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HOPEs  作者: 赤猿
36/100

第36話 拳を振るう理由

-現代-



「そうして最後の1人を殺した秋斗(しゅうと)、もとい秋斗(あきと)君は職場を辞め、飛行機に乗って東京へと帰ったのでした。めでたしめでたし」


「……」



「……全く、せっかく話したというのに反応無しか」


「そういう訳じゃねぇよ。…………今の話がどう日本征服に繋がるのかピンと来てないだけだ」



「うーむ……そうだな……才能とはとても価値が高い。努力では手に入れる事が出来ず、天に選ばれる以外手に入れようの無い絶大な力。分かるな?」




 アレスはただ黙って話を聞く。それに対し、ゼウスはところどころ詰まりながら話を進める。



「だが日本はどうだ? 才能の無い者が当たり前の様に才能のある者をこき使う。その才能が活かされる事無く朽ちていく事もザラだ。

 俺はな、そうやって才能が潰えて行く事が我慢ならないんだ。だから才能のある者が生きやすい世界を創る。それが俺の目標だ」



「……その為に日本を落とすのか?」


「今の俺達なら簡単だろう」



「そういう話じゃねぇよ。…………本当に人を殺しても何も感じないのか?」


「あぁ」




「……そうか」



「もう良いだろう。随分と長話になったな。出来ればお前もこちら側にと思っていたが……寝返る気は無さそうだな。それじゃあ、死ね」



 ゼウスは拳を振り上げる。





 しかしその拳がアレスに直撃する事は無かった。





「……ほぅ、まだ生きていたか」



 ゼウスの振り上げた右腕にツタが絡みつく。




「……あの……程度で…………死んでいては……ヒーローは務まらないぞ……?」



「ふっ、よく言うな。貴様の仲間はまだ立つ力があるのに諦め……ッ!?」




 ゼウスは一瞬思考が止まる。先程まで己の足元で横たわっていた人間の顔が希望に、そして怒りに満ち溢れていたからであった。



「きさッーー」



 赤い稲妻に包まれたアレスの右腕が、ゼウスの顎を撃ち抜く。ゼウスは軽く吹き飛ぶもすぐに体勢を立て直した。




「……貴様……卑怯だぞ。それでもヒーローか?」


「お前だって最初不意打ちしてきたろ?」


「俺はヒーローじゃ無い。だが貴様は違う」


「なんだ、ヒーローが芝居こいて不意打ちするのがそんなに気に食わねぇのか?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-20分前-



「うるせぇって言ってんだろ!!」


「お前は相変わらず弱すぎる。期待外れだ」


「っ!」



 ゼウスの拳がアレスの腹に直撃し、瓦礫の山へと吹き飛ばされた。




「痛ってぇ…………!」


 その時、アレスはシシガミの口が動いている事に気が付いた。


(シシガミ!? 意識があったのか……良かった……)



「アレ……ス……時間……稼…………げ……」



「っ!……まだまだ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これもれっきとした作戦だぜ?」



(あのときの俺は冷静じゃ無かった。わざわざ1人で戦う必要は無い。ここまで大きな被害が出てればHOPEsのみんなに連絡は行ってるはず。俺は皆が来るまで耐えれば充分だ)



「その上こんな不意打ちでダメージまで入れられたんだ。言う事無しだぜ。ありがとうな、シシガミ」



「……まぁ良い。どうせ結果は変わらないのだから」



 ゼウスはそう言って指を強く鳴らした。


 その瞬間、雷がアレス達の頭上に迫る。しかし直前でアレスに集まり、吸い込まれるように消えていった。




「……これで膠着状態だな。今ので分かっただろう? 貴様がその場を離れればその男の命は無い」


 ゼウスはそう言いながらシシガミを指差す。



「お前から来れば状況は動くぜ?」


「俺が行かなくとも、処置をしなければその男は勝手に死ぬだろう」



「……」


(悔しいが、確かにその通りだ。早く皆が来てくれなきゃ、この状況はどうにもならない)




「……そうだ言い忘れていた。貴様の仲間は来ないぞ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ホルス! アレスとシシガミに何かあったらしい! 至急向かえるか、私達もすぐに向かおう」


『ーー! っ了解しました』



 ハデスは電話を切ると、すぐにアフロが待機する車へと乗り込みアクセルを踏み込む。



「スサノヲはなんと?」


「すぐに向かうって言ってました。ホルスは?」


「同じくだ。大事じゃ無ければ良いんだが……」



 やがて車は山道を抜け街中へと入る。



 その時車のフロント部分に大きな槍が突き刺さり、車は横転しひっくり返った。




「いたた……ちょっ!? これ何っ」


 アフロがそこまで言いかけると窓ガラスが割れ、アフロは何者かに引きずりだされる。



「っおいアフロ!? どうした!?」


『あの子は死ぬよ。間違いなくね』



 車の外から聞き覚えのない女の声がする。ハデスはすぐに車から抜け出し、声のする方へと振り向いた。

 だがそこに立っていたのは、女でも、ましてや男でもなかった。



「……人形?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「早く向かわなければ……」


 スサノヲは全速力で屋根から屋根へと飛び移る。だがある屋根に着地した瞬間、屋根から岩が突き出した。スサノヲはそれを何とか避け屋根から突き出た岩を眺める。



「岩……?」



「君がスサノヲ君で間違いないかな?」


 どこからか声が聞こえる。



「……お前は誰だ?」


「うん、その角。間違いないね。僕はイワクラノカミ。君を殺しにきた」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 暗くなった小学校の校内。一般の生徒は全員下校し静寂に染まったその校内に、何かが暴れる轟音と、うめき声が不定期に響き渡る。



