141 若狭侵攻17
141若狭侵攻17
永禄1年1558年 5月 六角治頼
「敵の敵は味方よのう。」
治頼は、地図を見ながらぽつりと呟いた。戦国の世では、理念よりも利害が優先される。三好を敵とする者が六角の味方になるのは、当然の流れだった。だが、その関係は一時的なもの。治頼は、連携の先にある支配の構図を見据えていた。味方を増やすことは、敵を減らすことでもある。
「はっ?どう言うことにございましょうか?」
砕導山城を落とすためについて来た武藤殿が治頼のポツリと溢した言葉に対して反応する。
武藤は、治頼の言葉の意味を測りかねていた。忠義を重んじる彼にとって、「敵の敵は味方」という言葉は、少し割り切りすぎているように感じられた。だが、治頼の視線はすでに砕導山城の先を見ていた。
「いや、なんでもないことじゃ。それよりもあの城は後瀬山城よりも大きく堅固なのではないか?」
治頼は話題を切り替え、砦の構造に意識を向けた。後瀬山城よりも堅固な砕導山城は、逸見が築き上げた防衛の要であり、若狭の最後の牙城だった。
「はっ、逸見は戦上手な男、その居城たる砕導山城は我々も一目置かざるおえない規模の城砦群といえまする。」
武藤の言葉には、逸見への警戒と敬意が混じっていた。かつて同じ主君に仕えた者として、逸見の築いた城の堅牢さはよく知っていた。
「この規模となると少し時間がいるか。半蔵を呼べ!」
治頼は、即座に決断を下した。砦の規模が大きいほど、奇襲の効果は高まる。伊賀衆の訓練は、こうした場面のために積み重ねてきたもの。治頼は、半蔵の顔を思い浮かべながら、服部の者に伝令を飛ばした。戦術の鍵は、影の者たちだ。
「お呼びとの事で。」
「ああ、あの城、伊賀の力で落としたいと思っている。可能か?」
治頼の言葉に、半蔵の背筋が震えた。伊賀衆の力を信じてくれる主君は少ない。だが、治頼は違った。彼は、影の者たちの力を戦術の中心に据えることができる稀有な武将だった。半蔵は、命を懸けてこの作戦を成功させる覚悟を固めた。
「勿論にございまする!なんでも命じくだされ!」
「うむ、作戦は夜襲になる。そこで兼ねてからお前達に訓練させて来た作戦を実行に移そうと思う。準備をしてくれ。」
治頼は、地図を広げながら作戦の概要を語った。伊賀衆が訓練してきた夜襲戦術は、音と光を使った混乱誘導が中心となる。砦の複雑な構造を逆手に取り、敵の連携を断ち切る。治頼は、半蔵に全権を委ねることで、作戦の成功率を最大限に高めようとしていた。
「はっ!」




