する事すらできていなかった。



(おかしい! アフロディーテの【神力】は治療と弓矢だけじゃなかったの!?)



 アフロの放つ矢はヴァルキリーを掠り続け、少しずつだが確実にダメージは蓄積されていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 アフロは柱の影に隠れつつ矢を放つ。その後飛んできた槍が柱に突き刺さった事を確認すると、柱の影に完全に身を潜めた。



「……このままじゃ埒があかない…………アフロディーテ! ずっとこのままダラダラやるつもり? 私は別にそれでも良いけど……ゼウスさんは短気だよ?」



「脅迫のつもり?」


「っ! そこか!」



 ヴァルキリーは即座に声のした方へと短剣を投げつけるが、やはりアフロの姿は無い。



「いくらやっても無駄よ」


「……アンタの力は治癒と弓だけじゃなかったの?」


「そりゃ修行くらいするわよ!」



 アフロの声が聞こえたその直後、声のした反対側から矢が飛んでくる。



「どうなって……」


「言っとくけど、ウチの馬鹿も短気だから!」


「!? ッ上ーー」



 上からの声に困惑しつつもヴァルキリーは上を向く。その瞳には、白いワンピースに身を包んだ金髪の、天使のような女が、鬼のような形相で映っていた。



「お“っりゃあぁぁぁッ!!」




 アフロは全力で弓を振り下ろす。その弓は思いっきりヴァルキリーの頭頂部を打ち抜いた。



「うっ……」


 頭に強い衝撃を受けたヴァルキリーの視界は段々とぼやけてゆき、その場に座り込んだ。



(まずい…………意識が……)



 アフロはうずくまるヴァルキリーの両手を背中で縛り押さえつける。


「1月15日19時42分確保」


「くッ…………うぅ……」



「ふぅ……あぁは言ったけど……アイツら大丈夫かな? 助けに行きたいけど……こいつ逃げちゃうよね……」


(それにゼウスさんも心配だし……もしかしたらホルス達も…………)




「く……そ……こんなところで……アンタ如きに……負けて…………たまるか……!」


「ん? なんか言った?」



「……片目!」


 ヴァルキリーが叫ぶ。


「ちょっ! 何急に?……!?」




 突如ヴァルキリーの右目が石化する。アフロは腕を抑える力を強めるが、ヴァルキリーは紐を引きちぎりアフロを吹き飛ばした。




「うっ……いたた……」


(何、急に……)



「アンタなんかには使いたくなかったけど……まぁいいわ」



 ヴァルキリーはそう言うと軽く槍を投げる。その槍はアフロのやや右を通過し、壁を打ち砕き隣のビルに突き刺さった。




(!? っさっきと威力のレベルが違う……!)



「あれ? アフロディーテちゃん、今回は消えないんだ?」


「……」


「その様子じゃ何かタネがあるみたいね」



「……アンタこそどうしたの急に」



「さっきから言ってるでしょ? アンタじゃなくてヴァルキリー。これは私の【神力】。代償を差し出せばそれに見合った力が一時的に与えられる。まぁその価値ってのは私基準だけどね。

 正直ちょっと舐めすぎてた。でもあの瞬間移動みたいなのを使えないなら負ける事は無い。力も心も強さが違いすぎるもん」




「なるほど……その右目はそういうことね」


「そ。だからアンタ如きに使いたくはなかったんだけどね。はぁ、イライラする……じゃ殺すか」



 ヴァルキリーが手を掲げると壁に開いた穴から槍が戻ってくる。その槍をヴァルキリーが掴むと、みるみるうちに刀へと姿を変えていった。



(武器なら何でも使えるのね……流石ヴァルキリーの【神力】)




「それじゃあね、温室育ちちゃん」


 ヴァルキリーはその刀でアフロに斬りかかる。アフロはすぐに弓を構えて明後日の方向へと矢を射った。するとアフロはその場から姿を消し、刀は空を切った。




「……なんだ、まだ使えたの?……! あぁ、そういうタネね」




 両者の目が合う。ヴァルキリーは刀を槍に変えてそれをアフロへと投げつける構えをとると、再びアフロは弓を射てその場から消えた。


 筈だったが、右肩に槍が突き刺さった。



「痛ッ……!」


(アイツ……完全にわかってる……)




「さっきまでのマジックショー、あれは矢の着弾点に瞬間移動するってところよね? タネが分かれば対策は容易だし何より、その肩じゃあもう矢は射れないね」


「……」



 ヴァルキリーはゆっくりとアフロに近づきながら手を掲げる。その手に帰ってきた血肉の付いた槍を短剣に変え、アフロの左足に投げつける。短剣が足に刺さったアフロはその場に仰向けで倒れ込んだ。



