第31話 力の制限
-特訓2日目-
「ハハハ! また会えたなガk」
「だからガキじゃねぇって言ってんだろ!!!
……あーまたやっちゃった……ごめん佐竹さん」
昨日は数時間特訓をしたが佐竹さんが制御に成功する事は無かった。今日も2時間しているが一向に成功の兆しは見えない。
「……あ、おはようございます」
「痛くないですか? 佐竹さん」
「まぁ……多少は、でもこれ位なら平気です。アレスさんは大丈夫ですか?」
「流石に10%なんで。にしても中々難しいですね〜。
俺も苦労したんで気持ち分かりますよ。昨日も言いましたけど【神力】はイメージが大切なんです。なんかこう、手綱を握るイメージとか……」
「手綱……ですか……少しやってみます」
一休みした後、佐竹さんはセトを発動する。
「……また会ったな、アレス」
「俺はもう会いたくねぇよ。もう帰れよ」
「……」
「なぁお前今10%なんだろ? どうせ俺には勝てないからさ、自主的に帰ってくれない?」
「……我が何度も負ける訳無かろうッ!」
ダメ元だったがやっぱダメか。俺はセトとまた殴り合う。こいつ普通に強いんだよなぁ……だから加減が出来ない訳だし。てか俺もまだまだ弱いしな。
「でもさ、流石に10%だぜ? 負けねぇって」
「うッ……」
今度は腹に拳がクリーンヒットする。セトは意識を失った。というかセトの事より、佐竹さんをボコスカ殴るのが心苦しい。まぁまぁ痣も見えてきた。
「…………あ、おはようございます」
「おはようございます。そろそろお昼にしましょう。俺なんか買ってきますよ? ハンバーガーとか」
「私行こっか? 丁度スーパー行くとこだし」
アフロが窓から顔を出す。
「あぁ、じゃ頼む」
「ほいほーい」
「………………ん〜…………」
佐竹さん自身非常に頑張ってくれているのだが、一向に成功の兆しは見えない。
(足りないのは……やっぱりイメージか)
「あの……アレスさん」
「あっはい! どうしました?」
「僕は、セトは強いですか?」
「……まぁ、はい。かなり強いです」
「じゃあやっぱり報酬をお支払いします! こんな危険な事をわざわざお時間頂いてしてもらってるんですから! タダなんて……」
「佐竹さん!」
「!」
「この話何回目ですか! 俺達はお金なんてとりませんし、好きで危険な事やってるんです。佐竹さんが気にする必要なんてありません。それにこう言っちゃ悪いですけど俺の特訓にもなってるんです」
「アレスさん……ありがとうございます!」
「ちょ佐竹さん! 頭上げてください!」
(とは言っても、このままじゃ何時まで経っても終わらない。一応他の仕事もあるんだ。なるべく速く終わらせなきゃな……でも俺教えるの苦手だし才能無いしなぁ………………あ)
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昼食を終えた俺達は再び中庭に集まる。だが今度は2人きりでは無い。
「紹介します! こちら臨時講師のシシガミ先生です!」
「シシガミです。佐竹さん、話は聞きました。私からは【神力】のコントロールについて可能な限りお教えします」
「よろしくお願いします」
シシガミの出す木製の動物達は見事なものだ。【神力】のコントロールについてはHOPEsでは一番だろう。それに教えるのもうまそうだし今回の件にうってつけだ。
(ていうかハデスさん、何でこの仕事を俺に振り分けてきたんだ? 俺は神力のコントロールとかダントツで下手くそだけど……)
「アレス? 聞いていたか?」
「ん? あ〜、今朝のお天気コーナーの話だろ?」
「……いいか? ハデスさんから頼まれてな、【神力】のコントロールについて、お前にも教える事になった。まぁどちらかと言うと共有だがな」
「俺にも?」
「今まで忙しくてこういう機会も無かったしな」
(ますます分からなくなってきた……何で俺が選ばれたんだよ……)
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とあるアパートの一室。1人の女がインターフォンを押す。
「ゼウス。僕だよ」
少しするとドアが開き、中から老婆が現れた。女は老婆と共に部屋の中へと入っていく。ソファでは老人の死体が横たわっている。
女は気にせず老婆に着いていくと、老婆はキッチンの前で立ち止まった。キッチンでは高身な別の老人がタバコを吸っていた。女は老人に話しかける。
「ゼウス、これどうしたの?」
