129若狭侵攻5
129若狭侵攻5
永禄1年1558年 5月 浅井治政
「武士の底力を見せるのだ!!」
大倉見城の最後の城郭へと攻めかかると先ほどの雑兵達とは違う気合の入った武士達が覚悟を決めた顔で刀を構えていた。
治政は彼らを見て前に出る。勿論兵達が守れる範囲にはいるが、お互いに顔を確認できる距離だ。
「待つのだ!熊谷一党の武士としての意地と忠誠は見せてもらった!その上で聞く!六角の元で日の本の民のために力を振るう気は無いか!我々に直接仕えるのが不満だと言うなら近江熊谷党の元で何か手に職を持つと言うのでもいい!無駄な争いはしたく無いのだ!」
治政の本心であった。尊敬する主君であり、心の中で兄のように思っている治頼が父である久政を助けた時に感じたものやこれまで六角で学んできていた民を大切にする考えが今の治政の内容を出させた。
「…我々はここを守る事に対して誇りを持っている!そこまで言えるお主ならばわかるだろう!?武士の心意義を!!」
多分、城主であり武田四天王である熊谷直之だろう。精悍な顔つきでこちらを睨みつけている。
「分からない訳がないだろう!だが!一度近江国を見て欲しいのだ!その上で武士の心意義が忠誠に殉じて死ぬ事だと言うならば俺が皆の前で一騎打ちをしよう!必ずや本懐を遂げさせてやる!だから今は!」
熊谷直之の持つ刀が震えている。カタッカタッと音がこちらに聞こえてくる。迷っているのだろう。
治政は、刀の震えに熊谷の誇りと苦悩を感じ取っていた。死を選ぶことで忠義を示すか、生きて民を守るか――その選択を、治政は真正面から受け止めていた。
「俺を信じて降ってくれぬか!」
ガチャリ
刀を地面に落とした熊谷直之は顔を俯かせる。
「…皆のもの!今の言葉を忘れるでないぞ!熊谷直之は浅井治政に降る!」
兵たちは一瞬沈黙したが、すぐに「おお…」と安堵の声が漏れた。命が助かること、そして誇りを失わずに済んだことに、熊谷一党の面々は静かに涙を流していた。
ここに大倉見城の戦いは終結した。そのまま熊谷一党を丁重に扱った治政は大倉見城を接収し、兵達を休ませた上、持ってきていた兵糧を大盤振る舞いし大倉見城へ詰めていた兵達にも施しと休息を与えた。
治政は、兵糧の配分においても熊谷一党を優先し、彼らの名誉を守った。その姿勢は、六角軍の他の将兵にも伝わり、「治政様の元ならば民も武士も救われる」との声が広がっていた。




