134 若狭侵攻10
134若狭侵攻10
武藤殿に先導してもらい今日は後瀬山城を拠点とする事に専念し、牢に半蔵と二人で向かい誰も近づけないように服部一党のものに周辺を見張らせる。
「おい、喋れるか?」
牢の中にいた男は、痩せこけてはいたが、目には確かな意志が宿っていた。治頼は、その目を見て安心した。彼は、命を賭けてこの役を演じている。治頼は、忍びの献身に報いるためにも、最後までこの芝居を完遂する覚悟を新たにした。戦は、刀だけでなく、言葉と演技でも勝つものなのだ。
「はっ、大丈夫にございまする。」
牢に入れられていたものは手荒な真似はされなかったようだがまともな扱いは受けていなかったようで少し痩せているようだった。
「半蔵、こやつがそうか?」
「はっ」
「うむ、では手当てをして飯を食わせてやれ。」
治頼の言葉には、冷静さと温情が混じっていた。忍びに対する感謝は、六角家の信義の証でもある。半蔵は黙って頷き、すぐに手配を始めた。牢の中の男は、治頼の言葉に目を潤ませながら、静かに頭を下げた。彼にとって、この一言が何よりの報酬だった。
「俺は文をもらって仕上げに移ろうと思う。」
「承知致しました。」
牢に入れられていたのは事前に仕込んでいた服部の配下であった。
「こちらになりまする。」
文を受け取った治頼は、丁寧にそれを開き、内容を確認した。そこには、義統が六角の介入を恐れて暗殺されたという筋書きが記されていた。治頼は、文の筆跡や言葉遣いまで細かく指示していたため、違和感は一切なかった。これで、若狭の混乱は六角の正義によって収められるという構図が完成する。
「うむ、辛い任務であっただろう。これで六角が若狭を手に入れられるのだありがとう。」
膝をついて捕まってくれていた忍びの肩を叩き感謝の言葉を伝える。周りの忍び達は驚いているようだ。それに目の前の忍びも目を潤わせていた。
「おそれ…いりまするっ!」
忍びの声は震えていた。彼は、命を賭けてこの任務を果たした。治頼は、その肩をもう一度叩き、静かに頷いた。周囲の忍びたちも、主君の言葉に驚きながらも、誇りを感じていた。六角家は、忠義に報いる家である――その信念が、ここに確かに息づいていた。
「よし、お前達はすぐに死体を偽造しろ!」
治頼の指示は的確だった。服部一党はすぐに動き、舌を噛み切ったように見せかけた死体を用意した。血の量、顔の表情、衣服の乱れまで細かく調整され、誰が見ても本物にしか見えない。治頼は、武藤が来る前にすべてを整えるように命じ、陣幕の空気を張り詰めさせた。




