第24話 漢の本気
「…………んにゃ……………フッ……」
「アレス! 起きろ!」
「……ヘヘッ…………」
「朝食の時間だ!」
「飯!!!」
「……バカが…………」
(あー良く寝た…………ん? 寝起き早々なんでこの鳥は怒ってんだ?)
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俺とホルスは朝食会場に向かいながら話す。
「え!? じゃあアレ夢じゃないの!?」
「あぁ。恐らく全ての神力者が対話を行ったんだと思う。少なくともHOPEs隊員はみんなだ。聞いた内容も同じ、【神力】の可能性についての話だ」
なんだ。完全に夢かと思ったわ。それじゃあ、あの惚気話だけの2時間もちゃんと実在したのか……
「それと、帰ったら会議だってよ」
「えー会議ー? それより訓練した方が良さそうじゃね? だってゼウスとかも皆教えられた訳でしょ? じゃあ危なくね?」
「まぁな。ただ感情が大きく関連してる以上そいつの意思のみで真神力者になるのは厳しい。って事らしい」
「へー。ま、そんなもんか……お、今日洋食か」
「和食が良かった」
(文句言うなよ……まぁ和食だったら俺が文句言うけど)
「おぉアレス、ホルスおはよう」
「よっ。スサノヲ腹大丈夫なの?」
昨晩の宴会の途中、シシガミと一緒に腹を擦りながら帰っていったので心配だったが……大丈夫そうだな。
ちなみに昨晩は『下しノヲ』と馬鹿にしていた。
「あぁ。だが昨日は中々に酷かった」
「なんか当たった?」
「当たるような物は食べてないと思うんだが……う、なんか……また…………悪い、俺が戻ってこなかったら食べといてくれ」
「おう。ヤバかったらメールしてな」
「あぁ……」
下しノヲは腹を擦りながらトイレへ向かっていった。
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「ふぅ……」
(……何か食べたか?…………ジンギスカンが少し生焼けだった……?)
スサノヲは用を済ませトイレから出ると、薬を買う為に薬局へと向かう山道を下りだす。
(楽しかったな……アレスはリフレッシュ出来ていたし、皆との仲も更に深まったように感じる。
……きっとこれからはもっと厳しい戦いになる。最悪も想定しなければ…………ん?)
スサノヲから見て右側の低木が不自然に揺れる。風は無い。
「……」
「ん? スサノヲ君だけじゃん、なーんだ」
「っ!」
スサノヲの耳に何処からか女の声が聞こえる。周囲に人影は無い。
「何処にいる? お前は誰だ?」
「まぁまぁ、そう怒んないでよ。僕はただお使いで来ただけ。ちょっと落ち着いてよ。
……んーそうだな、スサノヲ君だけでもいっか」
女がそう言うと周囲の木々がスサノヲ目掛け高速でのびる。
(シシガミの力!?)
スサノヲは跳躍し回避するも今度は地面が伸び、打ち上げられて軽く吹き飛ばされる。スサノヲはすぐに起き上がるが迫り来る木々を斬り捌くのに精一杯だった。
(何が起きてる……!? こいつの【神力】は何だ? 坂東の力じゃ操作量には限界があると聞いた。シシガミは地面を操る事は出来ない。こいつは一体何なんだ? というか、流石にマズい。一旦応援を……)
「はは、困惑してるね。気が向いたら全部教えてあげるよ。てゆーかスサノヲ君は結構強いって聞いたんだけど、そんな事ないんだね」
「あ?」
「いやいやだってさ? 僕まだ本気の半分も出してないよ? それなのにこれって……ま、いいや。じゃあね」
女がそう言うと周囲の木々や地面が先程よりもずっと速く鋭く伸びる。
「はぁ、結構楽しみにしてたのにな」
「……お前」
その言葉の後、スサノヲ目掛け伸びていた木の槍は次々に両断されていった。
「舐めるのも大概にしろ」
「ーー!……へぇ、やるじゃん。でもこれはどうするの?」
女の声と同時に攻撃が止んだ直後、横一列に隙間無く並んだ大きな木の壁が左右からスサノヲに押し寄せる。
(……成る程、このままじゃ挟まれてミンチだな。上に回避してもその後の追撃に対応しきれないだろう。かと言ってこの分厚さの木の壁を斬るのは難しい…………よし)
スサノヲは両手に持つ草薙の剣を横向きに並行に構える。
「何を……まるで一本の刀……まさか木の壁を斬るつもりなの? 分からない……なら!」
壁が一気に加速する。スサノヲはまだ動かない。
「ハハッ! 本当に斬ろうとしてる!