「うッ……」



「……この光景、まさに自業自得って感じね」



「……自業自得?」


「えぇそう。アンタらがヒーロー活動なんてするのは、今まで辛い目にも合わずにイージーな人生を歩んできたからでしょ?でもね、この世界に生きる私含む人間の多くはクソみたいな環境で普通の女の子みたいに生きられなくても、何とかもがきながら生きてんのよ。

 私はね、アンタらみたいな辛い目にあった事も無い偽善者が1番嫌いなんだよ」



 ヴァルキリーはそう言うと屈み、アフロの足に刺さる短剣を引き抜いて何度も突き刺す。



「ぐっ……!?……っはぁ……はぁ…………」



「痛い? これが私達の受けて来た痛みだよ。(つら)いでしょ」




「…………痛いけど……(つら)くは無いよ……」



「ハハハッ! 強がっちゃってて可愛いねぇ!」

「強がりだと思ってるの……?」


「ッ!」

(何……? 今妙な気迫が……)




「アンタ、いやヴァルキリー。貴女はさっき、私達が温室育ちだのイージーな人生だの、辛い目に合ってない偽善者だの言ってたわね……」


「え、えぇ。だって事実でしょう? そうじゃなきゃヒーローだなんて馬鹿げた事する訳無いもの」



「……私の仲間達は大切な仲間を、私は尊敬する仲間を、まるで父のように思っていた仲間を一月前に失った。

 私の友達(ともだち)たちは自分の行動の是非がわからなくなって、ようやく2人とも自分なりの正しさを見つけた頃にその人を失って、毎晩毎晩寝る間も惜しんで怪我増やしながら修行してる。『もっと助けられるように』って」




「…………だから……何なのよ……!」



「……あいつらは! 辛い目にあってきた。それでもずっと人を助けるために頑張って前に進もうとしてる! どれだけ貴女が辛い目に遭って来たかなんて知らないけどね……悪事の言い訳に私の仲間を使うんじゃ……」



 アフロは倒れた体を少しづつ起こし、首を出来る限り後ろに伸ばす。



「無いわよッ!!!」




 アフロは全力でヴァルキリーに頭突きをする。それを食らったヴァルキリーは後ろによろけるも倒れはしなかった。額を抑えながらもヴァルキリーは顔を上げる。



「やってくれたわね……っ!?」



 アフロは血まみれの足で立ち、穴の開いた肩で矢を引いていた。



「ア……アンタ、どうやって!?」



「根性だよッ!」



 弦の音が鳴り響く。アフロが全力で射た矢はヴァルキリーの腹に突き刺さり、ヴァルキリーは後退あとずさりながら壁に背を付いた。




(痛い……!……さっきまでの矢とは……まるで違う…………でも何か特殊な能力を使った素振り……は無かった………………まさか! コイツ今まで、私を殺さない為に手加減を……?)



「偽善者が……! 私はこの程度じゃ死なないっ! アンタなんかすぐ……」


「アンタじゃ無い。アフロディーテよ」



 アフロは二本目の矢を射った。その矢は先ほどの矢の後端部分に直撃し、押された矢はヴァルキリーの体を貫通して壁に突き刺さった。


「ゴフッ……」


 ヴァルキリーの腹から血が溢れてくる。




(……反撃しなきゃ……な……のに…………身体が冷たくなってきた…………力が入らない…………あぁ……これで終わりか……クソ人生だったな……………………?……あったかい……?)




 ヴァルキリーは恐る恐る目を開ける。するとそこには弓を構えるアフロの姿があり、肩や足の傷は塞がっていた。


 ヴァルキリーはすぐに自分の腹部を確認する。すると腹には矢こそ刺さっており抜けないものの、血は完全に止まっていた。



「あんまり動くと傷が開くよ。私の治癒は完璧じゃない。あと怪しいなって思ったらすぐ撃つからね?」



「……あ、アンタなんで……?」


「だから、ずっと言ってるでしょ? 私たちはヒーローだよ? できる限りの命は守る」



「……そう………………なら勝てなくて当然だわ。相手が本物のヒーローじゃ分が悪すぎる」


「言っとくけど仲良くする気は無いからね」


「私もよ。私の弱さを証明した人なんかと仲良くする気なんて無いわ」



「……全部終わったら聞かせて。貴女の過去。お茶でもしながら」


「……気が向いたらね」

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