「せんせぇ……こわいぃ……」


 ランドセルを背負った子供が教師に抱きつく。



「大丈夫……大丈夫……大丈夫だからね」



 教師は、己の手の震えを何とか抑えて子供の頭を撫でようとする。


 しかしその瞬間正面の壁を突き破り、大きな布で己の姿を隠した大男が現れた。

 そして教師と子供を見つけるや否や一直線に突進する。



 教師はあまりの恐怖からか、生への諦めからか、目を瞑り子供を抱きしめた。




「…………?」



 しかし教師も子供も死ぬことは無かった。教師は恐る恐る目を開ける。するとそこには先ほどまでの大男はおらず、代わりに白いジャケットを羽織ったイケメンが立っていた。



「HOPEsです。お怪我はありませんか?」


「え、あ、はい!」


「良かった……ここで待機していてください。わかりましたね?」



 ホルスと教師が話しているうちに、壁に開いた穴から大男がゆっくりと歩いてくる。



「グウ“ル“ゥアアアアァア“ア“」


 大男がそう叫び終わる前にホルスは大男を校庭へと蹴り飛ばし、すぐに後を追い飛び出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あいつらが来ないって……どういう意味だ!」


「そのままの意味さ。奴らが応援に来る事は無い。春人(はるひと)とアフロディーテが待機中でスサノヲとホルスは任務に出ていただろう?」



「ーー!? ッ何で知ってやがる!?」



「簡単な話だ。俺の部下に大きな事件を各地で起こさせる。そうすれば貴様らは小さな事件ではなくこちらに集中するだろう。そして来た隊員を連絡させる。最後に俺が動く。そうすれば現在位置と移動経路くらい簡単に割れる。

 現状、大半の神力犯罪者は貴様らを恐れて億劫になっている。大きな事件はそう起きない。だから簡単に釣れた。後は適材適所にこちらの勢力を振り分ければ、こちらに有利な1対1の構図を作り上げられるという訳だ」




「…………随分と手が込んでるな」



「あぁ。俺は貴様らを軽視していない。それなりの脅威だ。だが冷静に対処すれば簡単に退けられる脅威だとも認識しているがね。まぁ、あのような卑怯な手を何度も使われると面倒だが」




「……さっきから卑怯卑怯うるせぇな。お前はヒーローを何だと思ってんだ?」


「? 大衆的な意見とおおよそ変わらないと思うが。正義に則り悪を討つ。それがヒーローだろう?」



「まぁ間違ってはいないだろうな。そもそも正解なんてねーし。でもな、俺のヒーローはそうじゃない」



「……では貴様にとってのヒーローとは何だ?」




 アレスは少し俯きながら口を開いた。



「……前までは、ヒーローってのは悪から人を守り、助ける正義の味方だと思ってた。でも違った。世界には【悪】と【正義】なんてそんなくっきりした境界なんて無かった。

 正義も悪も入り乱れるこの世界で、悪をただ討って、正義を助ける事が正義だなんて言えない。つかそもそも純度100%の正義なんか無い」




 アレスは顔を上げ、ゼウスの目をまっすぐと見る。




「だから俺は、とにかく人を助ける。とにかく全員だ」



「……ほぅ……その理屈なら、貴様は悪も殴れないように思うが?」


「悪事を働く人間を救う方法なんか一つだ。悪事を辞めさせる。その為だったら俺はこの拳を振るう」



「つまり文字通り『全員助ける』と?」



「それが、今の俺のなりたいモン(ヒーロー)だ」




「ふふ……ハッハッハッ! 面白い。ならば俺も救ってみろ。俺の悪は濃いぞ」


「やってやるよ。お前も全部ひっくるめて救ってやる」


「楽しみだな。だが残念、既に積みだ。あと1時間もすればHOPEsは貴様1人だけになる。そうなれば後は数で蹂躙するだけだ」



 アレスはニヤリと笑う。



「さっきお前、ウチを軽視してないって言ってたよな。でもよ、今の認識じゃ甘いぜ。あいつらは強い。お前の作戦聞いて安心したよ俺は。1対1だったら間違い無くあいつらが勝つね。

 それより俺も腹割ったんだからさ、聞かせろよ。さっきみたいな嘘じゃない、お前の本当の目的」


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