知らないの? 刀は木を斬ることに適していない。つまり君はすぐに逃げるべーー」
「大蛇斬りッ!」
一方の木の壁が上下で真っ二つに割れる
「っ!?」
スサノヲはその割れ目に飛び込み、森へと入った。
切断された木の壁はもう一方の壁と合わさり、1つの壁となって木々を巻き込みながらスサノヲに向かう。
「……スサノヲ君。君よく脳筋って言われるでしょ?」
「……? 脳は筋肉だ!」
スサノヲは振り返り2本の刀を縦に構える。
「大蛇斬り!!」
壁は再び左右に両断され、スサノヲはまっすぐ山道へと戻る。
そして道の真ん中に立つと、今度は両手と体を捻るような構えを取った。
「……次は何するつもり?」
「このままじゃ埒があかないんでな。大元を叩く。
乱蛇斬り!」
スサノヲは体を回しながら斬撃を四方八方に繰り出した。
「キャッ!」
一本の木の陰から女の声がする。
スサノヲはその木に一気に近づき刀を添える。
だが、木の裏には誰もいなかった。
「ふぅ……危ない。ごめんねスサノヲ君。君やっぱり強いわ、油断してた。怪我しちゃったから帰るね。またね」
その後スサノヲは暫く警戒していたが、また女の声が聞こえる事は無かった。
「…………お腹痛いな……」
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「ただいま〜」
俺達は無事に北海道から帰還し、那由多含め全員でアジトに帰って来た。
「ハデスさん、会議いつにします? 僕はもう良いですけど」
「……2時間後で」
(ナイスハデスさん。正直疲労がヤバい。荷解きも後でいいや……あー眠…………)
俺達は旅の疲れもあり皆揃って寝落ちしてしまった。
起きたのは実に4時間後。日の落ちた午後6時だった。
「……ん…………やべっ、俺また寝ちまっ……た? なんだ、皆寝てんじゃん。……那由多帰さないとな」
俺は那由多に近寄り小さな声で話しかける。
「那由多〜起きろ〜。ここはお前ん家じゃないぞ〜?」
「ん……?……何勇斗ぉ? 眠い……」
「那由多〜もう6時だぞ〜。起きろ〜」
「…………6時? あ~帰んなきゃか〜」
那由多はゆっくりと起き上がりスーツケースを引っ張ってくる。
「ふぁあ……それじゃ、またね。」
「いやいや、送ってくって流石に」
「え?……でも勇斗免許無いでしょ?」
「ほら、乗って」
俺は那由多に背中を向ける。
「……本気で言ってる?」
「? うん。」
「……はぁ、わかったよ。スーツケースは?」
「手に持つ」
「ありがと。……ん? なんかホルス君うなだれてない? 大丈夫?」
ホルスを見ると確かに苦しそうにしていた。近付くと何かを言っている。
「…………辞めて…………僕は……そんなの嫌だ…………やりたくない………………」
「ホルス? おい、ホルス!」
「ッ!…………夢か……」
「悪夢でも見てたか?」
「……あぁ。ちょっとな……もうこんな時間か。那由多ちゃん、送っていこうか?」
「いや! 俺が送る!」
「そ、そうか。気をつけろよ」
「おう! 任しとけ!」
そして俺は那由多をおぶり、まずまずの速度で走り出した。
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-とある山奥の小屋-
「ただいま」
女は椅子に腰掛ける男へと声をかけた。それに男は反応する。
「……何故手ぶらなんだ?」
「それがちょっと油断しちゃってね。ほら、怪我したんだよ僕」
女は服をめくり背中の傷を見せた。
「スサノヲか?」
「うん」
「俺は強いと忠告した筈だが」
「いやさ、最初は凄い弱っちかったんだよ。でも……」
「お前は舐めてるのか?」
「!」
女は臨戦態勢を取る。正面に座る男からの圧倒的な殺気を感じたからだ。冷や汗が流れ落ちる。
「…………まぁ許そう、時間が無い訳ではない。今度は油断するな」
「……分かった。次はミスらない」
女は振り返り小屋から出ていく。そして男はニヤリと笑い一人で呟く。
「…………楽しみだな……ハデス」
男に雷が降り注ぐ。男は姿を消した。




