第30話 依頼
ポセイドンさんがいなくなってから1ヶ月が経ち、俺達の日常はゆっくりと元に戻っていった。
変わった事と言えば、仏壇にお参りする日課が出来た事位だろうか。
いや、ハデスさんがタバコを吸うようにもなったな。というより禁煙を辞めたらしい。吸う時はちゃんと俺達の居ない所で吸ってくれる。
意外だった。タバコなんて吸わないタイプだと思ってたから。
あれから俺達はテレビに出たり何だり色々な事をしたが、思ったより世間からの風当たりは良かった。勿論、否定的意見が一つも無かった訳では無い。だが目に見えて肯定的意見の方が多かった。
ハデスさん曰く、「ポセイドンが命をかけ市民を守った事が大きいだろう。」との事だ。
まぁなんというか、少し複雑だけどポセイドンさんの活躍が沢山の人に知られるのは嬉しかった。
けどそれと同時に、俺は自分の感情に気づいてしまった。俺は怒っている。自分自身に。
何故俺はもっとトレーニングしなかった?もっと【神力】を使いこなせていれば、俺がもっと速ければ、ホルスを一人で速く現場に向かわせる事が出来た。そうなればポセイドンさんはきっと死ななかった。
こんなタラレバ考えるだけ時間の無駄で意味が無いものだと理解している。それでも辞めることは出来なかった。
それはホルスも同じだったらしい。ホルスと俺は特に示し合わせた訳でも無いが、2週間程前から毎朝鍛錬として実戦形式でトレーニングをしている。
ホルスも俺も、皆もポセイドンさんを引きずっていた。でも、今はそんなもので良いのだと思う。人間だしね。
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「依頼? 民間からですか?」
「あぁ、今回はレアケースでな。受ける事にした」
今朝もトレーニングをして正直眠いが、ハデスさんから振られた仕事はしっかりやらなきゃ。
「今回の依頼主は神力者だ。政府に相談するのは心配なので私達の所に来たらしい」
「なるほど、それでどんな依頼ですか?」
「……特訓をつけて欲しい、との事だ」
「と、特訓……? 大丈夫ですか? その人ゼウスの部下だったりしません?」
「いや、その点は問題無い。信頼出来る筋から彼が神力者になったのは一週間前だと聞いている」
「はぁ…………んで、特訓ってなんですか?」
「まぁまぁ、そこは本人に聞いた方が速いだろう。タクシーを手配した。ほら、依頼人の住所だ。今から1時間後に行くと伝えてある。準備してきな」
「はい」
俺は買い替えたウィンブレ(と言っても前のと同じ奴だけど)を羽織って出発した。
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「ここか……」
辿り着いた場所は普通のアパートだった。階段を上がり俺はインターフォンを押す。
『はーい』
「こんにちは、HOPEsです」
『あ、少々お待ち下さい』
中から足音が近づいて来てすぐに扉が開く。
「お越しいただき本当にありがとう御座います。中へどうぞ」
出てきたのは多分年上?の若い男の人だった。俺は導かれるままに中へと入り椅子に腰掛ける。外から見たら小さかったが入ってみると案外広い。この机もそれなりに大きく、椅子も4つ付きだ。
「よろしくお願いします。HOPEsのアレスです」
「よろしくお願いします。佐竹闘士と申します」
今回の依頼人は佐竹さんというらしい。
「ご家族とかっているんですか?」
「えぇ、妻と2歳の息子が。今は外出しています」
「へぇ~若そうなのに意外ですね。それで、今回の依頼内容を詳しく聞かせてほしいんですけど良いですか?」
「……はい」
それから佐竹さんは自らの得た【神力】について語りだした。
「僕が得た【神力】は『セト』です。セトは戦争の神で、発動すると僕は高い戦闘能力を得ます」
(…………?)
「……はぁ。それなら特訓なんてしなくてもいいんじゃないですか?」
「"強いだけ"なら良かったんです。けどセトはそれだけではありませんでした。僕がセトの力を発動したらセトに体を乗っ取られるんです。少し経てば取り返せますが……」
体を? そんな【神力】があるのか?
