第12話 大怪獣バトル
朝の9時、俺とスサノヲはハデスさんに呼び出されていた。
「すまないね。ここ数日連続で任務を頼んでしまっていて」
「いえ全然大丈夫です。俺達もやりたくてやってる事なので」
「そう言ってもらえると助かる」
「それで今回は?」
スサノヲがそう聞くと、ハデスさんはとある動画を再生する。
「これを見てくれ」
動画には2人の男性が写っており、途中まで至って普通のハイキングのようだった。が、
「……っ! 今なんかいました!」
「そう。今回はこいつについて調べてきて欲しい」
ハデスさんは画面を拡大する。そこにはうさぎの形をした木、いや木で出来たうさぎが動いていた。
「……なぁ、これ調査するほどか? ただの無害な神獣のように見えるが」
「一見な。しかしここ数日の間で10人以上がこの山の麓で、記憶に問題がある状態で発見されているんだ。
被害者に目立った外傷はないが、この森に何かがあるのは間違いないだろう」
「なるほど……それで、この森はどこなんですか?」
「青森だ」
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「へー青森ってこんな感じなんだな。もーちょい寒いと思ってたけど」
「言っても9月の下旬だしな。東京よりは寒いがその程度だ」
俺達は駅からバスに乗り込む。
今回の任務は俺とスサノヲの二人で担当する。ホルスとアフロとポセイドンさんは不測の事態に備えてアジトで待機。
そしてハデスさんは壁総理との話し合いだそうだ。正直、そっちが心配で今は余裕は無い。
「なぁアレス、今回はどこまでやっていいんだ?」
「え? お前聞いてなかったの?……俺も聞いてねぇよ……どうすんだよ……」
(早速困った事になった……全部あのお天気コーナーが悪いんだ。お天気コーナーなのに視聴率25%ってなんだよ)
それからバスに揺られて2,3時間。俺達は例の山の麓までたどり着く。直接見ると紅葉がとても綺麗だ。
「こう見ると結構大きい山だな」
「スサノヲのとこの山の方がデカかったけどな。じゃ、入るか」
歩道を歩きながら山へと向かう道中、今回の任務の概要をメールでホルスに送ってもらう。
「あー神獣は倒しても良いって。ただ『まだ被害者が山にいる可能性はあるから派手な戦闘は控えろ』だってさ。探索のペース上げるか」
「いや、二手に別れよう。大体一時間後にあの山頂に集合で良いな?」
「了解!」
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「と別れたは良いけど……被害者どころか神獣すらいねぇな」
俺はビリビリを纏いながら森の中を駆け抜ける。
【神力】を得てから感覚が麻痺してるが、ものすごいスピードだ。俺でこれならホルスはどんな感覚なんだろうか。
「ひっ……!」
「ッ」
(今、誰かの声が!)
俺は声のした方へ茂みを掻き分けながら進む。
そこには若い女性が座り込み、こちらを見て怯えていた。
「きゃああああああっ!!!」
「待て!! 待って! 違う、俺別に悪い奴じゃ無いから!!! 敵じゃない味方!! な! 味方!!」
「……味方?」
俺は女性に事情を説明する。
最初は警戒心MAXだったが、70%位まで落ち着いたようだった。
「それで、おねーさんは何やってたんですか?」
「……昨晩……私達お酒の勢いでここに肝試ししにきたんです……そしたら遭難してしまって……私ミクって言います」
(ミク……被害者候補にあった行方不明者だ。遭難って事は神獣は関係ないのか?)
「ミクさんですね。『私たち』って事は他にも誰かいるんですか?」
「来た時は4人でした。でも、その…………思い出せないんですけど、逸れちゃって……」
(なるほど……こりゃ記憶消す系の神力か? だとしたら大分やばいな……)
「……わかりました。とりあえず安全な場所まで避難しましょう」
俺はミクさんをおんぶして再び森の中を駆ける。流石に先程よりは慎重に、ゆっくりと。
(そろそろ1時間か。スサノヲとの約束もあるが……一旦はこの人の避難が優先だな)
ゴゴゴゴゴ……
山の中腹まで差し掛かった頃、はっきりと聞こえる程の地響きが鳴る。
(それにいま少し揺れた? 走ってたから分かんねぇな……)
「今揺れましたかね?」
「たまに揺れるんです。遭難してからもそうでした」
ミクさん曰くここ1日で10回以上は揺れているらしい。地震の情報は資料には無かったし、やはりこの山でなにか起きてると考えた方が良いのだろうか。
そんな事を考えている内に山の麓に辿り着いた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「ここまででいいんですか?」
「はい。私、隣町に住んでいるので。交番あたりに行こうと思います」
「……こんな事あったのに平気なんすね」
「え、いやまぁ自分でもビックリですけど意外と平気と言いますか……」
まぁ、案外そんなモノなんだろう。今は安心が勝っているんだろうし。
「それじゃあ、お気をつけて」
「本当にありがとうございました。あ、私の友達と会ったら私は無事だと伝えくれませんか」
「わかりました。しっかり伝えときます」
俺がそう言うとミクさんはペコリとお辞儀をして一人で歩き出した。
「さて……あ! もうとっくに1時間過ぎてるじゃねぇか!」
