第10話 引導
「剣生は……俺が殺したんだよ…………」
「…………え……?」
場の空気がガラリと変わる。
「殺したってどういう事ですか?」
ホルスは冷静に問う。
その問いから暫くの後に、ゆっくりと剣双は重い口を開いた。
「…………俺は……死んだ俺達の母さんの墓を、山の中に作ってたんだ。そしてあの日は……母さんの命日だった。だから俺は線香をあげたんだ。
…………でもその直後に猪が突撃してきて、墓を倒していった。だから墓を直して、猪を狩りに行って、そのまま鍛錬に入ったんだ。きっと、あの時線香も倒れてたんだ……その火が、その火が燃え移ったんだよ!」
「……でも、それだけじゃ……」
「分かるんだよ!……剣生は、きっと消そうとでもしたんだろ! それで……火に囲まれて……死んだんだッ!」
剣双の口から語られたのはあの日の事実と、一番の理解者による予測だった。
「剣双……」
剣が悲しそうに呟く。
「あいつは! 俺達の中で誰よりも強くなりたいと願っていた! そいつと最強になる約束をした俺が、殺したんだ! じゃあ俺が最強になるしかないだろうがぁッ!!!」
剣双は一気に踏み抜き、アレスへと斬撃を飛ばす。その斬撃はアレスの体を軽く吹き飛ばした。
木の棒であるため斬撃というよりは衝撃波であったが、先の打ち合いでとうに限界を越えていたアレスを倒すのには充分な威力だった。
「ゔッ……ぐっ…………」
(くそ……クソクソクソッ! 体が動かねぇ! くそッ!)
「はぁ……はぁ……これで…………俺の勝ちだ。分かっただろ? 俺が最強にならなきゃいけないんだ。あの約束を背負うのはお前じゃだめなんだ。俺が償わなきゃ…………」
(このまま救えねぇのか……!! 考えろ考えろ考えろ…………)
「待て、剣双」
その声はその場にいる者全員に届いた。
気付けばその声の主はアレスの前に立っていた。白い道着に身を包んだその男は木の棒を構える。
それは桐生剣のもう1人の弟子だった。
「剣双! 決闘だ」
「……剣心。お前じゃ俺には勝てない……それに……」
剣双は悲しそうにそう言う。
次いで剣も立ち上がり剣心へと駆け寄った。
「そうだ剣心! お前が戦っても、勝ち目はーー」
「ごちゃごちゃうっせぇなッ!!!」
「「「!」」」
普段の剣心からは想像も出来ないセリフに全員が驚く。剣心はそんな事気にも止めずに剣双を睨みつけていた。
「俺も、約束背負ってんだ」
「…………分かった……加減しないぞ」
そう言うと剣双は高く飛び、剣心へと迫る。剣心は木の棒を下向きに構え目を閉じ深呼吸し始めた。
2人の距離が近づく。
(…………まだ振り上げないのか?)
剣心には剣の才能が無かった。故に多くの技は扱えない。
2人は互いの流派の技を熟知している。
剣双は鬼気流、剣心は蒼天流。鬼気流は攻撃的な剣術であるのに対し、蒼天流はカウンター特化である。
「危ない剣心っ! 避けろッ!」
蒼天流奥義【蒼天】は相手の振りを刀の峰で受け己ごと回転し、相手の斬撃の威力をそのまま返すという蒼天流唯一の技である。
だが、この技には致命的な弱点がある。それは縦方向の斬撃に対応出来ないという事。
故にそれを知る剣双は縦の大振りで突っ込んだのだ。
剣心は未だに木の棒を上げない。
(今の構え方じゃ力が入らない! このままじゃ剣心さんが!)
