表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HOPEs  作者: 赤猿
29/100

第29話 気遣い

「それじゃ、時間までゆっくりしてて」



 そう言い残しハデスさんは部屋を出る。あれから数日、今日はポセイドンさんの葬式だ。




 目立つ場所でHOPEsとして大きく戦闘をしたのは今回が初だった為、反響が凄まじかった。毎日記者からのメール、電話は止まず処理が大変で。ただ丸々一週間活動を休止していたのが影響してか、今朝来たメールはたったの6件だった。



 休止の理由は単純にポセイドンさんの死を受け入れる時間が欲しかったからだ。

 正直、死んだなんて実感が湧かなかった。でも遺影を見たらなんだか急に実感が湧いてきて、泣いてしまった。


 いつもは各々ラフな服をきているHOPEsも、今日は喪服で揃っている。


 葬式が始まるまでの時間、俺やホルス、アフロを始めとするハデスさん以外の皆でお茶を飲みながら話していた。



「アレス、那由多ちゃん来るのか?」


「あぁ、学校休むってよ」


「そうか」



「……後1時間でお葬式、始まるんだね」



 スサノヲは鏡を眺めながら話し出す。

「……なんだか実感が湧いてきた」



「僕もだ」


「俺も……この一週間、フラ〜っと帰ってこないかなって、ずっと思ってた」


「あはは、私も」



「……」




 沈黙が流れる。別に気まずい訳では無いし無理に話そうとも思わない。そんな沈黙をシシガミが破った。



「……! すまない、線香を忘れてしまった。取りに戻る」


「いや、それぐらいやるよ。余分に持ってきてるし」


「少し高い物を買ったんだ。良い物をあげたくてな」



 そう言ってシシガミは線香を取りにアジトまで戻っていく。とは言ってもアジトとここは歩いて30分程の近所だ。神力者ならばすぐだろう。



「……なぁ、そういえばさ。ポセイドンさんの夢の王国のお土産やばくなかったか?」


「アレは凄かったな」


「あ! あれさー、私入ったばっかだったから『ツッコミ待ちなのかな?』って思っちゃった」



 それから葬儀が始まるまでは、まるで一瞬だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 


「お前、誰だ?」



 線香を取りに帰ると嘘をつき、全速力でアジトに帰ってきた私は見覚えのないスーツ姿の男と遭遇していた。



(恐らくアジトを見張らせていた木製動物を破壊したのはこいつだろう。しかし配置していた15体の内破壊されたのは3体…………残りの12体には見つかっていないのか? となると一体どこから……?)




「おぉ、これはこれはシシガミさん。今日は葬儀と聞いたので留守かと思いました」



(!?……どこからその情報を……いや、アジトの場所を知っているとなると恐らくゼウス関連か……?)




「一人でくるとは、随分と慢心されていますね?」


「お前が言った通り、今日は家族の葬儀だ。皆にはそちらに集中してもらいたい」


「ヒュー、カッコいい」



「それで、何の用だ?」


「いや〜まぁ端的に言えば嫌がらせですよ」




「……何が目的だ?」


「? だから『嫌がらせ』ですって」


「それだけか?」



「えぇ。この家を破壊してついでに葬儀場も潰してやろうかと。でもまぁ、こうして会えたのなら倒させて頂ーー(!?……何が起きた!? 体が動かない! 目も見えない!)」




-シシガミは地面から生やしたツタで男の全身を締めつけた。動けない程度に、殺さない程度に。-




「……私一人で来て正解だったな。こんな日に貴様のような外道を皆に見せずに済む。時間が無いのでな、後で拾いに来る。それまでそいつに遊んで貰え。締めるのは加減が難しいのでな」



(そいつ……?………………!?!?)




-男の視界が開けるとそこには、巨大な木製の虎が男を睨みつけていた。-




「貴様の腕や体には不自然に土が付着している。さしずめ、モグラの神力者と言った所か?

 だがモグラの穴を掘る速度は非常に遅い。その目の下を見るに、それは神力者も同じようだ。

 どうりで木製動物達に見つからずここに入り込めた訳だ。だがモグラの戦闘能力など、たかが知れている。先程の余裕はブラフか?

…………そいつには殺すな、逃がすな、この2つの命令をしている。それ以外は特に命令していない。

 それじゃあ、精々頑張るんだな」



「お、おい! 待て! こいつを…………うわぁぁぁぁッ!!」



 後ろから大きな音が聞こえたが、特に気にする事でも無いので私はその場を後にする。腕時計がズレていなければ後30分程で葬儀が始まる。時間はあるな。皆の軽食でも買って行こう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おっ、シシガミー! 後5分だぞ」


「すまない。少し寄り道をしていてな、すぐ準備して行くよ」



 良かった。シシガミも間に合った。しかし、こう見るとポセイドンさん、結構知り合いいたんだな。一切知らないおばあちゃんおじいちゃんが計20人くらいはいるだろうか?

 背の低いおじいちゃんや、いかにも優しそうなおばあちゃん、それに若い人もちらほら。




「大体はポセイドンに世話になった人達だ」



「……ハデスさん」


「ポセイドンはHOPEsになる前、弁護士をしていたんだ。有名では無かったが多くの人を救っていた。それに奴はその収益の一部を貧乏な人を分け与えていた。

 バブルが弾けた後なんかは自分の年収を超える額を1月で出した事もあったな。……一体何人救けたんだろうな。全く、自慢の弟だよ」



 俺は初めてポセイドンさんの過去を知った。やっぱりあの人は凄い。知れば知るほど、失ったのが辛い。あの人は、生きるべき人だった。



 そう感じていると葬式が始まる。人生で3回目の葬式だったが初めて、お経を唱えている時間が短いと感じた。なんというか、式自体はあっという間だった。




「皆さん、本日はお忙しい中、弟夏雄の葬式にお越しいただきありがとう御座います。関係者の皆様に付きましては……」







 式が終わり俺達は会場に持ち込んだ物を車に積んでいく。遺影は見るのはまだ辛いから布で隠して載せる。


 いつか、ポセイドンさんの事を忘れてしまうのだろうか。今はそれだけがとにかく怖い。

 きっと顔に出てたのだろう。ハデスさんが俺に話しかける。



「大丈夫。きっと忘れないさ。私達は血こそ繋がっていないが家族だ。だから大丈夫。不安なら時々皆で話をしよう。な?」



「……はい」

 

 

 何故だか俺は、涙を零していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ……結局結婚しなかったのね」


-喪服に身を包んだ老女が自分以外誰もいない電車のホームで呟く。-



「全くもう……目に見えて引きずってたからあんな芝居までうったのに……まだ引きずってたのね……」



-老女は一枚の写真を取り出す。-



「本当に、不器用ね。…………まぁ、私も同じね。貴方が結婚しなかったと聞いたとき…………嬉しかったの……」



-老女は写真をカバンにしまう。-



「ずっと貴方が……忘れられなかった…………夏雄君」




-老女は優しく、幸せそうに微笑んだ。-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ポセイドンが振った女性、ちゃんとポセイドンを覚えていたのですね…よかったです…彼女が犯罪組織に巻き込まれていなければ、とは思いますが、その心配もなさそうですね…本当、ポセイドン、いい人だった…
2023/05/09 20:30 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