135若狭侵攻11
135若狭侵攻11
「それと武藤殿をお呼びするのだ!」
「伊賀守様!手掛かりを手に入れたと伺いましたが本当でしょうか!?」
武藤は息を切らしながら駆け込んできた。その顔には、希望と不安が入り混じっていた。治頼は、静かに頷きながら、あえて少し沈黙を置いた。情報の重みを感じさせるためだ。武藤の目が治頼の顔を探るように動いていた。
武藤殿が伴を連れてこちらにドタドタとやってきていた。
「ああ、だが、情報を手に入れた直後に舌を噛み切って死んでしまってな…すまない。」
「なんとっ!いえ、手がかりを手に入れたのならばっ!」
「こちらを読んで頂きたい。」
治頼は、文を差し出しながら、武藤の手が震えているのを見逃さなかった。武藤は、文を読み進めるにつれて、義統の死が六角の正義によって裁かれたと信じ始めていた。治頼は、武藤の心が揺れるのを感じながら、静かに次の一手を思案していた。若狭は、もう六角の手の中にある。
永禄1年1558年 5月 六角治頼
「こんなことがぁ!こんなこと!許されるはずがないであろう!!!」
武藤の怒声は、広間の空気を震わせた。義統の死は、彼にとって主君を失った悲しみだけでなく、若狭武田の誇りが踏みにじられた屈辱でもあった。拳を握りしめ、今にも床を蹴って立ち上がりそうな勢いだったが、治頼はあえて止めず、武藤の激情が落ち着くのを待った。怒りの火が燃え尽きた後にこそ、冷静な忠誠が生まれると知っていたからだ。
「武藤殿、こうなったからには佞臣を討ち果たし本来の若狭武田を取り戻すのだ!そのためにもお力を貸してくれるな!」
治頼の声は、武藤の怒りに寄り添いながらも、次なる目的へと導く力を持っていた。義統の死を悲しむだけでは何も変わらない。逸見という裏切り者を討ち、若狭武田の名誉を取り戻すことこそが、武藤に課された使命なのだ。治頼は、武藤の忠誠心を巧みに利用しながら、六角の秩序へと引き込もうとしていた。
「勿論にございまする!!!!ただ、孫犬丸様はどうなりまするか…。」
武藤の声には、怒りとは別の震えが混じっていた。それは、主君の血を引く孫犬丸の行く末に対する不安だった。忠義とは、主君だけでなくその子孫にも向けられるもの。武藤は、孫犬丸が政治の犠牲になり、寺に幽閉されたり命を奪われたりするのではないかと恐れていた。彼の忠誠は、まだ終わっていなかった。
「私がここにいたのは信豊殿から、若狭を一つに纏めて欲しいと依頼があって動いております。信由殿を若狭武田の当主にすることではございませぬ。そのあたりはそちらで話し合って貰えればと思いまする。」




