92 1556年末報告7
92 1556年末報告7
「そなたらのいうことよく分かったぞ。それならば領土を守ることに関して言えば十分な対処が可能なのだな?」
「はっ、仰せの通りにございまする。」
守りに徹するならば、地形と兵力の優位を活かせる。六角の領土は山と川に囲まれ、防衛戦には適している。
「我々単独で当たる必要もない、山陰山陽や四国の他の勢力などにも声をかけよう。すぐに決戦をするわけでは無いが必要となった時に動けるようにしておきたい。」
外交の布石は、戦の勝敗を左右する。決戦前に味方を増やし、三好の包囲網を築くことが肝要だ。
「それと、これ以上の三好の勢力拡大を防ぐためにも山陰山陽がこれ以上攻め取られぬ様に援軍を出したいな。例えば、侵攻する動きを見せた時にはこちらも攻めは素振りをするなどだ。」
実際に兵を動かさずとも、動く気配を見せるだけで相手の進軍を鈍らせる。戦は剣だけでなく、影でも動かすものだ。
「なれば、今勢いがあるのは毛利 尼子の両者にございましょうな。大内は行けませぬな…毛利に負けてから降り坂にございまする。」
大内は内紛と敗戦で求心力を失っている。今後の同盟先は、実力と安定性を兼ね備えた毛利か、将軍との縁が深い尼子か。
後藤の言葉に俺も同意だ。そしてできれば毛利の方に恩を売っておくべきだと考えているが、尼子にも恩を売り敗戦した後の人材を確保するのもいいかも知れぬな…
敗者の中にも光る人材はいる。尼子が崩れた時に備え、将来の登用候補を見極めておくのは、治頼らしい知識チートであった。
「どちらと決めるは必要は無いのではと考えるのですが、いかがにございましょうか。」
中立を装いながら、両者に恩を売る。戦国の外交は、信義よりも利得。治頼はその均衡を巧みに操ろうとしていた。
「若様の言う通りにございまするな。両方に文と何か軽い贈り物をしてはいかがにございましょうか。特に尼子に関しては将軍様を通じて話を通して頂いても良いでしょうし。」
進藤が俺の意見に賛同する。その様子を見ると大半が微妙な顔をしているのが分かった。互いに争う中の両者にいい顔をするのは…と言った所か。
重臣たちの表情には、外交の綱渡りへの不安が滲む。だが、治頼の言葉には揺るぎがなく、場の空気を引き締めていた。
「では、六角家としては公方様を通じて尼子殿との縁を持ちませぬか?そして、毛利には私が個人的に接触しまする。半蔵が管轄する忍びを引退したもの達で構成された商人がおりまする。彼らに毛利に対して米を売ってもらいまする。そのついでに文のやり取りを…と。」
忍び上がりの商人は、情報と物資を運ぶ影の外交官。米の取引に紛れて文を交わすことで、六角の意図を静かに伝える。




