76 甘い毒
76甘い毒
細川藤孝は二人の様子を見て再度確認を取るとこの内容で和睦が成った。これは甘い毒だ。あくまでも「現在の」米収入というところが大事だ。これからどんどんと六角の力で収穫量が増え米の価値が下がって行く中で今現在の5割の米なぞどれほどの価値があるというのか。それにどの米を渡すかは言っていない。近江の義倉に入っている古米を渡せばいい。
「では、ここからは公方様からのお言葉をお伝えします。」
細川藤孝の言葉に北畠親子が眉を顰めながらも居住まいを正す。
「まず、今回の和睦によって両者の蟠りが少しでも解消される事を願う。また、2家の力は打倒三好に必ず必要となる。その為にもお二方にそれぞれ守護を与える。北畠殿には大和守護を、六角殿には今回治めることになった領地のために伊勢守護を与えるとの事です。これからは両者が力を合わせて幕府のために働く様に。」
「「はっ」」
北畠は困惑と不快感を表しながら、六角は淡々と答えた。その後はそれぞれ解散して終わりになったのだが、これから伊勢を引き継いで統治するにあたって北畠との関係を改善するに越した事はないので具房殿と話に向かう。向こうでは祖父と父が具教殿の妻、つまり叔母と話をしている。
「お疲れ様でした、北畠侍従殿。」
「お疲れ様でした、六角主水佑殿。と言ってもそれがしは特に何かしたわけでは御座いませぬからな。」
少し声のトーンが下がり雰囲気が重く成った。親との差にコンプレックスを感じてたりするのだろうか?
「いえ、場の雰囲気を読んで空気を変えてくださったのはこちらとしても大変助かりましたぞ。」
「そう言って頂けると幸いにございまする。」
「先ほど、侍従殿が言った様に我々は従兄弟同士で年も同じなのですしもう少し砕けて会話いたしませぬか?私のことは治頼とお呼びください。」
具房は少し顔を明るくしてこちらを見る。
「では、私のことも具房と。」
「具房殿は今回の結果に不満はありませんだか?こちらから仕掛けた事ではないにしても中々腹立たしい事だったと…。」
「いえ、私としてはそこまで。実際統治したり配下達の噂を聞いておりますると六角の内治の良さが伝わって来ます。国人衆達への対応も。仕方がない事だったとは思いまする。」
「そう言って頂けると幸いにございまする。もしよろしければ、お互いに文を出し合いませぬか?私はこれから伊勢と伊賀の統治のために南側で内政をしまする。その関係上、北畠殿と交渉したりすることもございましょう。それに、偉大な先代達を持つ身として話せる相手はいた方が良いかと。」




