第13話 嵐の如く
俺達はマッチョを完全に拘束した後に、皆で焚き火を囲む。辺りは完全に暗くなっていた。
火で暖を取りながらも俺はシシガミに、スサノヲとの関係や何故ここに来たかを説明したうえで質問を始める。
「なんでお前の友達はこうなったんだ?」
「分からん」
「……そうか、じゃあなんでこんな山に居るんだ?」
「居るも何も、私達は元々この寺で働いていた住職だ。とは言っても小さな寺。住職は私達2人で参拝者はゼロさ」
「あーお坊さんか! んじゃあさ、11日前に神力者になったって言ってたけどそんときの事詳しく教えてくれないか?」
「……私が【神力】を得たのは夢の中だった」
「夢?」
「あぁ。その時の夢はぼんやりとしか覚えていないが急に変な場所に来たと思えば、気づいた頃には目の前に立っていた麒麟の姿と、そいつの話だけは忘れてない」
「キリン?」
「あぁ、本物のシシガミだ」
「え? 鎧じゃなかったの?」
いくら思い出してもモノホンアレスは麒麟のようには見えなかった。
「俺のはヨボヨボのじじぃだった。それぞれの神によって姿が違うんじゃないか?」
もっともらしい仮説をスサノヲが立てる。
「話を聞く限りそうだろうな。その後、目が覚めた時には私は日の下に晒されていた。すぐに起き上がったが寺は木っ端微塵。少し歩くと森で暴れるこいつと出会った」
「よく友達だとわかったな」
「顔がそのまんまでな。すぐに正体は分かったが止め方が分からない。だからまずは倒す事にした。これが大まかな経緯だ」
「なるほど……じゃああの木の動物は? この山でお前が作ったらしい木が動画に写ってたぜ」
「何? 動画にか…………その動物達は私達の戦いに民間人を巻き込まないためのものだ。
体には『ここから離れろ』と刻んでおいてある。この山を自由に徘徊させているんだ。効果はわからんが戦闘中全く人を見なかった。恐らく効果はあったのだろう」
「なるほどなぁ……お前の【神力】強いな」
(操作系はかっこいいよなぁ〜。いいなぁ~)
なんて俺が思っていると、スサノヲが疑問を口にした。
「……なぁ1つ疑問なんだが、俺達はその動画に映り込んだ動物しか【神力】に直接繋がる事前情報は無かった。
なぜここまで話が広まっていないんだ? 一般人がそんな体験したら誰かに話したくなっても不思議では無いだろう」
「それはその人々の善意だ。まぁ催促はしたがな。先程のメッセージと共に『この事は内密に』という文字も刻んでいた。なんせ軍でも引っ張って来られるとこいつが処理されかねない。出来る事なら私だけで完結させたかった」
「…………お前、もしかしてテレビとか見ない? 神力者にはあらゆる凶器が効かないんだよ」
「……そうだったのか。まぁ助けるにしろ殺すにしろ、私の手が良かった。
……だが、アレス君とスサノヲ君には感謝している。恐らく私だけでこいつとあのままやり続けていれば、いつか限界が来ただろうからな」
つまりシシガミはこいつを助けるために一人で戦ってた訳だ。というかやはりこの赤マッチョ、この前の紫マッチョと瓜二つだな。
(でもあの紫マッチョは国が持ってちゃったからな。なーんも分かんねんだよなぁ……)
「……ほう。赤か」
その時、真上から声がする。
すぐに見上げるとそこには、焚き火の光で怪しげに照らされた和装の男が宙に浮いていた。
「やぁ、HOPEs諸君」
「「!」」
(こいつ一体何者だ? なんで俺達の名前を……)
よく見ると男は小さな雲のような物に乗っている。
「お前……何故俺達の名を知っている?」
「裏社会じゃ君達は有名人さ。そこの角の子は最近入った剣士。実力は高い。そしてそこのパーカーを羽織っている君は……弱い」
「……! ウィンブレだわボケェ!」
自分の事だと気付いた俺は目の前の男に飛びついた。一瞬で距離が縮まる。
俺は拳を硬く握り込んだ。
(ッ!?)
しかし、飛ばされたのは俺だった。
「うっ……クソっ!」
「おぉ、情報よりかは強いな。とっくに人間の域は超えている」
(こいつ、強い!……いや、大事なのはそこじゃない。髪が短くて気づかなかった。髭も剃ってる……)
「スサノヲ、シシガミッ! 気をつけろ……!」
見覚えしかないその顔と、似ても似つかない邪悪な表情。間違い無い。
「こいつ……ゼウスだ!」
「!」
「ゼウスの神力者か。強そうだな」
事情を知るスサノヲは事を理解したようだが、事情の知らないシシガミは単なる強敵と捉えたようだ。
(ここは戦闘すべきか……? それとも一時撤退すべきか?)
