第11話 友
「ホルス!」
「分かってる!」
ホルスは空中で急降下し、逃げ遅れた女性を掴む。
「アレス! いいぞ!!」
俺はスサノヲの指示で、建物の影から飛び出した。
そしてスサノヲの攻撃でバランスを崩した巨大な虎の頭に、全力の一撃をかます。
「おらァッ!!」
(クソっ! ビリビリが出てねぇ、これじゃ倒せない!)
虎は俺の攻撃などまるで効いていないかのようにムクリと起き上がり、こちらに飛びついて来る。
が、その牙が俺に届く事は無かった。目の前で虎の眼球が斬れる。
「蛇斬りっ!」
そう唱えながらスサノヲは、俺の背後から斬撃を飛ばした。目玉を斬られた虎はジタバタと暴れ出す。
(今のうちに……集中…………集中……洗濯機…………集中!)
俺の体はビリビリを纏う。暴れる虎の横腹に、今度こそ俺は全力の拳をブチ込んだ。
虎は数m吹き飛び動かなくなる。
「やったか……」
俺達は倒した虎に近づく。どうやらまだ息はあるようだ。
「にしても近くで見るとホントでけーな。5m位あるんじゃねーか?」
「バカか? キリンで6mだぞ?」
「全長だよアホ鳥」
ホルスが信じられない位怖い目で俺を見てくる。それを見かねてスサノヲが俺に話しかけてきた。
「そういえばまた失敗だったな。そんなに難しいのか? お前の【神力】って」
「いや、ムズいにはムズいんだけど最近は出来るようになってたんだけどな……」
HOPEsに入りヒーロー活動を始めてから3ヶ月が経過し、もうすっかり夏の暑さも消え去っていた今日この頃。
数々の神力犯罪者達と戦ってきた俺は、徐々に【神力】を掴みつつあった。
「3分の1でな」
(バカ鳥め……余計なこと言いやがって。にしても……)
「……この虎って何なんだ? いくら何でもデカすぎんだろ」
「さぁな。そんな事考えてる暇は無い。早い所戻るぞ、警察が来る」
耳を澄ますと遠くからサイレンの音が聞こえる。俺達は虎の両手両足をロープで縛ってその場に放置し、ホルスにしがみついた。
「……なぁ、本当にこれじゃなきゃダメか? アレスもスサノヲも走ればそこそこ早いだろ?」
「いや、地上はリスクがある! そうだね、スサノヲ君?」
「ああ! その通りだなアレス君!」
「……分かったよ」
ホルスは観念したのか、勢い良く飛び立った。
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アジトにて俺達が大きな虎の件をハデスさんに共有していると、気になる話が飛び出した。
「神獣?」
「あぁ。現在全国各地で確認されているらしい。どこから来たのか、どんな生態なのか、全てが不明だとか。恐らくは今回の巨大な虎もそれだろう。
とりあえずご苦労だった。ホルスとスサノヲは飯でも食べてこい。アレスは私と中庭に」
「…………ハイ///」
「…………」
渾身のボケがスルーされた俺は静かにハデスさんの後ろについて行く。中庭に到着するや否や、ハデスさんはすぐに口を開いた。
「アレスお前、さっきの戦闘で【神力】を使えたらしいな」
「あ~その事ですね。使えましたよ、一回ミスりましたけど」
「どうだ? 今出来るか?」
「……やってみます」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。
(集中!)
しかし何も起こらなかった!
「うーむ……何か発動時の共通点はないのか?」
「うーん……」
(共通点……? つっても戦闘中に出せたのは今日のを含めて15回目だしな……)
「あ、めっちゃ集中はしてましたよ」
「集中か……それなら今も出来そうなもんだが……」
(確かに。となると他の……? 他……他……ほかほか……?
……そんなんどうでもいい……ん? この感じなんかに似てんな……? えーっとなんだっけ…………)
「あ! そうだ洗濯機!!!」
「どうしたアレス……? 洗濯機がどうかしたのか?」
「あぁ違います! ビリビリを出せた時は共通して洗濯機とか回転の《イメージ》をしてたんです!」
「《イメージ》か………………やはり……」
「やはり?」
「いや、私も骨の大剣を初めて出した時、溶鉱炉のイメージをしていたんだ。それから大剣を出す時は溶鉱炉を無意識にだが思い浮かべていた。アレス!」
「はい! やってみます!」
(エンジン……タイヤ……モーター……そして…………洗濯機!)
次の瞬間、俺の体はビリビリを纏う。
「おぉ! 出来た!!」
「なるほど……《イメージ》か……【神力】との繋がりを研究すべきだな…………それはそうとアレス。その力、試してみたくはないか?」
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「はっけよーい、のこった!」
(何故相撲!?)
アフロの掛け声でホルスは飛び立ち、俺はビリビリを纏う。【神力】テストの為の模擬戦が始まった。
ホルスは中庭の上空を駆けながら攻撃の隙を伺っている。
(ホルスは速い、けど攻撃する時は俺に近付かざるを得ない筈。なら……)
思った通りホルスが急接近してくる。俺はそこにカウンターを打ち込んだ。
だが、
「あっちぃっ!!!」
ホルスは俺のカウンター圏内の直前で止まり、炎をこちらに放射してきた。俺は慌てて後ろに飛ぶ。
「そりゃお前はカウンター狙いだよなっ!」
俺は声のする方へと振り向くがホルスがいない。それどころかどこを見渡してもホルスの姿は無かった。
「………! 上か!」
俺は全力で右に飛ぶ。その直後、さっきまで立っていた場所がホルスによって粉砕された。
(あっぶねーッ!!!)
