第22話 汚泥
※本エピソードでは一部の方を不快にさせてしまうような描写がございます。苦手な方はエピソードをスキップしてご覧下さい。内容を要約したものを活動報告にて掲載しております。
「いたか?」
「いや、どこにも。ハデスさん達に連絡したほうがいいか?」
「さっきした」
アフロがいなくなってから1時間。かなり捜索範囲を広げたがアフロの姿は見当たらなかった。
「那由多、アフロの行動について何か心当たりとか無いか?」
「ううん……ここのベンチで待ってるって言ってたんだけどな……」
「おーい! 何があった!」
連絡を受け、近くにいたスサノヲとシシガミが駆けつけて来た。俺は2人に事情を説明する。
「少しマズそうだな……私の【神力】でやれるだけやってみよう」
そう言うとシシガミは、あの時のように地面から木の動物達を生やし、全方向へと放った。
「なぁシシガミ、それと視界共有出来るか?」
「残念だが不可能だ。だが暫くしたらここに帰って来るようにしてある。アフロがそれに着いて来たらラッキーってところだな。
それに、私はこいつが破壊された時その場所が分かる。出来ればこっちの力を使う事が無ければ良いんだが……」
「ま、迷子の線も捨て切れないからな……引き続き僕は空から捜索する。お前らは聞き込みをして欲しい」
「分かった。なんかわかり次第連絡する。シシガミ、スサノヲ。俺達は別れるぞ」
「あぁ」
「分かった」
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「……ん……ここは?…………っ!」
(私、確か……さっき後ろから…………そうだ那由多ちゃんは!? 那由多ちゃんが危ない!)
私はすぐに立ち上がろうとする。が、椅子に手足が固定されていた。コレなんだろう、セメント?
「お、起きたか」
横から声がする。声の主は鬼の仮面を付けた男だった。
「あんた誰!? ここはどこ!? 那由多ちゃんは!?」
「うるせぇ!!!」
「……」
「お前のお友達は我々が監禁している。殺されたく無ければ、お前は大人しくしていろ」
「……分かった。それであんた誰なの?」
「黙ってろ」
(……ここはどこなんだろう。多分……倉庫? 捕まったのは那由多ちゃんだけ? もし皆捕まってたら結構マズいな……
……とにかく、ここにいるって皆に気付いてもらわなきゃ!)
「…………ねぇ、ここって何処なんですか?」
「何度言わせんだ? 黙ってろって言ったよな」
「いや~でも……」
「うるせぇなクソ女! てめぇぶち殺すぞッ!」
(……情報は得られそうに無い。でも私を殺さない辺り無計画な犯罪とかでは無い筈……)
妙に冷静になってきた私は色々作戦を考えていた。その時、視界に一匹のネズミが写る。暗くてよく見えないがただのネズミじゃない。木製のネズミだ。
(あれは……シシガミの! アピールしなきゃ!)
「キャーー!」
「チッ……うるせぇぞ!!」
「ごめんなさい……でも、ネズミが…………」
「あぁ?……あぁ、そいつか」
そう言うと男は腕から大量の泥のような物をネズミに向けて放つ。泥に埋もれたネズミは動かなくなってしまった。
「ほら、これで死んだろ。わかったら黙ってろ」
(もしかしてとは思ってたけど……こいつ神力者!? じゃあ結構ヤバイじゃん! ヤバめの事件じゃん! ワンチャン拘束解ければとか思ってたけど…………)
「よし、時間だ」
男がそう言うと私の座る椅子が浮く。その時初めて、男の体から泥が椅子の足まで伸びている事に気が付いた。恐らく私を拘束しているセメントのような物もこの男の【神力】なのだろう。
男は倉庫の扉へと向かい歩き出す。
「ちょっと! どこ行くの?」
「……リーダーの所だ」
「リーダー?」
「これ以上言うつもりは無い…………ん?」
男の電話が鳴った。
「ハイ、もしもし。……ハイ……ハイ……分かりました。ハイ、失礼します」
男が電話を切ると、椅子は再び地面に着き男は荷物に腰掛ける。
(予定が狂ったのかな? リーダーの指示?…………というか……なんか男がジロジロ見てきてキモい……)
「……お前今高校生だったか?」
「え? はい。あ、いやもう辞めましたけど……」
「ふ~ん。学校辞めてまでヒーローごっこねぇ……予定変更で時間が出来た。暇なんだよ。だから脱げ」
「は?嫌です」
何言ってんのこのジジィ。
「殺すぞ。ほらさっさと脱げよ」
嫌だ気持ち悪い。マジでキモい。
「……嫌です」
「チッ、あぁもう面倒くせぇな。これだからガキは嫌いなんだ」
アフロを拘束していた泥が動き出し、アフロの服を脱がせ始める。
「ねぇ! ちょっと辞めて! ほんとにやだ!」
「うるせぇッ! 俺はガキの声が一番嫌いなんだよ! 黙ってろ!」
次々と服が脱がされ私が下着だけになると、男がこちらへ少しずつ近づいてくる。
必死にもがいても手足の拘束は外れない。
「良く見りゃいい体してんじゃねぇか」
男が舌舐めずりをする音が聞こえる。
(……あ、これもう駄目か)
男がズボンを脱ぐ。
(あ~あ。初めては好きな人が良かったなぁ。こんな事ならホルスとかにあげときゃ良かった……いや、あのバカ真面目はこういうの嫌か……あ~あ)
私はそっと目を閉じた。
「どれどれ……まずは胸かーー」
(…………?……何、今の音?)
