151 若狭獲得
151若狭獲得
永禄1年1558年 6月 六角治頼
治頼は、逸見の最期を語る際、あえて「首だけを持ち帰り埋葬した」と言葉を選んだ。これは、六角が義統の仇を討ち、秩序を守ったという印象を強めるための演出だった。孫犬丸が全てを理解した上で公方に奏上したいという意志を持っていると伝えることで、義輝の感情を孫犬丸へと向けさせる。治頼は、政治とは感情の流れを制することだと心得ていた。
「す、すぐに通すのじゃ!はよう呼んでこい!」
義輝は、孫犬丸の名を聞いた瞬間に顔を上げ、声を荒げた。公方の血筋が生きていることは、幕府の威信を保つ最後の希望でもある。配下たちは慌てて動き、謁見の間には緊張と期待が入り混じる空気が漂う。治頼は、孫犬丸の登場が義輝の感情を収束させ、六角の後見を正当化する決定打になることを確信していた。
「公方様、幕臣の皆様、お初に御目にかかりまする。若狭武田当主の武田孫犬丸に御座いまする。以後よしなにお願いいたしまする。」
孫犬丸は、緊張しながらも覚悟を持って言上を述べた。その姿は、幼さの中に武家の誇りと責任を感じさせるものであり、幕臣たちの心を打った。治頼は、孫犬丸に事前に言葉を教え込んでいたが、それを自分の意志として語らせることで、真実味と感動を生み出していた。政治の場では、言葉の重みがすべてを決める。
「おお、なんと立派なのだ。孫犬丸よ。ワシは親族じゃ、そのような他人行儀はせずとも良いのじゃぞ?」
義輝が先程とは違い優しい雰囲気で孫犬丸に話しかける。
「はっ、ありがとうございまする!ただ、この場では控えさせて頂きたくございまする!私は、親族の足利義輝様に会いにきたのではなく、公方様へと御目通りしたく来ておりまする!面会の後、親族として語らわせていただければと思いまする!」
孫犬丸の言葉は、幼いながらも政治的な礼節をわきまえたものだった。義輝に対して「親族ではなく公方として会いに来た」と言い切ることで、場の空気を引き締め、幕臣たちの敬意を集める。治頼は、この一言が義輝に「この子はただの遺児ではない、若狭武田の当主だ」と認識させる決定打になると見ていた。
「うむ!その心意気や良し!申したい事があるそうだな!言うが良い!」
義輝は、孫犬丸の礼節と覚悟に感銘を受け、声を張って言葉を促した。幕臣たちも静まり返り、謁見の間は孫犬丸の言葉を待つ空気に包まれる。治頼は、孫犬丸が語る内容が義輝の心に刺さるよう、言葉の順序や抑揚まで事前に指導していた。この場は、六角の政治的演出の集大成だった。