「あぁいや、君達と戦いに来たわけじゃない。そもそも神力者を潰すのは気乗りしないんだ。俺はただそこの赤色の子を回収しに来ただけ」
どうやら戦闘の意思はあちらには無いようだ。だが、
「それは私の友人だ。残念だが、貴方には託せない」
「そうか。残念だ」
そう言うとゼウスは腕を胸の前に構える。
「ッ! シシガーー」
俺の呼び声は雷にかき消される。
何とかシシガミを連れて回避する事に成功したが地面は抉れていた。
「……ま、そうだよな。そりゃあいつらに入れ知恵されてるよな」
「おい! 大丈夫か?」
スサノヲが駆け寄ってきた。が、今は話す気にならない。
「…………か?」
ゼウスには、俺の声が届いていないらしかった。
「え?……なぁスサノヲ君、彼はなんて言っているんだい? 震えて声も出ないようだが……俺に屈服の意でもーー」
「こんなもんをお前は子供に向けたのかッ!?」
俺は地面を蹴り、ゼウスに迫る。そして全力の右をゼウスの顔面目掛け打ち込む。
「ぐッ……!」
ゼウスはギリギリでガードの姿勢を取り、衝撃を緩和させたが乗っていた雲から落下した。
「二蛇斬り!」
すぐにスサノヲが繰り出した左右からの斬撃をかがんで避けるゼウスだったが、地面から生えたシシガミのツルに左腕を縛られる。
「おぉ、君も神力者か。新人かい?」
(やるなら今だ……こいつは逃がせば人を殺す……今しかねぇ!!)
「でもやはり、甘い」
ゼウスは右手で指を鳴らす。
次の瞬間、辺りは轟音と眩い光に包まれる。光が消えても砂埃で辺りがよく見えない。
ようやく視界が晴れてきた頃、全身に火傷を負ったスサノヲが倒れ込んでいる事に気が付いた。
「スサノヲ!!!」
「まだ死んでいないさ。でもね角の君は、危険因子だ」
ゼウスは再び指を鳴らす。
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(何が起きた? ゼウスの神力者が、余った右腕でスサノヲ君を今、雷で打とうとしていた。
だがスサノヲ君を突き飛ばして、雷の落ちる瞬間そこにはアレス君がいた…………はずだが……これは一体……?)
アレスはそこに無傷で立っていた。それだけではない。下の地面まで綺麗なままだ。
「てめぇ……人を殺すのになんの抵抗もねぇのか?」
ゼウスの顔に動揺が見える。しかしすぐに達観したような表情へと戻った。
「…………アレス、だったか。なるほどな……また来る、俺は忙しいからな。君達と遊ぶ時間は無いんだ。
でも今、決めた……次はお前を殺しにいく」
そう言い残すとゼウスは腕を上げ、自身の周囲に雷を落とす。
雷の衝撃で地面から砂埃が上がった。
「HOPEs……取るに足らんな」
砂埃が消えると、ゼウスと赤いマッチョの姿は無かった。
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ー病院ー
「良かったな、火傷だけで済んで」
「あぁ…………ありがとうアレス、助かった」
「いいよ、助けるのはヒーローの当然の役目だ」
「……なぁ、なんでアレス君は奴の雷が効かなかったんだ?」
「え?………………分かんね! テヘッ☆」
シシガミの顔が怒りに染まりつつある。早い所弁明した方が良さそうだ。
「ごめんごめん、ふざけてる訳じゃなくて本当に分からないんだ。
俺も初めて雷に打たれたし。まあ多分俺の【神力】の副効果なんだろうけど……」
「わからない? そんなはず無いだろ。分からないのにスサノヲ君を庇おうとするなんて自殺行為だ。何か仮説でもあったんじゃないか?」
(うぐ……たしかに自殺行為っちゃ自殺行為か……
『ほんとに何も考えて無かった♪』って言ったら死ぬ程説教させられそうだな…………よし。なんか仮説を立てよう! 仮説仮説……)
アレスが考えるポーズで必死に頭を回す。
その間にスサノヲはシシガミの近くまで移動し耳打ちする。
「……アレスはな、そういう奴なんだ。どんな形でも人を助けるためなら、どれだけ自分が傷つこうがお構いなしだ。俺も出会ったのは最近だがな」
シシガミの表情が驚きに満ちる。
「なら、アレス君は本当に無計画であの雷を受けようとしたのか?」
シシガミの問いにスサノヲが頷く。
(仮説仮説仮説仮説……ん? あの二人もう仲良くなったのか? すごいなスサノヲは。
というか誤魔化せた……?……それじゃあ、そろそろ切り出すか……)
「シシガミ、お前が悪い奴じゃ無いってのは分かった。それに強い。だから……」
「なぁ……2人に、頼みがあるんだ」
シシガミの顔が変わる。
「私を、HOPEsに入れてくれ」
シシガミは深く深く頭を下げた。
「……え? いや、頭上げろ!」
アレスの言葉の5秒後程にシシガミは顔を上げた。
「いいのか? 危険な仕事だぞ?」
「あぁ。私はあいつを取り戻さなくては行けない、それに……私も人を助けてみたいと思ったんだ。君みたいにな」
(っ! 俺みたいに…………か)
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翌朝、行きより一つ多く新幹線の席を取って俺達は帰路に着いた。
おまけ キャラプロフィール
柳沢賢治
【神力】シシガミ 樹木を生やし、操る。また動物状に形成すればオートで放浪させる事も可能。
身長171cm
31歳
好きな食べ物 鮭ならなんでも
英語と韓国語を話せる。白髪。
黒と白の袈裟を愛用している。
堀秋斗
【神力】ゼウス 雷を落とす。攻撃以外にも雷は転用可能。
身長183cm
81歳
好きな食べ物 食パン
昔???
服装にこだわりは無い。