「セトは殺戮を好みます。私が初めてセトに体を乗っ取られた時はペットの犬を殺してしまいました」
「!」
「次に乗っ取られた時は会社で数秒でしたが、後一瞬あれば人を殺していたと思います」
「……なるほど。それで特訓というのは?」
「はい、実は最近無意識に【神力】を発動させようとしていた事が何度か有って、恐らくセトが発動させようとしているんだと思います。だから僕に【神力】の制御の特訓をつけて欲しいんです」
「なるほどなるほど……」
(………………え、なんで俺? コントロールならシシガミとかアフロに頼むべきじゃない? ダントツで才能無いよ俺?)
「あの〜……」
「あぁ、はい! すいません、少し考え事を」
「はぁ……それで、受けて下さいますか?」
「えっと……」
「……すいません。やはりこんな依頼受けたくありませんよね。危険な上に報酬もまともに出せない依頼なんて」
「あ、いや! そういう事じゃ……あれ、というか報酬? なんてあるんですか?」
「え? まぁ……とは言っても本当に少ない額ですが。
……実は僕、父から受け継いだ借金がありまして。少しずつ返しているのですが、そのせいで家族にも贅沢させてやれないんです。HOPEs様にもまともにお支払い出来ずに申し訳無いです」
「いや! 全然大丈夫ですよ、無給で」
「え?」
「いや、だから大丈夫です。報酬要らないので」
「いや、でも……危険が伴いますし……」
「まぁ、俺一応鍛えてるので。それに俺達は好きで人助けしてるんです。借金ある人から金巻き上げたりしませんよ」
「そんな……」
「事情は分かりました。今佐竹さんは大変困っているんですよね」
「えぇ……まぁ」
ならば悩む必要も無い。
「そういう事ならこの依頼、HOPEsのアレスが引き受けます!!」
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俺達はHOPEsアジトの中庭で特訓を始める。
「それじゃあ始めます。少しずつ発動って出来ます?」
「はい」
「それじゃあまずは最低出力で」
「分かりました。……10%くらいで行きます。万が一の時は気をつけて下さい」
佐竹さんが深呼吸をしてセトを発動する。
すると佐竹さんの目の色が変わった。物理的にだ。
「佐竹さーん! 意識はありますか?」
「……えぇ。あるさ!!!」
佐竹さん、いやセトが俺に殴りかかって来た。俺はそれを腕で受ける。
(いきなりかよ!……ってか、こいつ……)
セトの拳を受けた腕が軽く痺れていた。
「お前結構強くね!?」
「当たり前だッ!!」
セトの猛攻は止まらない。
「なぁセト!……一旦お茶でも飲まないか!」
「あ? 舐めてんのか!」
「よっと、これまともに当たったら効くぜ。本当に10%か?」
「チッ!」
「! やべっ」
セトは俺の足を取ると振り回してぶん投げた。そして宙に浮く俺目掛け飛んでくる。
「ウハハハ! 死ねガキ!」
(…………イラっ……)
「……最近お前らガキガキガキガキ言いやがってよぉ! 俺がそんなにガキっぽいかぁ!?!?」
俺の放った拳がセトの顎にクリーンヒットする。
セトは意識を失った。
「ヤベッ、つい……」
気絶した佐竹さんの目の色は元に戻っていた。
「………………あ、あれ? これは……?」
「あ、佐竹さん! 良かったぁ……もしかしたらやっちまったのかと思いましたよ……」
「おぉ……お強いんですね。これなら安心して任せられますね……僕、頑張ります!」
「え? あ、いや……10%だったからと言うか…………」
「よろしくお願いします! アレスさん」
「…………はい」
真っ直ぐな目を見たら断る事等出来なかった。10日後、俺は生きてるのだろうか。
HOPEsメンバー冬服紹介
【ハデス】
茶色い甚平の上から茶色いロングコートを羽織っている。
【アフロディーテ】
白いワンピースの上から桃色のジャンパーを羽織り、下にはタイツを履いている。
【シシガミ】
冬は日によって袈裟から暖かい格好に着替えたりしている。
【ホルス】
普段の白ジャケットやジーパンはそのままにマフラーや手袋等で暖をとっている。
【スサノヲ】
春夏秋冬道着。
【アレス】
春夏秋冬ウィンドブレイカー。