「まだだ」
そう言うとホルスはまっすぐこちらに飛んでくる。俺は構えようとするも何かに足を取られて体勢を崩してしまう。
(なんだ!? 足元に違和感が……)
「穴!?」
足元には穴、というよりも小さなくぼみがあった。
「こんなのいつの間に……」
「よそ見するな!」
ホルスの蹴りが腹にクリーンヒットする。俺は軽く数m程吹っ飛んだ。
「さっきお前が炎と遊んでた時にそこら中にいくつか穴を開けた。
成長はしているが、まだ僕の方が強いようだなアレス」
ホルスは俺の顔面めがけトドメの蹴りを入れる。
その衝撃で俺の鼻からは血が噴き出した。
(あぁ……クソ痛え……)
「けど……!」
「!!」
俺はホルスの足を掴む。ホルスは必死に引き剥がそうとするが絶対に離さない。
「油断したな……ホルス……」
「お前……もうボロボロだろうが!……クソッ、こうなれば!」
そう言うとホルスは俺ごと飛び立ち、20m程まで上昇する。
そして羽ばたく事を止め、俺を下にして落下し始めた。
「お前を諦めさせるにはこれ位しないとダメらしいなっ! さぁアレス! さっさと降参しろ!」
(マズイ……! このままじゃ土とディープキスだ…………よし……一か八かッ!!!)
俺は落ちていく中でその時を待つ。
「早く降参しろっ!」
(まだ……まだ…………まだ………………今だッ!)
地面にすんでまで迫ったところで俺は動いた。
「なっ!?」
空中で自分の体を捻りながらホルスの足を力いっぱい引っ張る。
「まずッーー」
ホルスは頭から地面に激突した。その後俺もホルスをクッションにする形で落ちる。
「痛ってぇ〜……ホルス?」
ホルスが動かない。
「……」
ホルスは気絶していた。
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ー模擬戦から10分後 アジトの一室ー
「しゃおらあぁぁ!!! ホルスに勝ったぁ!」
そう浮かれていた俺の頭に、アフロがとびきりの拳骨を振り下ろす。
「うるさい!! 何が勝ったよまったく……ホルス鼻の骨折れてたんだからね!? もう、私がいなかったらどうしてたのよ……」
「アフロがいるからやるんだよ」
「や・め・て!!!」
迫真の顔に俺は何も言えなくなる。
「大体、ハデスさん達もなんで止めなかったの!!!」
「い、いや一応戦闘訓練だし……」
「訓練でケガしてどーすんの!!!」
「……すまなかった……」
(嘘だろ。アフロがハデスさんを論破している。いや、気迫で押しているだけだが。まぁ確かにちょっとやりすぎたかもな……)
「……アフロ、うるさい。鼻に響く」
ホルスが小声でアフロに訴えかける。が、その訴えはむしろアフロの逆鱗に触れた。
「うるさいじゃ無いよ!!! もしかしたらアンタかアレスがもっと酷い怪我してたかもなんだよ!!! 分かってる!?!?」
「……うぅ、響く…………」
「あ、ごめん…………ってなんで私が謝らなきゃいけないの!!! 全くもう! ほんとに……」
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「麦茶麦茶〜♪」
深夜に目が覚めた俺は、喉が乾いたのでキッチンでお茶を注いでいた。
「美味しい麦茶〜♪ 世界の麦茶〜♪……お、ホルスじゃねぇか。どうした、こんな時間に?」
「アレス、ちょっといいか」
「いいぜ。連れションか?」
俺はホルスに呼ばれ廊下まで出る。トイレへと向かう俺を阻むようにすぐにホルスは足を止めた。
「アレス。僕は今日お前に負けた」
「お、おぉ……どうした急に」
「お前は強くなった。だから…………その……」
ホルスはハッキリとこちらを見て頭を下げる。
「僕のライバルになってくれ!」
「……は?」
随分と躊躇した後に、ホルスはよくわかんない事を言い出した。
「ライバル……? 俺達味方だよな?」
俺の問いに対しホルスはキョトンとした顔で答える。
「……? あぁ。別に味方でもライバルは成立するだろ?」
「まぁ確かにそうだけど……どうして?」
「……僕の目標の為、だ」
「ほーん……ま、いいか。楽しそうだしな!」
「……これで2つ目……」
「ん? 何か言ったか?」
「……いや、何でもない」
その後俺達は連れションし、ホルスの部屋で互いの事を話した。那由多の事やアフロの機嫌取りの作戦会議など。
「やはり菓子が良いんじゃないか?」
「ポテチとか?」
「あぁ」
「んじゃとっとと買ってこいよ。簡単じゃねぇか」
「面倒だ」
「お前なぁ…………」
この時から、俺にとってホルスという存在は『仲間』というよりも『親友』というものになっていった。
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ーとある森林!
「なぁ、やめようぜ……」
「大丈夫大丈夫! 行けるって!」
夜の森林を男女4人組が進んでいく。
「ほんとに出たらどうすんのよ……」
「もう~みくちゃんったら怖がりだな〜。お化けなんか出ないって!」
「違う! 神獣の方!」
「え? あー、サエコが言ってたやつ? あんなんデマに決まってるでしょ!」
他3人の反対を押し切り、1人の男は森をぐんぐんと進む。
ガサッ
「ひゃ! いまなんか動いた!」
「おい〜、そういうのいいって〜w」
「違う! ほんとになんかいた……の……キャアァァァァ!!」
「だから良いって〜……お?」
男が振り向くとそこには熊のような形の木が生えていた。
「これスゲー! これSNSに上げたらバズるかな〜! なぁアキラどう思う?……ってあれ、アキラ?……カナちゃん? みくちゃん!?」
男が仲間が消えた事に焦っていると背後から物音が聞こえてくる。男が急いで振り返るとそこには
熊の牙が迫っていた。