スマホをポケットにしまい込み、俺は急いで走り出す。
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「あれ? もう一時間経ってるよな……あいつ迷子か?」
集合場所に来たがスサノヲの姿は見えない。空もうっすらオレンジ色に染まってきた。
スサノヲの加入から2ヶ月程が経過して分かった事だが、あいつはポンコツだ。本当に塩と砂糖を間違えるような奴だ。
(まぁでも他の遭難者もいるみたいだし、もしかしたらスサノヲも救助活動中かもな……)
ゴゴゴゴゴ……
「また地鳴り? 流石になんかおかしいよな……やっぱ【神力】関係か?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
そんな事を考えていると一際大きい地鳴りがなる。
俺は左右を見渡した。すると山の中腹に何か動くものが見える。
「なんだあれ……?」
そこには小さな平原でうねる、巨大な木の根のような物が見えた。その根はうねりながら大きな土埃をたて、周りの木をどんどんとなぎ倒していく。
俺はすぐにそこへと向かい走り出した。
遠いと思っていた平原にも案外すぐに着く。
少しだけ自分の身体能力に驚いたが、そんな些細な驚きが軽く吹き飛ぶような光景が眼前には広がっていた。
そこでは木で出来た大きなライオンと、4mはある全身真っ赤で上裸のマッチョが戦っていたのだ。
「どうゆう状況だよ!?」
俺はつい我慢できずツッコんでしまった。赤マッチョは俺の声が聞こえたのかこちらを睨む。
と、ここで気が付いたがライオンの上に誰かが乗っている。袈裟を着た白髪のイケオジだ。男はこちらを見るやいなや叫びだす。
「逃げろ!!! ここは危険だ! 早く!」
「あ、いや俺実はHOPEsって団体の者でして!」
「知らん! 良いから早く逃げーー」
「グオォゥゥッ!!」
男の言葉を遮るように赤マッチョが木のライオンをぶん殴る。ライオンはバランスを崩すがなんとか持ちこたえ、相手の腕へと噛みついた。両者共に組み合って膠着している。
俺は全身にビリビリを纏った。
「よく分かんねぇけど多分お前が悪者だろッ!!!」
俺は赤マッチョの顔をぶん殴る。マッチョはよろけるが吹き飛びはしない。ましてや痛がる様子も無かった。
(マジか……? 一応ビリビリ纏ってるんだけどな…………ん? こいつ、前の紫マッチョに似てる?
顔は全然違うけど、体格と理性無さそうな感じがそっくりだ……)
俺がそんな事を考えていると白髪の男がこちらへ話しかけてくる。
「おい! お前、神力者か!?」
イケオジが両手の平を合わせたかと思うと、地面から巨大な根が飛び出しマッチョに絡みつき動きを封じる。
「あぁ、俺はアレスの【神力】でビックリ人間になる! それだけ! あんたは!?」
「……いいのか? 見ず知らずの俺にそんな事言って」
「あぁ、問題ねぇよ。お前悪い奴じゃないだろ」
「……っ! 来るぞっ!」
男の声とほとんど同じタイミングでマッチョは、自身を縛る根を引きちぎり雄叫びを上げ動き出す。
「私の【神力】はシシガミ。端的に言えば木を生やし操る。細かい話は後だ! こいつを戦闘不能状態にしたい! 協力願えるか?」
「もちろんだ!」
俺は再びマッチョへと飛び、今度は胸に一発入れるとその巨大な身体は再びよろめく。すかさずシシガミが無数の根のムチを赤い体表へ叩き付けていった。
「てゆーか戦闘不能? っていうのは普通に倒していいのか?」
「殺すなって意味だ。殺さずに戦えない状態にしてほしい」
「なるほど! それと後1つ、何で戦ってんだ?」
これが一番気になる。こんな山で一人この怪物と戦う理由が分からない。逃げるチャンスはいくらでもあったはず。となると何か逃げられない事情があるように思える。そしてなんで袈裟なんだ?
「こいつを正気に戻すためだ!」
「どゆことだ!? コイツ操られてんのか?」
俺達はマッチョの猛攻を躱しつつ会話を続ける。
「違う。今は暴走しているがこいつは私の友人だ。恐らく何らかの【神力】の影響だろう」
「なっ……ゃあ他の暴走マッチョもそうなのか!?」
「他? 他なぞ知らん。私は【神力】を得てからこいつと戦い続けている」
「ずっと!? お前何日間戦ってんだよ!?」
「今日で11日目だ」
(……イカれてるだろ)
そんな話をしている間にもマッチョの攻撃は続く。
以前戦闘した紫色のマッチョよりも動きが早く力も強い。反撃の隙が無い猛攻に俺達は回避を強いられていた。
「おい! 正気に戻す策は?」
「無い! だから戦闘不能にする!」
「戦闘不能って……! 俺達2人でいけーー」
俺がそこまで言いかけた時、マッチョが音をたてて前のめりに倒れる。マッチョは足首の裏がザックリと斬られており、立ち上がれない様子だった。
「なんか知らねーけどシシガミっ! チャンスだ!」
シシガミはマッチョの斬れた足首に根を入れ込み、その全身を蔦で覆う。
最初はマッチョも暴れていたが次第に動きはおとなしくなり、やがて停止した。
「…………おい、アレス」
マッチョの背後の茂みから一人の男が現れる。
「約束場所にいないと思ったら、これは一体どういう事だ? しっかりと山の麓に……あれ、頂上だったか……ん?」
「スサノヲーー!」
そこにいたのは、バカだが強さだけは頼りになる男であった。




