90 1556年末報告5
90 1556年末報告5
「では、纏めると全体として約150万石、現在兵の数は銭兵2万と農兵1.5万程か。更に伊勢を加えて銭兵2.7万、農兵2万。六角は押しも押されぬほどになったが…。」
石高140万、銭兵2万。この数字は、戦国大名としては異例の規模だ。だが、数字だけでは勝てぬ。戦略と地形、そして時機が鍵となる。
父と俺の発言をまとめて祖父が言葉を発するが後を濁している…。祖父の言葉には、経験に裏打ちされた慎重さが滲む。勝てる戦と勝ち切れる戦は違う。三好との戦は、後者を求められる。
「もし、三好と戦うとすれば1度の戦で大勝せねば厳しゅうございまするな。」
半蔵が仮想敵である三好について語る。俺の三好と争うのは時期尚早という考えを知って諌めようとしてくれている。
半蔵は情報の裏付けを持つ者として、軽々に戦を語ることを嫌う。彼の言葉には、伊賀忍びとしての冷静な分析が込められていた。
「我々の調べによりますが、本土だけで三好は3万の兵を動員可能で、更に四国からの援軍も1万ほど見込まれまする。戦の後の事など考えずかなりの無理をすればという数にございまするが、当家との戦をすると考えればおかしくはない数かと。」
三好の根こそぎ徴兵は、民の疲弊を伴うが一時的な爆発力を生む。四国の援軍は海路を使えば短期間で到達可能。油断は禁物だ。
関ヶ原の戦いが20万規模の戦だったことを考えると約8万規模の戦を2勢力の大名で行うかもしれないのはイカれているな。
だが、戦国とはそういう時代だ。領地の大小より、動員力と戦略がものを言う。六角と三好が激突すれば、畿内の秩序が揺らぐ。
六角家の軍制が銭雇ということもあって全国から兵を集められる事ができ、地元から徴兵する必要が無いことからこれだけの数を集められている一方、三好は根こそぎ徴兵でその数を揃えているのだから凄いな。
六角は銭兵制度により、地元の負担を抑えつつ広域動員が可能。三好は逆に、地元の力を絞り切って一戦に賭ける。思想の違いが戦術に現れる。
「それに、よしんば三好を一度破ったとしても四国へ兵を連れて逃げられたりすれば再度防衛戦として三好と長い戦いが始まる可能性が高いことを忘れないようにお願い致しまする。」
四国は山と海に囲まれ、追撃は困難。一度逃げられれば、補給線を伸ばすか、海軍を動かすかの選択を迫られる。長期戦は避けたい。
半蔵の言葉に皆が顔を渋面にする。
実際言葉にされると事の深刻さが分かるという事だな。数字と地図だけでは見えぬ現実が、言葉にされることで重くのしかかる。評定の空気が一段と張り詰めていく。