「もう大丈夫だ。」
私はそっと目を開く。そこにはさっきまでのキモい親父の姿は無く、見慣れたイケメンが立っていた。
「ホルス…………」
「すまん。遅くなった。怪我は無いか? もしもし聞こえるか? 園内倉庫にてアフロを発見した。無事だ」
「……うん……てか遅いよ! 全くもう………………全く……ぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!! ごわがっだよぉぉぉぉぉ!!!」
「……すまん」
ホルスは私を抱きしめてくれた。
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私は泣き止んだ頃、ホルスに質問をする。
「何でここが分かったの?」
「あぁ、シシガミのお陰だ。放った動物たちの内、一匹だけ帰って来なくてな。そいつの行った方向の怪しい箇所をしらみ潰しにな」
「…………そっか」
ホルスは壁に寄りかかっている男を見る。
「こいつは神力者か?」
「うん。泥みたいな……」
「泥……?」
私達は恐る恐るジジィの仮面を取る。
「こいつは……あの時の泥を扱う神力者か?」
「ホルスこのクソジジィの事知ってんの?」
「あぁ。こいつは以前アレスと戦っていた神力者だ。まだHOPEsに入る前にな。警察が拘束した筈だったが……何故ここにいる?」
返事はない。クソキモカスジジィの意識は無いようだった。
「あ、そういえばこいつ誰かと待ち合わせしてたの。リーダーとか言ってたような……」
「リーダー? 組織的な犯罪か」
「多分だけどね」
ホルスが考え事をしている。横顔がかっこいい。
(…………ん? 私、今何て?)
「おーい!」
その時倉庫の外からアレスの声が聞こえた。
「アフロ! 大丈」
「アフロちゃん!!! 大丈夫!?」
「!……うぅ……那由多ぢゃーん!! 良かっだぁ~! 無事だっだぁ〜……」
私は那由多ちゃんに抱きついた。柔らかい。
「うわッ……よしよし……って! アフロちゃんそのカッコ……ほぼ裸じゃん! 勇斗! あっち向いてて!」
「あー……いや、言っても結構見てるんだよな……」
「え?…………2人って……そうなの…………?」
「あぁいや、違う! こいついつも風呂上がりバスタオル一枚でリビングで寝てんだよ! だから違う! ほんと!」
「……ホルス君。ほんと?」
「あぁ」
「………………ふぅ……ってダメだよアフロちゃん! そんなカッコでうろついたら!」
「ゔぅ〜〜〜なゆだぢゃ〜ん……よがっだぁ〜〜」
「聞いてないし…………はぁ……大丈夫かな……」
二人のやり取りを見たホルスがため息混じりに呟く。
「……まぁ、ほんとに無事でよかったな」
「あぁ、そうだな」
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アフロを見つけた俺達は泥野郎を拘束し政府へと輸送。アフロは一度ハデスさんと一緒に病院へ行く事になり、俺達はその間近くのファミレスで時間を潰す事にした。
俺は事が落ち着いたからか、一気に全身から力が抜ける。
「ふぅ、良かったな」
「あぁ。旅行中に誘拐なんて洒落にならない」
シシガミの言うとおりだ。
「……那由多ちゃぁ〜ん? 大丈夫かぁい?」
「え?」
「こぉんな事初めてだろぉう? この後は旅館に戻る予定だからゆぅくりしてなぁ」
「はい、ありがとうございます。でも、私は平気です」
「……まぁ、アフロがすぐに元気になるのは厳しいだろうしな。一度旅館に戻るべきだと俺も思う」
「ちょっと待った!!!」
突如大きな声がファミレスに響き渡る。俺達は驚き、声のした方を見ると机の前にはアフロが立っていた。
「今日を逃したらスキーするチャンス無いでしょ! 行くなら今! ほら行くよ!」
「アフロ、お前大丈夫なのか?」
こいつ……俺達に心配かけない為に……
「あったりまえよ! 私はあれしきでスキーを諦めるような女じゃ無いの! ほら、早く行くよ!」
「……なぁ、アフロ。僕はやはり一度旅館に……」
「行くよ!! さぁ、アフロちゃんのスーパースキースキル見せちゃるぞぉ!!! 一番下手な奴裸は踊りね! あ、那由多ちゃんは私のほっぺにチューして!」
ホルスが再びため息混じりに呟く。
「……ほんとに大丈夫そうだな、あいつ。一体何があったんだ?」
「あぁ……とりあえず行くか」
アフロは先陣を切って店を飛び出して行く。
(せっかく春が来たのに……休んでなんかいられないわよ!)
こうしてアフロ誘拐事件は幕を閉じた。




