145 若狭侵攻21
145若狭侵攻21
永禄1年1558年 5月 明智治光
「三好と手を組み、あまつさえ殿を暗殺したお前に卑怯者とは言われたくないわ!明智殿!ご助力をお願いしまする!」
身体は逸見と向き合ったまま、六角へと武藤は助けを求めた。だが、治光は動かない。六角兵も動かない。武藤が助けを求めても、誰も応じない。それが六角の策だった。武藤が孤独に戦い、討ち死にすることで、彼の忠義は“物語”となる。孫犬丸の後見人として、武藤の死は必要だった。
「武藤殿、我々は孫犬丸殿のことも考えここは武藤殿が一騎打ちにて勝つことでこれからの武田の地位を確固たるものにできればと考えておりまする。頑張ってくださいませ。」
「なんと!ご無体な!」
武藤が動揺した瞬間、逸見は一気に距離を詰め、脇差で武藤を斬り伏せる。
「戦の最中に気を逸らすなどこの愚か者が。だからお主は…」
勝利を確信した逸見が言葉を発しようとしたその瞬間、六角兵が一斉に動いた。治光の合図で、逸見は四方から斬られ、言葉を吐く間もなく血反吐を吐いて倒れる。武藤の死が逸見の死を呼び、忠義が裏切りを討った構図が完成する。
「よくやった。皆の者、武藤と逸見の首を切り落とし陣に戻るぞ!」
治光は、首を落とした2人の遺体をその場に置いたまま兵の1人が持って来ていた松明を使い館に火をつけその場を後にした。
本丸を離れ、陣に戻ると治頼様が出迎えに来てくれていた。
「治光、戦果はどうだった?」
すぐに片膝を着こうとするも、肩に手を置かれて制止させられた。それに頭を下げて陣幕内に案内してもらうと床机に腰を下ろした。
「はっ!武藤殿が本丸にて逸見を討ち取るもその傷が深く亡くなってしまいました。遺体をこちらに運ばせて頂きたかったのですが、逸見残党が館に火をつけ、それも叶わず首のみの回収となってしまいました。申し訳ございませぬ。」
永禄1年1558年 5月 六角治頼
「そうか、逸見を討ち取った上での死ならば武藤殿も満足することができたであろう。この言葉公方にしっかりと伝えて、我が若狭武田を支えられる様に忠義に応えてやらねばな。」
治頼は報告を受けると、静かに頷いた。武藤の死は六角の策の一環であり、逸見との一騎打ちによって忠義を示す“演出”でもあった。公方に伝える言葉として「満足して死んだ」とすることで、武藤の忠義を最大限に美化し、孫犬丸の後継を正当化する布石となる。治頼は、政治とは物語を紡ぐことだと心得ていた。武藤の死は、若狭武田の再興と六角の後見を結びつける象徴となる。
「はっ!」