「早くッ! 避けるんだッ!」
剣が叫ぶ。
だが当の剣心さんはアレスの顔を見て、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう、アレスくん。君のお陰で剣双の心が見えた。年下の子に助けられちゃったね」
剣心は前方へと高く飛ぶ。剣双との距離がグッと縮まり剣双は慌てて棒を振りおろした。
しかし、振り下ろされた棒は剣心には当たらなかった。剣心が自身の棒で攻撃を受けたからである。
剣心は棒に与えられたエネルギーを極力逃がす事無く、かつ木が壊れる事もない最善のタイミングで、木の棒を前宙するように体ごと縦に回した。
「雲外」
剣心の放った一撃が剣双へと迫る。
剣心の木は剣双の木を叩き割った。
この技は剣心が10年かけて編み出した剣心だけの技である。
両者は着地した。
己の折れた木を見つめる剣双に剣心が話し掛ける。
「……剣双。俺も、背負っていいか?」
「…………背負って……くれるのか……?」
「!……あぁ、あぁ! 当然だ、辛かっただろう? お前は優しすぎる……いらない心配ばかりして苦しかっただろう?」
「……苦しかった……でも、剣生はもっと苦しいと思った…………
……いや、やはりだめだ。俺は、殺したんだ……剣生を! だから、俺が……」
「それは違う。俺も、殺した」
「!」
「……俺も母さんの墓を作っていた。そしてあの日、俺も線香をあげたんだ……」
「嘘だ……」
「本当だ。神に誓う。あの日、俺とお前、どちらかが剣生を殺したんだ。
だから……共に背負っていこう」
「…………あぁ……」
2人は抱き合う。剣双の瞳からは大粒の涙が流れていた。
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「行ってくる」
「おう。気をつけろよ」
俺達がバス停の前で荷物の最終チェックをしている間に剣双と剣心さんは別れの挨拶をしている。
が、剣さんの姿は見当たらない。
「アレスくーん! ホルスくーん! 剣双の事よろしくね〜!」
「はい、任せて下さい! お世話になりました!」
俺達は軽く会釈をしてバスへと乗り込んだ。
二泊した道場が段々と遠ざかっていく。
(あぁ、そういえば昨日の夕食めっーー)
「おぉぉぉぉぉい!!!」
急に道場の方から大きな声が鳴り響く。
「けんそおおぉぉぉぉおぉう!!!」
剣双はバスの窓から身を乗り出して道場を凝視する。
「……! ッジジィぃ!?」
よく見ると道場の屋根の上に剣さんが立っていた。
老体にはキツイであろう声量のまま、剣さんは叫び続ける。
「けんそぉぉぉぉ!!! おめぇ!! 死ぬんじゃねぇぞおぉぉぉ!!!」
「ッ!」
その言葉を聞いた剣双は口を押さえる。
それは剣さんにとっての最大限のエールだった。
「……あぁっ! 死なねぇよ!!! おやじぃぃぃぃぃ!!!」
よく見えなかったけど、その返事を聞いて剣さんは笑っていた気がする。
この時の剣双の表情は初めて会ったときとはまるで違う、つられてしまう程の笑顔だった。
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俺と剣双は車内で色々と話し合う。
「スサノヲぉ!?」
「まぁ……はい」
「嫌だよ。なんで名前じゃ駄目なんだ?」
どうやら恥ずかしいらしい。
「いや~本名バレすると色々大変たぜ? だから一応俺達も神の名前で呼び合ってるじゃねぇか」
「そうか?……ってか、いつの間に敬語じゃなくなったんだ?」
(あぁ、そういえばこの人19歳だったな。俺より3つ上か)
「タメ口じゃ駄目か?」
「まぁ……良いけど」
「おい、2人共。一応他の乗客もいるんだ。静かにしてろ」
「はーい」
「分かった」
その後しばらくバスに揺られた俺達は電車に乗り換え、ホームタウンtokyoへと戻った。
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「ただいまー!」
俺はアジトのドアを勢い良く開ける。
「帰ったか。それで、どうだった……っておぉ!!! 良くやったアレス! ホルスも!」
「いや……僕は正直今回なんにもしてないんですけど……」
「そうなのか?……まぁ、良いだろう! よし、今夜はスサノヲ歓迎パーティーだ! ポセイドン! アフロちゃん呼んで来い!」
「はぁいはぁ~い」
「そういや、ハデスさんと剣さんって知り合いなんですか?」
「そうだ、高校の同級生なんだよ。それでこの前『息子が神力者になった』って連絡が来たんだ……ってあれ、これ出発前に話さなかったか?」
「「……あ」」
俺とホルスは顔を見合わせる。そしてハデスさんの方を向き問う。
「「それ言ったのって」」
「お天気コーナー」
「お天気コーナーの次」
「「ですよね!?」」
「え、えぇ…………」
「ハハハっ! 愉快な職場だな。楽しくやれそうだ!」
こうしてHOPEsは新たな仲間を手に入れた。
おまけ
HOPEs隊員プロフィール
周防れいこ
【神力】アフロディーテ 治癒と強力な弓矢の具現化
身長165cm
16歳
好きな食べ物 お寿司
金髪は染めている。胸がおおきい。かなり。普段はジャージを愛用しているが、外出時は白いワンピースを着ている。
桐生剣双
【神力】スサノヲ 草薙の剣という短刀を無限に出せるが自分しか持ち上げられない。見た目は普通の短刀であるが、通常武器が効かない神力者にもダメージを与える事が出来る。
身長175cm
19歳
好きな食べ物 塩結び 剣心の料理
角は神力の影響で生えた。鬼気流の使い手であり、基本的には双剣スタイルで戦う。
道場の白い道着を常に愛用している