「……来たか、どうだった?」
「ガン無視って…………うん、使えそうかな。でもアレスくん結構強くなってるかも。少なくともゼウスが見た時よりもね」
「そうか……分かった。俺からも一つ、モグラが行方不明だ」
「マジ? アイツ死んだの?……まぁいっか。僕アイツ嫌いだったんだよね。エロい目でジロジロ見てきてさ」
「その辺にしておけ。それに、まだ死んだとは限らん」
「でも死んでた方が都合良くない?」
「……それもそうだな。今日話したかったのはこの位だ。次に会うまで死ぬなよ、ガイア」
「あんたもね。ってあんたは死なないか」
女はアパートを後にした。
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「まずは部分的な【神力】の発動から始めてみましょう。例えば」
シシガミがそう言うと地面から木の猫が二匹這い出てくる。一方は本物の様に歩き回り、もう一方は微動だにしない。
「この猫は私のイメージを元に〔猫の動きをしろ〕という命令を与え、完全に自動で動いています。一方こちらの猫は」
シシガミの手に合わせて静止していた猫が動き出す。
「私が意識している間のみ動きます。要は手動ですね。今回佐竹さんとアレスには手動の方、つまり制限した神力の使用についてを教えます」
「あーそういう……」
「あ、あのシシガミさん」
「どうしました?」
「僕、既に【神力】の制限は出来ているんです。でも制限範囲の下限でも意識が乗っ取られてしまうんです」
「知ってます。だからさらに制限をかけます。発動範囲です」
「範囲?」
(なんか難しくなってきたか?)
「アレスもしっかり聞け。【神力】を発動させる範囲に制限をかけるんだ。こんなふうに」
シシガミが手を叩くと先ほどの完全に自動で動いていた猫の背中から羽が生えてくる。羽が伸び切ると猫は静止し、羽だけが羽ばたき出した。
「今この猫の体は手動だが羽は自動だ。これが神力を発動する範囲を制限するという事。2人にはこれをやってもらう」
「どうやって?」
「それを教える。とはいえ感覚だけどな」
そして
その2時間後、俺と佐竹さんは中庭の中心で坐禅を組んでいた。
「……なぁ、別に坐禅じゃなくたって」パシィィィィン
「集中しろアレス」
とても痛かったので目と口を固く閉じる。
シシガミが言うには範囲を制限すればそれだけコントロールはしやすくなり、範囲を制限する為には強い集中力が必要であり、その為には座禅が1番。とのことだった。
(流石は元お坊さんって感じだな。てか仮に俺が発動範囲を制限できたとしてどうなるんだ? 力を制御するメリットは薄いし、赤いビリビリも制御でどうこう出来るもんじゃ無いと思うんだが……)
赤い電流が流れた事は今まで2度ある。1度目は坂東と戦った時、2度目はサタンと戦った時だ。
共通点は……ある程度ダメージを負って追い詰められていた時、位だろうか。意図的に出す事はまだ出来ないし出し方も分からない。
(それにアレ使うと次の日腕が痛くなるんだよな。マジで謎だらけだ。モノホンアレスはこういう大事な所は話さないからなぁ……本当あいつバカだよなぁ……)
「何か言ったか?」
(マズっ!……口に出てたか……)
「そうではない、目を開けろ」
(ん? この声シシガミじゃない。それに今心を……? ちょっと待てこの声……)
「モノホンアレスか!?」
目を開けると、最近見慣れてきた鎧が立っていた。
「その呼び方は辞めろと言っただろう。まぁ良いが。ひと月振りだな。お前が随分と悩んでいたようだから許可を得て会いに来たぞ」
(そんなカジュアルに来れるのかよ……)
「言っておくがそれなりに大変だったからな」
「……毎回毎回その心読む奴やめない? 恥ずかしいしちょっとズルいぜ」
「私だって読みたくて読んでいるのでは無い。優斗の考えている事が手に取るように分かってしまうのだ。例えば今貴様が考えている那由多の」
「ごめんごめん! 悪かったって!……それより! 俺が悩んでたから何かを教える為に来てくれたんだろ?」
「……全く、貴様は本当に失礼な奴だな。私達に対して惚気だけには留まらずそのような口の聞き方をするとは」
「ホントに悪いと思ってるよ。わざわざ来てくれたのに那由多の事考えたり、バカ扱いした事は。心読めば分かるだろ?」
アレスは頷き、話し出す。
「まぁ許してやる、反省しているようだしな。それでは本題に入ろう。私は今回、【神力】とあの赤い電流について話に来たのだ」




