87 1556年末報告2
87 1556年末報告2
天文25年1556年 11月 六角治頼
案内に従って父と祖父が待つ評定の間に行くと軍略方と内政方それぞれの筆頭と以下重役が控えていた。
廊下を進む間、重臣たちの視線が注がれる。半蔵の登城は、六角家の内政に新たな風を吹き込む予兆として受け止められていた。
真ん中一段高いところに父である義賢が鎮座しておりその左に祖父が右に俺という形で座るようになった。
「よく帰ってきたな。伊勢はどうだ?」
父の笑顔には、伊勢の地を任せた息子への信頼が滲む。治頼としても、報告の言葉に伊勢での成果と誇りを込めて返す。
「はっ、冬はここよりは暖かく海産物はとても美味しいです。」
「そうだな、お前たちが送ってくれる鮮魚のおかげで近江に住む我々もその利益を享受できている。」
「そろそろ良いのではないか?」
祖父が少し急かすように言う。父は眉を顰めるがすぐに仕切り直し、後で三人で鍋でも食おうと言って居住まいを正した。
祖父の言葉には、年長者としての焦りと期待が混じる。鍋の提案は、三代の絆を深める場としての意味も込められていた。
「さて、評定を始めるが以前までは我々三人で行っていた軍や内政の確認を全体で行うためにこの形にした。秘事に関しては三人で別の機会に話し合うのでそこの所を把握しておいてくれ。それと軍を語る上で外せないのは素破や乱破の動きだ。此度はそれをまとめるものたちを紹介する。」
ほう?ここで伊賀と甲賀をバラすのか。まぁ、伊賀に関しては俺が元服したし大丈夫か。
「まずは、六角では彼らのことをこれから忍びと呼ぶことにする。忍び難きを耐えるものたちと言う意味だ。差別するのは許さん!」
「忍び難きを耐える者」――その言葉には、父の信念が込められていた。彼らを道具ではなく同志として扱う覚悟の表れだ。父の言葉に全員が頭を下げて同意の意を示す。
「では、入ってこい。」
そう言って中に入ってきたのは伊賀のまとめ役服部半蔵、甲賀のまとめ役望月が入ってきた。二人が並び立つ姿は、影の精鋭が六角の表舞台に立つ瞬間でもある。評定の空気が一変し、緊張と期待が交錯する。
「望月に関しては皆も知っておろうが、この服部は伊賀忍者のまとめ役だ。それと治頼が元服するずっと前からの家臣でもある。後藤壱岐守に次ぐ長さだ。その事努努忘れるではないぞ。」
皆が顔を驚愕させる。服部の名が告げられると、重臣たちの間にざわめきが走る。治頼の傍にいた男が、実は伊賀の要であったとは――。




